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世界樹転生 異世界支配とビキニアーマー開発史  作者: 藤井ことなり
帝国との触発編
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リキニウスの囀り

 使役獣加速魔法(ハヤウマ)というのは、1日分の体力を前借りして短期間で全力を出させる魔法である。


 ゆえに一度使えばそのあと1日はウマは動けなくなる。


 帝国軍1000の大隊が普通に移動しているのは、早く現地に着いてもウマが使いものにならなくては意味が無いからだ。だから少数の隊だけ使役獣加速魔法(ハヤウマ)を使って先行してきた。


 先頭のリキニウス大隊長はルシア・ガリニア・ファスティトカロン総司令官の腹心の部下である。


※ ※ ※ ※ ※


 ルシアがリキニウスに会ったのは、故郷ガリアニアにて親愛にして愚かなる叔父を玉座から降ろそうと傭兵に身をやつしていた頃である。


 リキニウスは生まれ故郷はすでに帝国により滅亡され、物心がつく頃には傭兵だった父とともに旅をしていて、とある戦争で父は亡くなり、それ以後は旅から旅の傭兵稼業で生きていたという。


 ふたりは年齢が同じということもあり、よく一緒に戦い互いに気が合うと感じ、それから同じ戦場同じ部隊を重ねていき戦果を重ねていく。


 その後、ルシアが王族と知ってからは距離をとろうとしたが、ルシア本人にこれからも助力をと懇願され、リキニウスは無二の親友であり腹心の部下となった。


※ ※ ※ ※ ※


「ほう、どういうことか待ち構えているようだな。情報が漏れたかな」


 リキニウス達の目に飛び込んできたのは旧街道を塞ぐように道いっぱいに広がったカーキ=ツバタの衛兵隊だった。


 太陽のようなルシアに対してリキニウスは月のごとくその思考と性格を変える。臨機応変に対応できる知性を持つゆえに、政治的判断が必要になるだろうカーキ=ツバタへの交渉にルシアはリキニウスを指名したのだ。


 だが誰しも自らも直したいという負の部分を持つ。リキニウスも例外ではなかった。彼の悪癖ともいえるそれは皮肉屋たる言動にある。言わなければいいのに、そのひと言ゆえ他人と揉め、喧嘩し、挙句の果ては決闘などという事もあった。


 ひとえに彼がまだ生きているのは個人的に戦闘力が高いからだが、それだけではなく人事調整に有能な盟友ステラがいたからでもある。


 その盟友は現在、残してきた大隊の責任者として離れている。事情を知る数名がリキニウスによけいなコトを言わないでくれと心から願っていた。


 カーキ=ツバタの態度によりルシアから与えられた計画が漏れたと悟ったリキニウスは、小隊を止め自分だけがカーキ=ツバタの部隊に近づく。


「止まれ。ここよりカーキ=ツバタ王国の領地となる。見たところ何処かの軍のようだが名乗られい」


 部隊から数歩前に立つ衛兵長の言葉に、リキニウスはウマから降りて腰の剣を右手に持って近づく。


「海神ファスティトカロン帝国の領国ガリアニアの者だ。責任者のリキニウスという。カーキ=ツバタ王国からの応援の要請を受けて参上した」


 とりあえず現状を知りたいので、初手は予定通り伝える。


「カーキ=ツバタ王国の関所ヨツジの責任者ゲンバ・イズムだ。本国からはそのような通達は来ておらぬ。なにかの間違いではないか」


「そのようなことはないだろう。こちらは正式に要請を受けて来ている。このあと1000の部隊が来る。そして本隊として4000が来る。これだけの大軍が来るのだ、ここを通さなければ通達間違いではすまされないぞ。貴君はその責を負う覚悟はおありか」


「ご、5000だと」


 その数の多さに衛兵長はさすがに腰が引けた。それに気がついたリキニウスはさらにたたみかける。


「これだけの大軍が動いているのだ、それが本当だとわかるだろう。きけば御国はカイマとかいう野獣に襲われたそうだな、それのことは帝国にも届いている、知性の無い獣人のごとくとな。我々帝国でも西の獣人どもと交戦中だ、ゆえにその凄まじさはよく知っている。だからこそそちらの応援要請に応じたのだ」


「カイマの襲撃はすでに終結している。多少の被害は出たが我々だけで対応できたのだ、応援要請などするわけない」


「ほう、ではこちらの間違いだと」


「そのとおりだ」


「ふむ。──ならばそちらに非はなくあくまでもこちらの間違いだというのだな。よいのか? これからくる5000の大軍を前にしても間違えてるのは我々の方だと、責任を持って、絶対だ、と言うのだな。確認を取らなくてよいか? 間違えてた場合はただではすまぬぞ? カーキ=ツバタと帝国はそれが原因で国交が拗れるやもしれぬな。それだけの覚悟を持って我々に非があると言い張るのだな」


 調子に乗ったリキニウスは止まらない。いつもならルシア(親友)が勢いを止めたり盟友(ステラ)が割って入るのだが、その役目を担うものは誰もいない。


 早く止めさせなくてはと部下たちが目で会話し、その役目をなすりつけあっていた。その時である。


「ガリアニアから渡ってきた鳥はよくさえずる。だが鳴き方に品位と知性が感じられぬな。御国柄のせいか」


 手厳しい女の声にリキニウスの口が止まる。


 カーキ=ツバタの衛兵達が割れて道をつくる。そこからふたりの女が近寄ってきた。


「ふむ、不愉快な言葉からよほどの醜い顔つきと思っていたがなかなかどうして美丈夫ではないか。やはり見た目で判断してはいかぬというのは真理だということか」


 ユーリの言葉にリキニウスは黙り込む。

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