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世界樹転生 異世界支配とビキニアーマー開発史  作者: 藤井ことなり
帝国との触発編
33/143

前章のあらすじ

新章[爆誕 精霊型ビキニアーマー]のプロローグです。

 オレ達のあいだには不穏な空気が漂っていた。

 一触即発の睨み合いではない。互いに別の事に集中していて、それぞれが上手くいってないからだ。


「ダメだクッキー、どうしても上手くいかない」


「こっちもだ。こりゃあ手間と時間がかかるぞ」


 オレ達の弱音が地下工房に響いた。


 ここは[世界樹の森]。世界樹(オレ)を中心に成り立つ広大な森である。

 200年前、オレは過酷な環境の大砂漠ビザトラで次期世界樹候補として転生し芽生えた。

 努力と運と手助けのおかげで、ひとつの生態系が成り立つ森世界樹庭園(マイガーデン)と、自身を天を衝くほどの大樹を形成することに至った。


 その世界樹の根本の地下に、これまた広大な空洞を形成し居住区と、そこの一部の工房でオレ達は作業をしているのだった。


 ひとりはオレ、クチキ・ユグドラシル・シゲル。

 通称クッキーという世界樹(候補)として異世界から転生してきた元システムエンジニアである。


もうひとりは、ズィー・ペッター。ヒト族とドワーフ族のハーフで、自称天才製作者。

 技術者集団[ユニオン]で最高位の称号・ズィーを冠する、あらゆるタイプの道具を作る技術屋である。


 オレ達が何をしているかというと、少し前にカーキ=ツバタ王国からの賜物された神器、ビキニアーマーを自分達の手で複製、さらには改良しようとしているのだった。


 神器ビキニアーマーはペッターの努力により、解体して仕組みはだいたい理解したのだが、それの複製に手間取っていた。

 というのも、このビキニアーマーというのは神霊族が人間に憑依して、その神霊力[スピリッツ]を引き出すための神器なのだが、精霊族に属するオレ達にはその真価を引き出せず、装着者の一部を守るただの防御力の低い鎧となっているのだ。


「たぶんそれが解っていたから、女王陛下は下賜してくれたんだろうな」


使えないと判ったとき、オレはそう呟いた。


 しかし自称天才のペッターはさすがである。分解してアーマーの中に刻印してある紋様(パターン)を神霊紋様から精霊紋様に書き換えれば、精霊用のビキニアーマーができるところまで突き止めた。


 転生前の記憶のあるオレは、前世の職業であるSE(システムエンジニア)の知識と経験で紋様の解析をしようとしたが、現状そこに手間取っている。


 ペッターの方は、それを使う予定の高位樹木精霊(ハイドライアド)のアディと森の妖精(エルフ)のユーリのリクエストで頭を抱えていた。


 どちらも女性型で美しくて格好良いデザインを求めながら、頼まれた機能を収めろと言われているのだ。

 それなりにデザインスキルはあるのだが、機能とのバランスがどうしてもとれなくて、ついに音を上げてしまったのである。


「どちらにしろ、紋様を解析しないと進まない。クッキー、まだできないか」


「すまん、なにせ転生してから200年経っているからなぁ。カンが鈍っていてなかなか閃かない」


そう、解析というのは知識と経験だけでなく、それに基づいた閃きというのが必要なのだ。

 機械文明の無い異世界のうえ、人間どころか動物でもない植物に転生して200年。

 カンが鈍っているどころではない、忘れているのだ、うまくいくわけがない。


※ ※ ※ ※ ※


「どうしたのー、出来上がったのー」


工房の上の階にいた、アディとユーリが降りてくる。


 声をかけながら先に降りて来るのがアディ、にぎやかな性格のわりにスレンダーで清楚に見えるスタイル、足首まである銀髪(シルバー)を揺らしながら弾むように降りてくる。

 異世界から世界樹に転生してきたオレの担当で、共に200年かけて成長したバディである。


 その後から物静かで思慮深い性格そのままの落ち着いた足取りで降りて来るのが、ユーリ。

 腰まである金髪(ブロンド)と均整のとれたアスリート系ナイスバディに長耳が特徴だ。

 もともとは旅人で、あちこち放浪していたのが、数年前から世界樹の森に住み着いている。


「苦労しているようだなクッキー」


「まあなユーリ。アディ、ペッターを責めるなよ、オレの仕事が済まないと動きようがない」


 精霊用ビキニアーマーは、もともとアディが欲しがっていたのだが、ユーリのためにも作っている。

 というのも、精霊のアディは女神族信仰のカーキ=ツバタ王国女王親衛隊隊長のゾフィと張り合っているようで、彼女に負けない装備が欲しいらしい。


「なによクッキー、まだ手間取っているのぉ。世界樹候補なんだから、ちゃちゃっとやっちゃいなさいよ」


簡単に言ってくれるぜ。

とはいえ、オレもすぐにできるとたかをくくっていたから、文句も言えんな。


「……やはり過去の記憶整理が必要だな。いちど木製躯体(マリオット)から離れて本体にこもって前世を思い出さなければ」


「なによクッキー、まだやってなかったの。もうとっくにやっていると思ってたのに」


 オレもそのつもりだったさ。だが、周囲状況がそうさせてくれないんだよ。


※ ※ ※ ※ ※


 現状を再確認する。大砂漠ビサトラは前世でいうところのアラビア半島くらいの大きさだ。

 砂漠の周囲には河川や緑があり、ところどころに知的生命体が生活をしている。先ほどから言っているカーキ=ツバタ王国もそのひとつだ。それらの国や集落は砂漠のおかげで交流が困難である。

 不便ではあるが、逆にいえば侵攻もしづらいので争いが起きなかった。


 だが、オレが世界樹の森を拡げていく過程で砂漠の面積が減っていき、オアシスができたのておかげで交流しやすくなった。それは同時に侵攻もしやすくなったということだ。


 砂漠の南にある海洋帝国が、東にあるカーキ=ツバタ王国に侵略戦争をしかけるという噂話が流れはじめている。

 王国は知らぬ仲ではないし、なによりオレが森を拡げたというのが原因の一端というのなら、無視するわけにはいかない。


 いつなんどきでも対応出来るように、本体の世界樹でなくマリオネットに意識を移していたい。それにだ。


「ああそうだ、クッキー、モーリが話があると会いたがっていたぞ」


 ユーリの言葉に、オレは分かったと返事をする。

 のんびりと植物としての支配地域を増やしていたが、知的生命の社会に関わってから、このように周囲状況に振り回されるようになってしまったのだ。


お読みいただきありがとうございます。


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