勇者クワハラの記録
ユーリを連れ逃げ出したカイマを追って、王宮の中を走り回ったが、突如また轟音が鳴り響き、そちらに向かうと、王宮北側の壁に穴が空いていて外と繋がっており、その横にユーリが腹を押さえながらうずくまっていた。
息絶え絶えのユーリに訊くと、飛んで逃げるのに邪魔だからと、置き去りにされたと言った。
城壁の見張りをしていた衛兵の報告で、人くらいの大きなコウモリが、北から東の方へ飛んでいくのを見たそうだ。カイマは逃げていったとみてよかろう。
その後、ゾフィ隊長からの質問(尋問でなくなったのは喜ぶべきか)をユーリが受けて、このカイマ騒動は決着をみることになった。
──当初の目的であるビキニアーマーは見たし、たまたま巻き込まれたカイマ騒動も終結した。
なのでオレ達は世界樹の森に帰ろうとしたが、エルザ女王に引き留められてしまった。
まだトテップ族の脅威は去っていないから、居て欲しいと言うのだ。
すでに興味をなくしたアディがもう帰りたいと駄々をこねたのだが、ゾフィ隊長が(それはそれは悔しそうに)頭を下げて頼んだのが功を奏して、滞在を長引かせることになった。
ユーリもしばらく居たいという。
滞在の御礼として、エルザ女王は書物を3冊貸してくれた。初代国王であり勇者であった、クワハラの記録である。
転生者としては色々と知りたいことがあるので、オレも残ることにした。
記録は、この1週間のオレの時間潰しとなっている。
時間潰しと言ったのは、あれからトテップ族が一向に来ないからだ。
案の定、我慢しきれなかったアディが、また帰りたいと騒ぎ始めたので、3日目の朝早くに馬車で一旦に戻り、ペッターにアディのマリオネット製作を頼んで、オレだけとんぼ返りして戻ってきた。
ユーリももう元通りの身体になったのだが、カーキ=ツバタに滞在している。
おそらくカイマに会いたいのだろう、王国の編成した調査隊に参加して、河向こうの東の村と大地の嘲笑いに調査に行ったりしている。
オレもついて行きたかったが、河がかなり幅広くて根を伸ばすことができない。河岸までが限界だった。なので時間潰しをするハメになる。
とりあえず調査隊が出入りしやすいように、森で塞がれていた南の城門のところも、オレの力でアーチ状に動かしてておいた。
そして当然だが、観光や行商に来ていた者達が、逃げるように王国から出ていった。
これで今回の騒ぎは、他の国や村に知られることになるだろう。
エルザ女王と大臣達は、連日会議をして今後の対処に追われる日々を送っている。
会議はもめにもめたが一応の決着して、なぜかオレはカーキ=ツバタ王国の特別国民になることになった。
なぜそうなったかというと、トテップ族をはじめとするダークボトムズに備えるため、兵隊を創るべきだという勢力に対して、エルザ女王は、わが国は世界樹様に護られているから不要と反対したからだ。その証しとしてオレがここの国民になったと言ったらしい。
先に言ってくれればもっと快く承けたのだが、事後承諾だったのでオレは不満に感じた。
それで特別国民として優遇するので国内を自由に見てよいという条件を提示してきたのだった。
特別国民はともかく、この先支配地域を増やすとヒト族との交渉が必要になるのは間違いない。
この世界の社会構造を知ることができるチャンスなので承諾することにした。
そしてエルザ女王らは、今は国のイメージを落とさない為にはどうすればいいかを話し合っている。
クワハラの記録は日本語で書かれており、王族のみの秘密文字として伝わっている。
内容は前世の記憶と転生した経緯、勇者として生きた記録、国王として建国している時の記録の3つに分かれていた。
クワハラはやはり日本人、しかも名古屋の人であった。
セントラルパーク建設に関わった人で、竣工目前にして過労で亡くなったらしい。
それであの世にいく途中で運命の女神(実際は姿を覚えていないが女の声だったのと運命を変えたからそう呼んでいるらしい)によって、この世界に転生したそうだ。
なぜ転生させたのかというと未練を残していると成仏しにくいらしいので、思いを果たす事によって魂の浄化させる為らしい。
それなら、寿命を延ばして完成を見届けさせればいいじゃないかと思ったのだが、クワハラも転生してから同じことを思ったらしい。そんな記述が残っていた。
転生して赤子から人生をまた始めて、10歳になったとき、前世と転生したことの記憶が蘇った。
それを[自我が目覚める]というらしい。
それが知ってたように旅人がやってきた。その男も日本からの転生者だと名乗ったそうだ。
クワハラと違う時代の男で年齢も離れていたが、同じ転生者同士で話が合い、互いの経緯を話し合った。
互いの前世を話し合う記述のあとに、転生というのはこの世界では生まれない、思想や文化を持ち込むのが目的ではないかという推察が書かれていた。
「異文化の流入か……」
ここまで読んで呟いた。
となると、オレの場合はどうなるんだろう。
前世では普通に寝て、起きたらこの世界の木の芽に転生していたのだ。
途中で運命の女神とやらに会った覚えはない。ましてや人間ではなく木の芽、今は樹木となってアディという木の精霊が憑いている世界樹候補となっているが、伝えるべき技能も持っていない。
オレの転生理由、それが今のところ最大の謎だな。




