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世界樹転生 異世界支配とビキニアーマー開発史  作者: 藤井ことなり
カーキ=ツバタ王国編
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拡がる世界

 地上に出て、茨の結界を抜けてしばらく歩いたところで、ユーリは立ち止まった。


 オレが顔を向けると、ここらでいいだろう という顔をしてうながす。


「わかってたのか」


「まあな」


 熟年期の老夫婦とかニュータイプ同士みたいな会話だが、オレとユーリだけならこれで通じる。


「ゆうべカイマが来てな、伝言と手紙を預かっている。ケーナは生きているらしい」


「……そうか」


 思ったより驚かないから、予想していたのか訊いたら、そうじゃなかった。何度も偽情報や噂の間違いに踊らされたので慎重になっているそうだ。


「かなり低いが、もしかしたら同じ名前のエルフかもしれないからな。ちゃんと確めるまでは落ち着いていこうと決めたんだ」


 その言葉を聞いて、やはりそうなるかとオレは思った。


「本当はこの事をユーリに伝えるかどうか迷ったんだ。それどころかむしろ話したくなかった」


「どうして」


「ユーリが森から出ていくのがわかるからさ。ここに来たのも、その為なんだろう? トテップ族の大繁殖期が近づいたから、拠点になるところが欲しかったから、カーキ=ツバタに近かったから、だろう? その事にはなんとも思っていない。むしろそのおかげでユーリに逢えたからな。でも」


思わずユーリの両腕を掴む。


「それが理由で、今度は出ていくだろうと解ってしまうんだ。そしてこの手紙が、これを渡したらそうなると。オレが今やっているのは子供じみているのも自覚している、好きなコが家に来て、帰って欲しくないから靴を隠すような真似をしていると分かっていても、大好きなユーリにここに居て欲しいと思っているから、だから、ユーリ、その、」


「クッキー、近いよ、」


 感情的になりすぎたらしい、いつの間にか頬を薄紅に染めたユーリの顔が目の前にあった。慌てて離れる。


「はっきり言葉にしてくれると、嬉しいものだな」


 少し照れくさそうに横向きながらユーリが言うと、言葉を続ける。


「心配しなくても、まだここに居るよ。クッキーの餞別をもらうまでな。さっきのビキニアーマー、私のためにも作ってくれるつもりだろう? ダークボトムに行くには、情報も装備も足りなさ過ぎる。慌てて獲物を逃すような真似はしない、それに……」


 私も靴を隠してくれて良かったと思っている、そう言われた時、自然と抱きしめ、それに応えてくれた。


「──ここを帰るところにしたい」


「──もちろんだ」


 ユーリが今まで生きてきた目的は、ケーナに会うことだ。それを止めることは出来ない。


 今までなんとなく森の拡大をして次期世界樹を目指していたが、確固たる目標ができた。

 ユーリとケーナが安心して会えて暮らせる世界にしよう。

 まずは河向こうの東の大地に森を造ろう、そして[大地の嘲笑い]からダークボトムの中に安全なところをつくる。ユーリのために。


よし、行動だ。


ユーリをもう一度抱きしめてから、オレはモーリのところへ駆け出した。


※ ※ ※ ※ ※


 森の東端まで来ると、馬車の交換が終わっていて、新しく持ってきた大型馬車と馬を1頭残して、他は居なくなっていた。


 今まではモーリが寝泊まり出来るくらいの大きさだったが、新しく来たのは応接室、執務室、居室があり、領事館としての機能は十分果たせる代物である。


 中に入ると、モーリが荷物の整理を終えて、休憩しているところだった。


「お待たせ、モーリ。話の続きをしようか」


「何かありましたか、クッキーさん。ずいぶん気合いが入っているようですが」


「ちょっとな。それで計画っていうのは?」


 執務室に案内され、中央にあるテーブルの上に、先程見せようとしていた紙が置かれていた。


「これはこの辺りの地図です。世界樹の森を中心にした物を本国に発注しておきました」


 測量技術はまだあやふやなのだろうが、江戸時代に歩いて日本を測量した人くらいの出来か。大したものだ。


 アラビア半島みたいな形の砂漠が中心にあり、北側は草原が拡がり、さらに北には山脈がある。

 西側は湿地帯かサバンナらしく、その向こうも山脈がある。

 東側はお馴染みのカーキ=ツバタ王国と河、東の草原に[大地の嘲笑い]、山脈があり、その向こうは海のようだ。

 そして南側は巨大な国らしきものがあり、海に面していた。


「この辺りは正式な名前はありませんが、便宜上[東方辺境地]と呼ばれています。それでこの砂漠を中心に東西南北それぞれに、独自の文化圏があります。


南の海神ファスティトカロン帝国

北の遊牧民連合国家

西の獣人族盟主連盟

そして東のわが国カーキ=ツバタ王国


カーキ=ツバタ王国は、残念ながら他国では文化圏扱いされてません。小国ですので」


「それぞれの文化圏は交流はあるのかい」


「ほぼ有りませんでした。今までは」


「と言うと」


「南の海神ファスティトカロン帝国が、東方辺境の統一を宣言して侵略行為をはじめたんです。もともと海洋貿易の商業国家だったんですが、大型の船を造る技術を手に入れたらしくて、国力がついたのが原因らしいです」


「はて、そんな事になっているなんて知らないぞ」


「ずっと西の方ばかり攻めてましたからね。あそこの獣人は強いから攻めあぐねているんでしょう」


「獣人か、知ってるやつがひとりいるな」


「わたしも何人かいます。普段はそれぞれの種族同士で小競り合いする連中でしたが、帝国の侵略行為に対して、まとまりはじめているようです」


 そっち方面は気にしてなかったからな。それを知っているモーリはさすが旅商人というところか。商売人にとって情報は財産だからな。


「ところが近年、事情が変わってきたんです。帝国が東から攻めようと、つまり我が国から攻めようという意見がではじめたんです」


「なんでまた」


「今まで攻めて来なかったのは、海洋国家である帝国が砂漠越えを嫌ったからなんですが、砂漠に緑が増えはじめまして、これならいけるだろうと……」


え、オレのせい?! オレが森を拡げたから、そんな流れになったの!?


あちゃあ、カーキ=ツバタ王国で軍隊を造りたがる勢力があるのも、エルザ女王が同盟国にしたのも、そういう事情があったからか。


「戦争になりそうなのか」


「なんとも言えません。女王陛下の意向は、戦争の回避と平和条約の締結による東方辺境の平和です。私はそれに尽力したい。そのためにはクッキーさんのチカラをお借りしたい」


モーリは深々と頭を下げた。


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