ハイドライアドとハーフドワーフ
城壁外側にとりついていたカイマ達の動きがとまった。
北側、西側、南側のカイマ達は城壁を登るのを止めて垣根にとりつきはじめる、その数はどんどん増えていく。
垣根に直接とりついた者の上に、さらにとりつき、そのまた上にとりつき、そのまた上にとりつき、そのまた上にとりつき……
世界樹の垣根がカイマの垣根のようになってきた。
生き残った衛兵達が異変に気づき、城壁の上から様子をうかがいはじめる。
どうやら城内も余裕ができはじめたらしい、中の方はバルキリー達に任せれば、もう大丈夫だろう。
(クッキー、みんな連れてきたよ。そっちは大丈夫だった)
精霊体となったアディが、世界樹の根を通して戻ってきた。
よぉし、予定どおりだ。アディはドライアドの中でも高位の存在だ。これでも。
ゆえに上位、下位のドライアドの長でもある。
ドライアドは樹木の精霊であるが、人間の男を誘惑するという一面もある。
その誘惑の能力とオレの出すフェロモン的なもので、カイマ達の興味を此方に向けさせる。
そしてアディ配下のドライアドを、オレの身体を通して配置し、カイマ達の精気を吸いとらせ、その養分と精気を取込み、垣根を成長させる。
あとはこれの繰り返しだ。
養分が漲ってきた。これで囲いきれなかった部分にも、根を伸ばし木を生やし蔓草を生やすことができる。
囲いきった後、数が多くて吸いとりきれなくなったら、麻酔成分で眠らせれば良い。
これでカーキ=ツバタ王国への驚異は、防ぎきれるだろう。
気が抜けたのか、猛烈に眠くなってきた。
いかん、休眠状態に入ってしまう。状況をエルザ女王かバルキリー達に伝えなくては──。
──あ、でもマリオネットはもう無いんだった。伝える手段がない。アディならブルンヒュルデに伝えるられるかもしれない。
アディにその事を伝えようとしたが、その前に強制的に休眠状態に入ってしまい、オレは意識を失ってしまった──。
※ ※ ※ ※ ※
──気がつくと、オレは世界樹本体に戻っていた。
少しぼんやりとしていたが、すぐに状況を思い出し意識を根を通して、カーキ=ツバタの状況を確認した。
北側、西側、南側のカイマ達はほぼ養分となってもらったようで、姿形が見あたらない。
残る東側は、相変わらず河を渡って進撃してくるカイマ達を、次々と取り込み片っ端から養分にしている。
おかげで東側城壁と河の間の平地が、どんどんと森へと姿を変えていってる。もうここに人は住めないだろうな。
(クッキー、戻ってきたの)
(アディ、今の状況をエルザ女王に伝えたいんだが、会話できるかい)
(わかんない、試してみるね)
オレから離れて王国内に向かったが、すぐに戻ってきた。
(ダメだったわ、ゲートになっていたからわかるかと思ったけど、聴こえてないし視えてなかったわ)
(バルキリー達はどうだった)
(それもダメ、神霊族と精霊族は何ていうか言葉が違うみたいに会話がずれるのよ)
よくわからんが、ダメなものはダメなんだろう。
となると、美聖女戦士達の身体は大丈夫だろうかと心配になるが、どうしようもないな。
(アディ、オレは戻って別のマリオネットをこっちに持ってくる。それまでここに居てくれるか)
(あたしのも持ってきてね)
わかったと伝えると、オレは世界樹本体に戻り意識を地下に向けた。
※ ※ ※ ※ ※
樹齢100年で一度斬り倒されたオレは、新芽からまた100年かけて今の本体を育てた。
新芽は元の切株から伸びたので、切株をおおい包むようにして新しい本体は育っている。
その切株の地下に大きな地下空洞があり、そこにはひとりのハーフドワーフが住んでいた。
住みかの一角にある、木製躯体置場にある1体に憑依すると、ハーフドワーフに話しかける。
「ペッター、ちょっといいかい」
「……」
──相変わらず返事をしない。
作業場で何かしら黙々と作業をすると、集中しすぎてまわりが見えなくなる。今は慎重な作業の最中なんだろう。
邪魔をすると手に負えないくらい拗ねるから、待つことにした。
しばらく経ってから、ようやく顔をあげたが、こちらを向かず作業を続けながら返事をした。
「……マリオネットを壊したのか」
ペッターとしては、ただの事実確認で訊いただけなのだろうが、なんとなく責められているように聞こえるのはオレが罪悪感を持っているからだろう。
「すまない。アディのとオレのを壊してしまった」
「……状況は」
「ややこしいから伝達っていいか」
好きにしろと言わんばかりの無言の頷きをするペッターに、今日の出来事を根を通して伝達る。
ペッターは一度死にかけて、というかほぼ死んでいたが、世界樹と繋がることによって生命力を送られて命をとどめている。
それゆえ、世界樹の根のひとつとペッターの脊髄は接続されているので、ペッターはこの地下空洞から出られない生活を余儀無くされている。
もっとも、本人はその状況を不自由とは思ってないのだが。