ギルドからの情報
「──しばらくギルドに関わってなかったが、母体は商人の共同体で、各地の村や国の流通が目的だったはずだ。ならば帝国にもあるだろうし、商売には情報が大切だろう、国家間の公式情報以外があるかなと思ってきたんだが」
「……たしかにそうです。のちに商売相手の拡大と開拓のために、未開の地を調べてまわる冒険者という職業がうまれました。ユーリ様もそのひとりでしたね」
「そうだな、そして職業の細分化、登録制となり所属証明のプレートができたわけだが──話せないのか」
話題を変えようとしたギルマスに、鋭い目で問い返す。
「申し訳ありませんが、今のユーリ様のお立場をお教え願えませんか。伝説の人物が急に現れて、いきなり情報を教えてほしいと言われましても──こちらにも立場があることをお察しください」
言われて気がついた。たしかにそうだと。
「そうだな、すまなかった。意外と焦っていたな。──じつは今、ここから西にある森に住んでいるのだ。カイマ襲撃事件はたまたまここに来ていたときに巻き込まれたんだが、そのときに王族と知り合いになった」
「はい、存じております。女王様をお護りになったんでしたね」
「その後、調査隊の協力をしてから森に戻ったんだが、あそこはオアシスがあって商隊が立ち寄る。そこで聞いたのだ、近々帝国がカーキ=ツバタ王国に侵攻しようとしていると」
「そんな噂が流れているんですか」
本当はモーリから聞いたのだが、伏せておくことにした。
「ああ。もし本当なら森にも侵攻されるかもしれないだろう、だから訊ねに来たんだ」
「そういう理由でしたか。すいません、ギルドとしては戦争には関わらないというのを建て前としてますので、ユーリ様の立場を明確にしないと話せませんでした」
──建て前としてはね──
戦争は大きな商機だ、ギルドが関わってない筈はない。
──女王と知り合いなのが知られているから、何か探りに来たのかと思われていたか──
「なにか知っているのか」
「帝国はすでに侵攻の準備に入ってます、最近あったカリステギア王国侵攻は、カーキ=ツバタを狙うためだといわれてます」
「なぜ、この国を狙ってるんだ」
「いろいろありますが、ギルドとしては食糧問題のためとみています」
「食糧問題? 帝国は食糧不足なのか?」
「この100年、戦乱が続いてましたからね。征服した国から物資や労力を奪って、その場しのぎの景気回復をしてましたが、最後の一国であるカリステギア王国を征服して統一してしまった以上、どこからも奪えない」
「……帝国は西に侵攻していると聞いたが」
「それは食糧ではなく、労力が目的です。西に住む獣人族を奴隷にして労力不足を解消しようとしてます」
「カーキ=ツバタはそんなに栄えて見えるのかな? それとも帝国はひっ迫していて、どんなに小さくてもいいから征服しようとしているのかな」
ユーリの疑問に、ギルマスは首を振る。
「目的は東の大草原です。手つかずのあの土地を手に入れて農地とし、帝国の巨大食糧生産地としたいのです」
カーキ=ツバタ王国の東には大河があり、その向こうには大草原が拡がっている。
たしかにそこを開拓して農地にすれば、かなりの食糧が手に入るのが期待されるだろう。だがしかしである。
「あの辺りはカーキ=ツバタのものだろう、いくらなんでも大義名分が無いと奪うことはできないぞ」
「明確にカーキ=ツバタのものとは決まっていない、というのが帝国の言い分です」
この言葉にユーリは考える。
──カイマ襲撃に備えて、というかヤツラの届かないところまで逃げて建国されたというのを、遠くにある帝国は知らないのは当然か。
しかも100年も前ともなれば短命なヒト族でははるか昔のことなんだろう。現に当事者の子孫であるカーキ=ツバタ王国の連中だってそうだったんだから──
「ということは、あの辺り一帯を自国のものと王国は定めてないんだな」
「はい。どういうわけか」
「ふむ」
憶測で思いつくことはあるが、ここで話すことはないだろう。
ユーリはそう思って、話を切り上げることにした。
「ギルマス、突然訪ねて話を聞かせてもらって悪かった。今日はこれで失礼するとしよう、宿をさがさなくてはならないのでな」
「まだ決まってないのでしたら、ウチに泊まりませんか」
「いいのか」
「いっときカイマ襲撃事件を当て込んで冒険者や戦士が来ましたが、全然来ないので皆さん帰ってしまいました。なので部屋は空いてます」
「……ならば泊まらせてもらおう。いちおう3日のつもりだが、長ければ7日ほどになるかもしれん」
「わかりました。では部屋を案内します」
壁に備え付けられた呼び鈴の紐を引っ張ると、先ほどの受付嬢がやってくる。
「ユーリ様がお泊りになる。部屋を用意してやってくれ」
受付嬢は頷いたあと、少し時間がほしいと言う。
「なら、どこかで食事をしてくる」
「かしこまりました。ユーリ・アッシュ・エルフネッド様」
ギルドマスターは、うやうやしくそうこたえた。
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