森にかえろう
その後、クワハラは一緒に旅に出て勇者となるのだが、今のところそこに興味はない。
クワハラの記録は後々ゆっくりと検証することにしよう。
オレは、城壁外の森から地下茎を伸ばさせて、部屋の外までこさせるとそれを掴み、記録をパラパラと流し見ながら世界樹本体に記録させた。
これでいちいち閲覧を頼まなくてもよくなったな。
オレの転生の理由は分からないが、とりあえずアディの言う通り森を拡げて支配地域を増やそう。そのうち何か分かるかもしれない。
そういう意味では、カーキ=ツバタ王国にこのまま森を残して欲しいというエルザ女王の頼みは、利害一致して助かる。
となると、エルザ女王およびカーキ=ツバタ王国とは今度も良好な関係をきずいたほうがいいか。
ここまで考えた時に、ノックがした。どうぞと促すと、調査から帰ってきたユーリが入ってきた。
「クッキー、東の村への調査だが、いちおう終わった。やはり全滅だったよ」
「そうか。今はどうなっている」
「衛兵達が、トテップ族が掘ったという地下道を埋める作業をしている。河から半日程度までのところまで埋めたから、もう脅威は去ったとみていいだろう」
「──カイマには会えたかい」
「いや……」
ユーリは少しうつ向く。
「なら、帰ろうか」
ユーリはしばらく考えたあと無言のまま頷いて了承した。
オレはエルザ女王に一旦森に帰ると伝えた。
エルザ女王は滞在を願ったが、あまり森を留守にするわけにはいかない事を伝えるが、そこをなんとか、トテップ族のグレートブリードが終わるまでと渋られる。
さすがに1年もいられない。どうしようかと思案しているところに、アディが精霊体でやってきた。
オレに憑依すると、一気にまくし立てる。
「クッキー、ねえ、聞いて聞いてよ、ペッターのヤツ、アタシの新しい躯体、なかなか造らないのよ、だから早くやれって言ったら、うるさいって、なんなのよアイツ、ハーフドワーフのくせに精霊に怒鳴るのよ、ねえ、聞いてる、クッキー、ねえってばあ」
憑依されているので、耳をふさぐことも出来ない。
ますます森に帰らなければならなくなった。
「どうかなされましたか」
「あ、いや、こちらの都合でどうしても戻らなくてはいけなくなりました」
とはいえ戻ったところでペッターにやる気を出させるのはホネだろうな。
ユーリも正直、カイマに未練があるだろう。
さてさて。なんか急にやることや問題が出てきたな、これが社会構造に触れるということか。
今後も色々と悩ますことになることを想像してため息が出そうになった。
エルザ女王と話し合った結果、マリオネットを王国に置き、意識体を根を通して昼間だけ様子を見に森に帰り、日没から夜明けまでこちらに戻るということになった。
エルザ女王はこれでよし。
あとはペッターとユーリとアディか。
ペッターには何かご機嫌取りの何かを渡すとして、それでマリオネットを作り出せばアディもよし。
ユーリは──たぶん──だよな……。
「エルザ女王、ひとつ欲しいものがあります」
「なんでしょう」
「ビキニアーマーをひとつ譲っていただけませんか」
「ビキニアーマーというと、フレイヤ様の神器ですね──」
ほぼ無表情で感情をあまり出さないエルザ女王が、はじめて渋い顔をみせる。
「──あれはフレイヤ様から賜ったもので、わが国の国宝ですので──」
「そうですか……」
いいアイデアだと思ったが、今後の関係を考えると無理強いするわけにはいかない。
あきらめかけたところで、代案を申し出された。
「あの──複製品でよろしければ、お譲りできますが」
「複製品があるんですか」
「ええ。先程申した通り国宝なので普段は収蔵しています。なので簡単な祭事では複製品を使いますので、それでよければお譲りします」
「ぜひ」
よし、これでペッターを動かす手みやげができた。
アディに、手みやげを持っていくからとペッターに伝えるようにと言うと、さっさと帰っていった。 事のなり行きをユーリに伝えると、それなら私がそれを持っていこうと言ってくれた。
譲り受けたビキニアーマーは、その昔エルザ女王が使用していたものだった。
翌日の朝、ユーリとビキニアーマーを積んだ荷馬車が出ていった。御者はモーリである。
エルザ女王は、世界樹の森をひとつの国として認識すると決めたそうだ。
国王はオレで、クチキ・ユグドラシル・シゲオという名前を贈られた。
世界樹の国の国王が、カーキ=ツバタ王国と同盟したという体面をつくると、各地ににわが国は女神フレイヤと世界樹に護られているとふれ回った。
カーキ=ツバタ王国の主産業は、広大な草原を耕して綿花を栽培して作られた生地と、女性ならではのデザイン衣服である。
なので他国の人、特に女性に悪いイメージを持たれると経済的にダメージがあるので、その対策なのだろう。
今度はちゃんと説明された上で、承諾をお願いされたので許す事にした。
これがエルザ女王の策略というか裏に思惑があることに気づいたのは後々のことだった。




