救出成功……だがしかし……
「……そちらは? みたところエルフのようだが」
女王冠をいだき、貴族か王族が着るようなドレスをまとうエルフ。情報にはない人物の登場にリキニウスは警戒する。
「カーキ=ツバタ王国女王代行のユーリという。お見知りおきを」
「女王──代行ですと」
「うむ。現女王であるエルザ=クワハラ=カーキツバタより直々にそして正式に任命されている」
「そのような話は聞いておりませぬが」
「ついこの前になったはかりだ。他国への正式公報はまだしておらぬ」
会話をしながらも観察するリキニウスは、よどみなく応えるユーリからどうやら本当らしいと認めた。
リキニウスの態度からユーリもそれを感じ、さて交渉にはいるかと気合を入れる。
「話は聞こえていた。帝国の軍隊がこちらの要請により来られたというが、当方にはそのようなことをした覚えはない」
「いえいえ、こちらは正式に要請があったと上層部から命令がありました。代行を受けられるときに伝達漏れがあったのでは」
すこし見下したような言い方に衛兵達は不快になるも、ユーリは落ち着いて返答する。
「国の頭が代わっても身体はそのままでな。優秀な臣下のおかげでそのようなことはない。ああ、大したことではないが、我が国の貴族がひとつ爵位を返上したかな」
リキニウスは悟られないようにはしたが、それでも右眉がピクリと動いてしまった。
──どうやら内通者がバレて処分したらしい。それで御迎えがいたということか。さて、どうする。もうひとつの策はノマドが襲いにくることだが、見たところまだ来てないようだな──
ならば時間を稼いでノマドが来たら我々で蹴散らして恩を売るかと、策の修正が決まったところだった。
ドドオオオォォォーーーー!!
大気を震わす大轟音とともにヨツジの南西方向、今まさにクッキーと帝国軍が戦っている辺りから見たこともない輝きがのぼった。それだけではなく突風どころではない嵐のような強熱風に、地震のごとく大地が揺れる。
直視すれば目が潰れると瞬時に判断したユーリは全員に目を閉じて伏せろと命令する。リキニウス達帝国軍もウマからおりて伏せる。
かなり長く続いた揺れがようやくおさまると、何が起きたと考えるが、それよりも胸騒ぎが先だった。リキニウスも同様である。
「今のは」
「……」
ともにどうすればいいか分からぬと動きが止まっているところへ、衛兵隊をかき分けてユーリの後ろから少女がやってくる。アンナだった。
ゾフィが用意してたアンナ用の親衛隊制服に着替えて気丈に歩いて来ると、ユーリに礼をとって報告をする。
「ユーリ女王代行、御命令どおり[はじまりの村]を襲った蛮族を撃退してまいりました。こちらが戦利品です」
アンナのあとに続いて来たゾフィが簡易箱を差し出し、蓋を開ける。そこにはシャッコウ族の首と彼らの武具が納められていた。
「急ぎましたので簡単な死化粧しかしていませんが、後で弔います」
シャッコウ族の首を確認したリキニウスは困惑した。
内通者がバレてノマドは撃退されたのである。これではカーキ=ツバタに行く理由が無くなってしまった。なおかつ本軍に異常事態が起きた可能性がある。もう撤退するしかなかった。
「リキニウス殿」
ユーリが静かに話しかける。
「どうやらともに不測の事態が起きたようです。要請云々はあとにして、今は共に事態の把握をしては如何でしょう」
「──同感です」
「では、ウマを交換しましょう。リキニウス殿達にウマを」
「親切痛み入る。お借りしたウマは後日必ずお返しします」
リキニウス達のウマから鞍や荷物を外し、カーキ=ツバタのウマに乗せ換えると、挨拶をして彼らはもと来た旧道を戻っていく。見えなくなるまで見送ったたあと、ユーリはすぐさまヒトハに連絡をとる。
「ヒトハ、何があった。クッキー達に何があった」
ヨツジに設けられたデンワツタで話しかけ、樹液モニターを見る。
「それがお父様にもアディお母様にも連絡がとれないんです。」
「まったくか」
「はい。何度か呼びかけてますが、壁ができたみたいに応答がありません」
「他の姉妹とは連絡できないのか」
「はい。どうやらアディお母様と繋がって一体化しているようです」
「ヒトハは大丈夫なのか」
「私はユーリ様と永遠契約してますので大丈夫です」
「フタハは」
「今は私に貸し出し中なので大丈夫です。でもアディお母様に近づいたらわかりません、お母様の方が影響力が強いので」
ユーリはアンナをみて考える。
──アンナの身の振り方を考えればヒトハとフタハが必要だ。クッキーに何かあったのは間違いないが、今は此方を優先するべきか──
ユーリはアンナにシャッコウ族の弔いとヨツジ防衛隊に指示するよう言う。それから[はじまりの村]の避難民とともに王国に戻ることにした。
先頭はアンナとゾフィをはじめとする親衛隊で、次に避難民、次いでアンナに付いてた衛兵隊、それから殿にユーリ。
──クッキー、無事でいるとは思うが……──
ユーリは胸騒ぎが止まらなかった──。




