オレだって活躍するぞ
閃いた事をアディとユーリに伝えると、アディはすぐに飛んでいった。
「しかしそうなると、クッキーが大変だぞ」
「なんとかするさ。ユーリはエルザ女王の側に居てくれよ、それだけで安心できるし──頑張れる」
「しかし……、そうだな、私がついていくと足手まといか……」
──そうじゃなくて、ユーリを守るためなら頑張れるというつもりだったんだが──
「じゃあ、エルザ女王の護衛を頼むよ」
「クッキーに護られた、と言ったらアディがやっかむだろうな」
オレは大広場をあとにして、西側の城壁へ向かった。
身体能力は人並み、チート能力とかという能力も無し。マリオネットだから疲れないというのと、痛みを感じないというのが、能力といえば能力か。
西側城壁にたどり着いたが、当然城門は閉められていて、その手前では城壁の上からこぼれ落ちてくるカイマ達相手に、衛兵と一般男性が戦っていた。
一番カイマ達が少ないと思っていた西側でこれか、急がなくては。しかしどこから出る。
出口を探してキョロキョロしていると、空から美聖女戦士が降りてきた。人懐っこくてあどけない、まだ少女のようだった。
「世界樹殿ですね。わたくしはバルキリー姉妹の末妹レギンレイヴと申します。お見知りおきを」
末妹というだけあって、少し小柄だが、やはり美人でスタイルが良い。
そんな少女が露出の多いビキニアーマー姿でいると、やはり目のやり場に困る。
「如何いたしました」
「あ、いや、じつは外に出たいんだ。東側の城壁外に行こうと思って、おそらくカイマ達が少ないと思った西側に来たんだが……」
「東側城壁の外にですか」
「ああ、そうすれば、あまり当てにしてほしくないが、うまくいけば形勢逆転できると思う」
ものすごく歯切れが悪いな、オレ。
「わかりました。お姉様、お聴きになりましたか。世界樹殿が勝ち戦にしてくれるそうです」
おおおい、伝言ゲーム下手くそかっ。
「はい、わかりました。お連れいたします」
そう言ったかと思うと、レギンレイヴはあっという間に移動し、近場にいたカイマ達を左右の手に持った光の剣で、まるでなんたら無双のゲームみたいに、乱切りにした。
「これでしばらくは大丈夫でしょう。世界樹殿、東側城壁の外までお連れいたします」
そう言うとレギンレイヴはオレの背後にまわり、抱え上げて飛び上がる。
「わわっ」
街並みの屋根の上あたりまで上がると、東に向かって飛びはじめる。
ユーリ達の真上を飛び越えたとき目があった。
なにやってんのという顔をしていたが、それはオレも同じ気持ちだ。
「お姉様、お連れしました」
レギンレイヴに運ばれた先には、ゾフィ隊長、いやブルンヒュルデが空中で待っていた。
ブルンヒュルデは、王国のほぼ中心の空中にいた。
なるほど、ここからなら戦いの全景が見られるな。バルキリー達は陣形で戦っている、さすが戦乙女というべきか。
「世界樹殿、レギンレイヴから話は聴きました。できれば何をなされるかお教え願えませんか」
レギンレイヴに後ろから抱えられたままのオレは、少々情けない格好と気分で話す。
「ええと、ゾフィ隊長、いやブルンヒュルデさんかな。どちらで呼べばいいかな」
「ああ、どちらでもかまいませんよ。美聖女戦士達は神霊憑依中は意識を眠らせているのと、共有しているのがいます。ゾフィとは共有している方ですので」
「あたしはお姉様と呼んでいるけどね」
レギンレイヴは末妹らしく、かまってちゃんみたいに会話に参加してきた。
ややこしくなりそうだったからブルンヒュルデと呼ぶことにして、話を続けた。
「東側城壁と河の間に、アディ、じゃなくてドライアドが使っていたマリオネットがあるんだが、そこに[世界樹の実]があるんだ。それを使ってオレが城壁の外側に森を出現させる」
「森をですか」
「ああ、城壁を囲うようにな。カイマ達はどんどんやってくる、今のままでは数でおされてジリ貧だ。夜明けを待つ前に全滅してしまうだろう。しかしオレが森をつくって後続を断てば、勝つ見込みができる。少なくとも時間稼ぎはできるだろう」
ブルンヒュルデはオレの顔をじっと視ていたが、納得したらしい。どうすればいいかと訊ねてきた。
オレは世界樹の実の反応を感じると、そちらの方を指差した。
「あそこに連れていってほしい」
ブルンヒュルデとレギンレイヴは頷き合うと、オレの両脇を2人で抱える。
「世界樹殿、ではお連れいたしますので、よろしくお願いいたします」
「お姉様、ちょうどいいのが来ましたわ」
え、なにが?
「いきますよーーーー」
2人がオレを抱えたまま、東に向かって勢いよく飛びはじめた。陣形の最前線ぎりぎりまで来ると、そのまま勢いよく投げ飛ばされた。
「よろしく~~~」
レギンレイヴが手を振って見送ってくれる。
じゃなくて、勢い良すぎーーー!
このままでは河の向こうに飛ばされるぞーーー!!
ゴッ!!!
なんだ、何かにぶつかったぞ、勢いを失ったオレはそのままだと落ちていくところだったが、ぶつかったモノをかろうじて掴まえることができた。
あ、これ、コウモリカイマじゃないか。
あの小娘め、オレを使ってついでにカイマを仕留めたのか、なんてヤツだ。
オレはコウモリカイマの羽を掴み、パラシュート代わりにして落下速度を落としながら下に向かった。