ミッション1つ終了
王宮に戻ると、ユーリはあてがわれた部屋に入る。
そこには天蓋付きのキングサイズベッドが追加されていた。
「やれやれ、いつでも軟禁できるぞと言わんばかりだな」
そう言って部屋を見まわす。
北側に出入りする扉があり、東と南には窓がある。西側は全体石造り壁面で乳白色で塗られている。
床は木製で足音が響く、聞き耳をたてられたらすぐに分かるようだ。
ユーリはかまわず歩き回り、ソファセット、デスクとイス、新たに追加された天蓋付きのベッドも調べる。
最後に西の壁にもたれかかり全体を確認する。
「たしか五階だったな、ここは。さてさて、万が一の時はどうするかな」
ノックの音がして、ユーリが扉を開けるとそこには侍女がいた。
「ユーリ様、晩餐は中庭でアンナ王女様とのことです。なので御召し物はそのままでよろしいとのことです」
晩餐も交渉すると思ったので拍子抜けしてしまったが、承ったと返事をする。
※ ※ ※ ※ ※
侍女に案内され中庭まで来ると、アンナ王女が軽装でテーブルの前で待っていた。
「ようこそユーリ様、今宵は料理長が目の前で調理したものをいただく趣向となっております」
「それは楽しみだな」
篝火の中、目の前で食材が調理されていくのを見ながら食べるというのはあまりなく、ユーリは興味津々に見る。
出来上がった料理は横長のテーブルの上に置かれ、アンナと横並びに座り給仕された料理を食べると頬が緩んだ。
「美味しいですねユーリ様」
「そうだな」
楽しく食事をすませると、料理長達は調理道具を片付けながら席を外す。
残ったのはアンナ王女とユーリの二人だけだった。
「ユーリ様、差し出がましいかもしれませんが、あらためて援助の件、私にやらせていただけませんか。まだまだ未熟なのはわかっていますが、次期女王として教育は受けております。親衛隊には交渉の仕事をしている者もいます。チカラになれると思います」
「それはアンナの考えなのか、エルザ女王に背くことにならないか」
「説得してみます。ユグドラシル樹立国を抜ければ、今度は我が国に脅威が迫ってくると伝えれば、わかってくれます」
「ふむ……、それだけか? 他にも思惑がありそうに見えるが」
ユーリの試すような視線にたじろぐことなく、アンナは言葉を続ける。
「じつは……アンジェリカ姉様が心配で……。カリステギア王国の第二王女で、私とたいへん仲の良い方でした。それが帝国の人質としてみずから赴いたのです」
「ほう、カリステギアの事は聞いている。カーキ=ツバタと親戚関係にあるらしいな」
「はい。ですから帝国からの軍勢が来たとき、我が国も援軍を送るかどうかと会議をしておりました。ですが、カリステギアは降伏を選択しアンジェリカ王女を差し出すことで和平に持ち込んだのです」
「第一王女でなく、第二王女で帝国はよく応じたな」
「アンジェリカ姉様はとてもお美しくて、あの方を手に入れるために帝国は侵攻したのではとも言われるほどですから」
「アンナより美しいのか」
「あの方には足元にも及びませんわ。帝国とうまく交渉できれば、姉様のことも知ることができるかもしれません」
ユーリはアンナの目を見て、真剣な思いで話していることは理解した。
「ふむ……、我らは援助を受けられるし、アンナにも利点があるか……。ならばその話」
「はい」
「断らせてもらおう」
**********
「──そうか、断られたか」
寝室のベッドで横になりながらアンナからの報告を聞き、ふふっとエルザ女王は笑う。
「さすがは大賢者と謂われるだけのことはあるな、こちらの思惑はお見通しということか」
むすっとした感じでアンナは続ける。
「あれを言われたとき焦りましたわよお母様、絶対受けてもらえると信じていたのにぃ」
「結果的には受けてもらえたのだろう、良かったではないか」
「そうですけどぉ──なんか悔しい、してやられた気持ちぃ」
じたばた手足をバタつかせる娘を愛おしく見つめ、エルザは嗜める。
「落ち着きなさいアンナ、ヒトの上に立つ者はみだりに感情をみせてはいけません」
「今はお母様とふたりだけだからいいでしょ、まったくもう、悔しい悔しい悔しいぃ」
「たとえそうだとしてもです。今宵はもう遅いから下がりなさい、明日はシンシアとエニスタとともに来るように」
まだまだ甘えが残る娘を叱咤しなければならない──エルザはこれから来るであろう嵐に備えるためには、どうしてもやらなければなかった。
********
部屋にもどったユーリは、用意された寝間着に着替えると、ベッドに潜り込む。
「やれやれ茶番劇だったが、とりあえず目的は達したな。明日はペッターの頼まれごとに費やすか」
独り言のあと、寝入ろうとしたときだった。
「ユーリ、ユーリ、聴こえるかい」
耳元でかすかに呼ぶ声が聴こえる。
精霊かと思ったが、城壁内は限定対魔術結界が敷かれているし、王宮内はさらに強力なモノが張られているのは感じている。
「呼んだか」
とりあえず返事をしてみると、意外な返事がくる。
「オレだ、クッキーだよ」
「クッキー?」
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