ケーナの消息
(アディ、今だ)
アディは自分の躯体から離脱して、オレの躯体に憑依した。
(融合精霊能力上昇)
マリオネットに戻ったアディの躯体に、カイマは驚いたようだ、その隙を逃さずアディによって世界樹能力を使えるようになったオレが、手首から蔓を伸ばしてカイマを絡めとる。
「キサマ、何をする」
カイマの言葉を無視して、今度はユーリが飛び出し、アンナ王女を縛りつけていたムチごと、カイマから引き離して助け出す。
「キサマら、女神フレイヤの誓いはウソだったのか」
首の下から足首まで巻き付けられた蔓のせいで、バランスを崩して倒れたカイマが叫ぶ。
深く被っていたフードが少しめくれて顔がチラリと見えた。
アディが元の躯体に戻り、立ち上がってカイマの前に偉そうに立つ。
「バッカねえ、女神信仰はあっちの3人、アタシ達は精霊信仰なの。ていうか、アタシは精霊そのものだから、信仰される側なのよ。そのアタシ達が女神信仰の約束まもる訳ないじゃん」
オレもカイマに近寄り、とりあえず身体を起こしてやる。なんかトテップ族にしては小柄だな、知性はあるし、昼間から地上に来てるし、大繁殖期とやらにも影響されてないみたいだし、変わったヤツだ。
「まあ言い方はともかく、アディの言うとおりだ。オレ達は約束の対象外だったのさ」
「小賢しいマネを」
「人間のそれが欲しかったんだろ」
カイマはぷいと顔を横に向ける。
鼻下から顎にかけての素顔が見える。ちらと見えた物に好奇心が湧き、オレはフードをつい捲ってしまった。
「あっ」
「えっ」
トテップ族は何人も見たから、青黒い肌には見慣れていたが、二つの事に驚いた。
まずは顔に付けている武骨な道具、おそらくペッターの言っていたサングラスだろう。というよりはスキーのゴーグルと言った方がよい、そのくらいゴツい。
そしてもう1つは耳だ。
「……お前、エルフ型のトテップ族なのか」
「ユーリにそっくり、エルフってみんなこんな顔なの」
当のユーリはアンナ王女からムチを外して、それをしげしげと見ていたが、アディの言葉にこちらを向く。
2人の顔を交互に見るが、肌の色とゴーグル以外は髪の色までそっくりだった。
ユーリがムチをまとめながらこちらに近づき、カイマの前に座る。それから纏っているマントを目を凝らして見た。
「間違いない、このムチとマントは私の村に伝わる作り方でできている。カイマよ、どこでこれらを手に入れた、なぜ持っている」
「さあな」
ぷいと横を向くカイマの肩を掴み、ユーリはさらに問い詰める。
「とぼけるな! この仕込みムチのつくりは間違いなく私の村で作られた者だ。まさか村の者がいるのか。お前達のところにいるのか」
「落ち着けユーリ、落ち着くんだ」
「これが落ち着いていられるか、やっとだぞ、300年かけてやっと見つけた手がかりなんだ、ケーナの事がわかるかも知れないんだぞ」
「ケーナ? おばあ様の名前をなんで……」
カイマの言葉に、オレ達はかたまった。
「ケーナの孫? だと……」
「うっそ、だったらこのカイマとユーリは血族なの」
あまりの衝撃の事実、いや、事実かどうかは分からないが、その事でオレ達は混乱した。
そんな中で、すぐに立ち直ったのはエルザ女王だった。
「どうやらこみ入った状況のようですね。世界樹様、そちらのカイマをこちらに引き渡していただけますか。落ち着いて話す機会を提供致しますゆえ」
この提案にオレは迷ってしまい、その間隙をついてカイマは小声でユーリに話しかけていたのだが、気がつかなかった。
そして、突如カイマは行動に移した。
「噴ッ!」
オレが巻き付けた蔓を力任せに引きちぎったのだ。
「なにぃっ!」
カイマより体格のいいコウモリカイマを捕まえた蔓だぞ、それを引きちぎるなんて。しかも勢いあまったのか、マントの胸元が破れて、地肌が見える。
そこにはユーリそっくりの豊満な双丘が、見事な谷間をつくっていた。
「女だと!?」
何もかも情報と違っていて、完全に混乱したオレを尻目に、カイマはユーリに当て身を食らわせ、担ぎ上げる。
「コイツは代わりの人質としてもらっておく、それじゃあな」
「行かせないわよ、絶対この扉を開けさせないんだから」
アディが扉の前に立ち塞がるが、カイマはそれを無視して、背後の壁を力任せに拳で破壊した。王宮がさすがに揺れる。
「じゃあな」
呆気にとられていたが、さすがに気を取り直した。
「待て、ユーリを返せ、アディ、追いかけるぞ」
カイマの空けた壁穴を通り抜け、オレ達は追いかける。
「伝令を! 賊だ、ただちに捕まえろと衛兵達に伝えろ! 」
ゾフィ隊長の指示が飛ぶ。そこまでは流石だなと思ったが、後がいただけなかった。
「賊は殺してもかまわんぞ」
うわぁ、いらんことを言いやがって。
衛兵達より先に捕まえないと、ユーリが危ない。
オレは全速力でかけ出した。




