100年前の大罪
「今回の大繁殖期の目的は3つあった。1つ目は当然、ヒト族の女が目的だ。そして2つ目は、復讐だ」
「復讐? それはどういう意味です」
「前回の大繁殖期で手に入れたヒト族の女だがな、囮にされたのがいるんだよ。我らを恐れた男が、女しか狙わないと知って、村の女を縛りつけて置き去りにし、逃げたそうだ」
「そんなバカな」
カイマとエルザ女王の会話に、ゾフィ隊長が口を挟んだ。
「いくらなんでもそんな非道なんて……」
無いだろうと言いかけたゾフィ隊長が、エルザ女王の表情を見て、言いよどんだ。
オレもまさかと思ったので、ユーリに目で訊ねる。
「そんな話は……、いや、たしか、すでに襲われて命からがら逃げてきたという村の者がいたな。それがそいつらかどうかは分からないが……」
「本当の事だよ。その女達は我らの子を産んだ後、呪いをかけるように言い続けたのさ。人の男なぞ殺してしまえと、そうやって育てられた者がいるのだよ」
「その女達はどうしました」
「もうひとりもいない、100年前の話だからな。寿命だよ」
だけど復讐の禍根は残したわけか。
「そんな真偽の分からない話で復讐などと」
ゾフィ隊長が食い下がるが、無情な言葉をエルザ女王が口にした。
「たしかにあった事のようです」
「女王陛下」
「初代クワハラの残した記録に、そのような記述がありました。城を建設している時に、ひとりの男が懺悔をしに来た。村長と多数の独り者の意見で、村の女を犠牲にして逃げてきた、その事がいつまでも自分を苦しめると」
「そんな」
「良かったなゾフィとやら。真偽とやらがわかって」
「ユーリ、そんなことがあったのか」
「分からない。前にも言ったが、建国に興味が無かったから私は旅に出ていたからな」
となるとカイマ、いやトテップ族はこれからもカーキ=ツバタを狙うということで、男を殺すことも目的となるということか。
しかしエルザ女王はよくそんなことは話したな。国の黒歴史であり、今の交渉には不利な発言なのに。
「ところでカイマ殿。ここから東の村を調べたところ、誰ひとりいないと報告がありましたが、あなた方の仕業ですか」
「ああ」
「それならば、あなた方の言う復讐は成就しています」
「どういう意味だ」
「クワハラは、その村の者達を尋問して、その事が事実と知りました。他の村の生き延びた者達は母や伴侶や娘や姉妹を襲われたのに、おめおめと生きている自らを責め続けていたのです。そのような卑怯な者達を赦すわけがないでしょう。それゆえ、その村の者達は追放、元の村に住むのなら命は取らないが、そこから逃げ出すのなら死罪を科しました」
つまり、トテップ族の復讐という大義名分は無くなったということか。
「……それはいいことを聞かせてもらったな」
カイマが何故か嬉しそうに呟いた。
「さて、3つ目の理由だが、これは世界樹に感謝するべきなんだろうな」
「それは」
「内輪の事だから話すこともなかったのだが、今の話と世界樹に免じて話してやろう。
我らトテップ族は、これよりダークボトムズに戦争を仕掛ける。その為だ」
話の風向きがえらく変わったぞ、どういうことだ。
「トテップ族は、今のところ3つの意見に分かれている。1つは今までどおり本能のままに生きる意見、1つはダークボトムズ内での地位を上げようとする意見、そしてあと1つは地位を上げようとは思うがまずは復讐をしてからという意見だ」
「カイマ殿はどの意見に」
「地位を上げるだな。我に復讐の想いは無い」
「それで」
「ずっと意見が分かれたままでいたのだが、大繁殖期が近づいてきた。本能のままの奴らはますます話せなくなってきた。だからまず大繁殖期を乗り越えようという事で一致した」
「カイマ殿がここにいるということは、何か謀りましたね」
「その通り。チカラがあっても知性が無いものは、たくさんいても意味がない。復讐に凝り固まった奴らも同様だ。だから我らはそ奴らを間引きすることにした」
「……復讐組に地下道を作るように唆し、本能組とそれをやらせた」
「よくわかったな、その通りだ。その間に使えそうな奴らをこちらの組に引き入れた。そして地下道はできて、復讐組がまず地下道近くの村を襲った。そしてこの国の番となった、しかし思いがけないことが起きた、それが世界樹、お前だ」
「そいつはすまなかったな」
「ヒト族の女を手に入れられなかったのは残念だったが、本能組をほぼ片付けてくれたからな。いちおう感謝しているよ。それに女王のおかげで復讐組も説得しやすくなった、それにも感謝している」
「そちらの思惑通りという事なのですね」
「多少のずれはあったがな。さて、それではそろそろ帰らせてもらおうか。女神フレイヤの名に誓って約束を守ってもらうぞ」
「ええ、女神フレイヤ様の名に誓って約束を守り、城壁の外に出るまで手出しはしません」
エルザ女王は毅然とした態度でこたえる。
ゾフィ隊長は逃がすつもりは無いが、女王陛下の言葉に逆らえないと、もどかしくしている。
オレはアディとユーリを抑えながら、中腰の姿勢で扉の前にいる。
カイマは、アンナ王女をムチで縛り上げて捕まえたまま、油断無く扉に近づいてくる。
「世界樹ども、そこをどけ」
その言葉を合図に、オレ達は行動に出た。




