マリオネット四号機
「闇地底の民と戦ったのか、そりゃやられるか」
「知っているのか」
「半分ドワーフだからな。ドワーフは地上の民だが、土の中で暮らしているので奴等とも親交はある。らしい、オイラにゃ関係無いが」
ヒト族とドワーフのハーフであるペッターは、それなりにツラい生き方をしている。偏屈になったのはそういう経緯があったからかもしれない。
「ペッター、知っていることを教えてくれないか。たぶんヤツ等との戦いは長引くと思う」
「めんどくさい」
「そう言わないと。頼むよ」
「……いいだろう、その代わりまたクチキの記憶を覗かせてもらうぞ」
「わかった」
世界樹のどこかに[脳]にあたる[記憶装置]的なものがあるらしく、そこにはオレの前世の記憶が記録されている。
オレ自身も忘れている事が事細かく正確に記録されている、まるでハードメモリみたいなものだ。
|創造至上主義《根っからのクリエイター》のペッターは、異世界の技術にすごく興味を持っている。
この情報と地下空洞の工房を提供する事で、ペッターはオレに協力してくれているのだ。
「クチキ達が[カイマ]と呼んでいるアレは、ダークボトムズでは、[トテップ族]と呼ばれている。特徴は知ってのとおり、
多種族と交わること
その種族の特徴を持った子を産ませること
オスしか産まれないこと
繁殖期は100年のうち1年あるということ
そして、
他のダークボトムズの種族から歓迎されて忌み嫌われていること
連中の社会的地位は高いものから低いものまでいるということ
オイラが知っているのは、そんなところだ」
「トテップ族と呼ばれているのは分かったが、後半のはどういう意味なんだ。正反対の評価じゃないか」
「考えろよ、トテップ族の特徴からなら判るだろ」
トテップ族の特徴? 他種族の女と交わることだろう? それ以外に……
「あ! そういうことか。他種族の特徴を持った子が産まれるんだ、中には知性の高いのもいるということだな、そして反対に低いのもいるわけだ、だから評価がまちまちなんだな」
「そのとおり、半分正解」
まだ半分あるのか、なんだろう……
「わからないのか」
「わからない、降参だ」
「ヤツ等の妊娠率は[全部]だぞ」
「……だから?」
「鈍いヤツだな。どの種族も純血、つまり同種族同士の子孫が欲しいだろ、ところがこの妊娠ってやつは当たり外れがあるのは、どの種族も一緒なんだ、まったく効率悪くて極まりない」
「……え、ということは、まさか」
「確実に子孫が残せる血が手に入るのなら、他種族と交わってもよいと考えるヤツもいるということだ」
「望んで交わるのもいるということか」
今さっきまで、本能に支配され獣同然のヤツ等と戦ってきたばかりだったから、考えもつかなかった。
「そいういえば」
ペッターが何か思い出したように話しだす。
「オイラがまだ組合の工房に居た頃に、変な注文を受けたな」
「トテップ族にか」
「はっきりとは名乗らなかったし、全身ご隠れる黒いマントの格好だったから断定はできないが、ダークボトムズ特有の青黒い肌は、ちらりと見えたな」
「それで変な注文というのは」
「眼鏡を頼まれた」
「眼鏡って、ダークボトムズは目が見えないのが特徴と聞いたし、実際オレがさっき関わったヤツ等も器官として眼はあったが、機能しているようにみえなかったぞ」
「だから変な注文なんだ。視力矯正の必要は無くて、ただ光を極力遮る素材と形状にしてくれとは言われた」
「それで」
「もちろん作ったさ。オイラを誰だと思っているんだ、ユニオン随一の称号[Z]を持った腕きき職人、ズィー・ペッター様だぞ。ちゃんと依頼人を満足させる代物を作ったさ」
ペッターに出会ったのは100年くらい前でまだユニオンにいたから、その頃の話か。
「他には何か思い当たる事はないかい」
「……いや、それくらいかな。クッキーはこれからどうするんだ。オイラには関係無いけど」
話を続けたいが、時間が惜しい。急いでカーキ=ツバタに戻らなくては。
「使える躯体は残っているかい」
「今使っている試作体《零号機》と四号機だけだな。壱号機と弐号機は壊れてしまって修理していない。参号機は今日クッキーが永久欠番にした」
「じゃあ四号機で」
「そこにある」
マリオネット置場ではなく、工房にある躯体を指されたので、それに憑依る。
これの基本設計は、オレの前世の身体で、亡くなった31歳の身体ではなく、18歳の頃の身体をベースにしてある。その頃がいちばん身体機能が良かったからだ。
顔もなんなら美形する事ができたが、なんか落ち込んでしまいそうだから元の顔を少しだけ良くした。
「このマリオネットはどうしたんだい」
「これを食べてみなよ」
ペッターは手元にあった果実入れから果実を取ると、こちらに放り投げる。
それを受け取って口にすると、驚きが身体中に走った。
「あ、味を感じる。すごいぞペッター、味を感じるぞ」
ペッターも自分の分を口にしながら、不具合が無いかとオレをじろじろと見続ける。
「それはどんな味だ」
「……甘酸っぱい、ペッター風に言うのなら、甘いが7、酸っぱいが3というところかな」
「……ふむ、オイラと同じようだな。とりあえず成功か。世界樹の森に肉食の植物があると聴いたからな、食べれるようにしてみた。簡易養分補給ができるようになったから、たぶんこれでかなり遠くまで行けるようになったと思う」
栄養補給が出来るようになったということか、これはありがたい機能だな。
五感のうち4つまで使えるようになったぞ。
ペッターに礼を言うと、オレはアディのマリオネットを担いで地上に出て、カーキ=ツバタに向かった。
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