シゲコです
物見に選ばれたのは兵士二人と魔術師がひとりだった。
鎧姿の二人と黒衣姿がひとり、それぞれウマに乗った三人新街道の途中で立ち止まる。
「なんだあれは」
「女……のようですな。ということはカーキ=ツバタの者か」
「にしては薄着ですな。白い布一枚のような姿、あれは旅の者ではなさそうですな」
「ということは、様子見が襲われたという精霊とやらかな。如何です魔術師殿」
黒衣の男が女をじっと見たあと、首を傾げる。
「たしかに精霊のようです。だがめずらしく実体がある、これはどういうことだろう」
森からかなり離れた草原でひとりだけ立っている軽装の女。
不安要素が残るが、会ってみなくてははじまらないと、魔術師は後衛として残り、兵士二人でそばにより話しかける。
「精霊と見たが、言葉は分かるか」
「ええ。あなた方はどちら様ですか──でしょうか」
「海神ファスティトカロン帝国の使者だ。あの森を駐屯地にするからそこをどけ」
「私はこの森の主、クチキ・ユグドラシル・シゲ──コです。旅人として休まれる、通り過ぎるのは許しますが、駐屯地にするのは許しません。お引き取りを」
なるだけ自然に、余裕をもって言ったつもりだが通じだかな。
それにしてもこの格好でやるとは思わなかったな。
※ ※ ※ ※ ※
──少し前、ペッターが指差した物、それはアディの壱号機躯体だった。
実体をみせて交渉するとなると、どうしても必要なので仕方無く憑依してアンナ達の後援部隊のところに行く。
「アンナ、とりあえずこれでいく。このあとどうすればいい」
「え、あ、アディなの」
「違う違う、オレだ、クッキーだ。アディのマリオネットに憑依しているんだ」
「ク、クッキーなの」
驚くアンナを見て、そんなにアディに似てるのかなと思い、カメラツタで自身を映してテレビで確認する。
黒髪ショートで黒い瞳、顔立ちはアディのようにメー○ルみたいだが、眉が凛々しい。イケメン男子っぽい。
身体つきはいつもどおりスレンダー、マリオネットの特徴そのままで、服装は白いロングワンピースか。
しげしげ見ていると、ゾフィが言う。
「たしかにクチキ殿のようだな。どうしてその格好なのだ」
「分からないけど、たぶん躯体が女型だからかもしれない。それより今は対応の方が先だ、どうすればいい」
アンナはシンシアに指示するようにうながす。
「女性型なら精霊王より精霊女王としての威厳を演出しましょう。見た目をもっと女王らしくみせて、やんわりと断わる方向でいきましょう」
そこで裸体に何の変哲も無い白い布をまとい、いかにも自然の存在という格好をして森の端まてやってきたのだ。
※ ※ ※ ※ ※
「精霊ごときが」
兵士のひとりがボソリと呟いたのを聴き逃がさなかった。
アディだったら、これでもうキレてただろうな。
「なにかおっしゃいましたか」
「この駐屯はもう決められたことだ。これは頼み事ではなくただの通達にすぎん」
軍はただ押し通すのみ、って感じだな。さてと、どうしてやろうか。
足もとの草をざわざわと動かせる、いちおう警告だ。
「おやめなさい」
兵士達の後ろにいる黒衣の男がそう言うと、草がぴたりととまる。
──クチキ殿、そいつは魔術師のようだ。精霊力を使うと感づかれるおそれがある──
オレを通して画像と音声を森の北端で受けとるアンナ達から、デンワツタを使って情報を伝えてくれる。
──使っちゃダメかな──
──危害の可能性ありで襲いかかってくる場合がある──
──それなら……イツハ、風上からヨッパライ草を咲かせてくれ──
──は~い、お父様──
森の南部担当上級ドライアドであるイツハに、感づかれない離れた所からヨッパライ草を探せて花粉を飛ばす。この花粉を吸うと酔っぱらいのようになるのだ。
オレたちのいるところへ花粉が届くと、二人はふらふらし始める。
「な、なんだ……きゅうに眠くなってきた…ぞ…」
「お、おれもだ…な、なにを……」
最後まで言えずに兵士二人は眠りこけてウマから落ちる。乗り手を失ったウマ二頭はふらふらと何処かへ歩き出しいなくなった。
だが、魔術師とそのウマは変わらずにいる。
「ふむ、ヨッパライ草か。世界樹を名乗るわりには小細工をするな」
「ただの警告です──わ。こちらとしては争いたくはありません、お引取りを」
ホントに帰ってほしいんだが、やっぱり動かない。
「子供の使いではないのでな、はいそうですかと引き下がれぬのよ。あらためて訊ねるが、駐屯の許可はもらえぬのかな」
「ええ」
「ならば、まずは貴女を排除しよう。理由は我軍に害をなす存在だからだ」
そう言うと魔術師は何やら呟きはじめる。初めて聞くがどうやら呪文らしい。うわぁ、ファンタジーの世界にどっぷり浸かってたのに、初めて聞いたぁ。
「火竜の息吹」
魔術師の手前から魔法陣が現れ、そこから火炎柱が向かってきた。
足もとの草を手前から一気に成長させ、火炎攻撃に向かって分厚い壁を創る。火竜の息吹はそれらを焼き尽くすが、オレには届かなかった。
「ほほう、なかなかやりますな。名乗らせてもらいましょう。リュキアニア王国最強の魔術師、ヤラン・レーヤク、いざ参る」
──名前を聞いて絶対に勝てる気がした。
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