天才万能職人とブラジャー
「海神ファスティトカロン帝国の概要を説明します。現在の帝国の規模は面積でいうと、カーキ=ツバタ王国の五百倍程で、経済・防御・攻撃力にいたってはその百倍を超えるでしょう」
──いきなり心が折れる言葉だな。
「支配地の国や領地はまだ自然がありますが、帝国の首都周辺は人工物で埋められていて、ほぼ緑というか自然がありません。ゆえに精霊への感謝が皆無に近いのです」
シンシアの淡々とした説明を聞きながら、前世の世界を思い出す。
マグロの切り身が泳いでるとかツナ缶がそのまま海で穫れるとか思ってる子供がいたよな。
テレビなどのメディアが発達した前世では収穫の情報が手に入るが、ミスマではそれがない。
だから都心部の連中は自然の恩恵の象徴である精霊を軽んじるのか。
「だがしかしそれは中心部の連中なのだろう、周辺や辺境はそうではあるまい」
一縷の望みで反論してみたが無駄だった。
「たしかにそうですが、それは期待しないほうがいいでしょう。帝国に従う姿勢を見せねば反逆の意思ありと判断されかねませんから」
──長いものには巻かれろか。強いヤツと恐いヤツには従った方がいいもんな。
「つまり、精霊の聖域だからといって遠慮するような連中ではないということか」
「むしろ支配しようとするでしょうね」
無理ゲーじゃね?
ムチャクチャ強いヤツがナメて潰しに来るんだ。それを弁舌で丸めこむって、無理じゃね?
オレだけじゃなくアンナ達も沈んだ気持ちになって、空気が重くなった。
「シンシア、もう少し明るい話題はないの」
「砂海に落ちた涙を探す方が、可能性がありますかねぇ」
あくまでも冷静に第三者の目で語るシンシアに少々ムッとしたが、当たってもしょうがない。
その時、ノックがありヨセフが入ってくる。
「失礼します。そろそろ昼食の時間ですので用意したいと思いますが、如何でしょうか」
その言葉にアンナが助かったとばかりに頷く。
「そうね。いったん頭を切りかえましょうか」
「かしこまりました。良い天気ですので、外で召しあがりましょう。クチキ様はどうなさいます」
「オレは──いえ、私はけっこうです。マリオネットを戻してから御相伴にあずかりましょう」
「わかりました。レディ・アディはどうします」
「あー、アディも食事が出来ないので、休憩させてやってください」
「そうですか。食事のマナーを教えるいい機会でしたので残念です」
ヨセフはがっかりしたが、アディはこれ幸いと早速精霊界に戻ってくる。
「それでは食事にしましょうか」
アンナの言葉に皆が頷いて、席を立ち外に出る。
「さて、それじゃオレはペッターに会ってからユーリのところで様子をみてくる。アディはどうする」
「一緒に行く」
不必要にくっついてくる。どうやらヨセフの教育がよほど厳しかったらしいな。
※ ※ ※ ※ ※
聖域庭園の地下空洞にもどると、ペッターがなにやらゴソゴソと広げている。
「ペッター、なんだいこれ」
「ん、戻っていたのか。エルフに頼んで仕入れてもらったものだ」
それをアンナ達が持ってきてくれて、アディが受け取りペッターに渡したそうな。
「例のビキニアーマーを作るには必要なアイテムの宝珠の材料だ。この鉱石を磨いて珠にして精霊力を込めると宝珠になる」
「木造り職人なのにやれるのかい」
「オイラを誰だと思ってる、天才万能職人のZ・ペッター様だぞ。それくらい出来るぜ」
「へいへい。こっちはまだ片付いてないから、任せるよ」
「その方がいい。クッキーが手伝うとろくなことがない」
3Dプリンタの件を持ち出したので、ぐうの音も出なかった。
「とはいえ、いいモノを造ってくれたな。それだけは礼を言っとくよ」
「お、めずらしい。ペッターが礼とは」
「異世界のデータ観せてもらったろ。あれであのオモチャの使い方を知ったんで、あのあと遊んでみたんだ。やり方を間違えなければ役に立つ。天才万能職人のオイラだから有効に使えるということだ」
「好きに言えよ」
ペッターは遠慮なく言うので、こちらもぞんざいな言い方になる。ま、男同士の会話なんてそんなもんさ。
だが、広げたアイテムに見慣れない物があったので訊ねる。
「ペッター、それって……ブラとパンツなのか」
どう見ても女物の下着が数点、無造作に置いてある。
「ああ。エルフが送ってきた」
そう言うと、メモをこちらにみせる。それにはこう書いてあった。
“ペッターへ
お望みの女性アシスタントはやはり無理なので、代わりに王宮で採寸したサイズと身体にフィットした下着を送る。
それでビキニアーマーのサイズ合わせをしてくれ。
追伸
クッキーに見せるなよ”
って、見ちゃったよ、おい。
「ペッター、ユーリは見せるなって書いてあるじゃないか」
「オイラは見せてない。クッキーが勝手に見たんだ、これは事故だ、だからオイラのせいじゃない」
「いや、見せるなというんだから、隠せよ」
「聖域庭園のどこに隠したらクッキーの目を盗めるというんだ。ゴタゴタ言うな」
あのなぁ……。仕方ないか、あとで謝ろう。
「それにしてもすごい緻密だな、このブラジャーとやらは。ふつうは布で抑えるだけなのに、こんなカタチで収めるんだな」
まじまじとブラジャーを見てるペッターに、アディはドン引きしていた。
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