覚醒
「みんな無事か」
「ああ、全員怪我はない。エリス、もう一度やれるか」
「ごめん皆んな。マナを吸い取られた。聞いてはいたけどこれほどとは」
「できぬか」
「温存したかったけど奥の手をつかうわ」
ジャクリーンに返事したあと、エリスは隠し持っていたマナボトルを取り出し一気に飲む。するとエリスのマナが回復し、ふたたび魔法が使えるようになった。
「なんとかあと1回か2回は広域魔法障壁を張れると思う。けどそのあとは無理」
「先程の強弓、魔法障壁で勢いを殺されたから剣で落とせたが、それが無いと難しいな」
というか無理だな。という言葉をジャクリーンは飲み込む。
「厄介な矢ね」
ジャクリーンの後ろでアンナはどう対処するか考えたあと、エリスに問いかける。
「エリス、広範囲でなくひとりにだけ魔法障壁を張ったらどれだけやれるの」
「ひとりだけなら10回くらいは。でもそれをすると他の者が無防備になります」
「10回もいらない、5回くらいならどう? それなら1回くらい広域魔法障壁ができる?」
「は、はい。それならばできます」
エリスの言葉を聞くと、アンナはジャクリーンに命令する。
「ジャクリーン、皆を集めなさい。私が蛮族の相手をします」
驚くジャクリーンに企てを説明する。ジャクリーンは反対するが「あとを頼むわ」と言うと、アンナはエリスから剣を奪い取り両手に剣を持ってシャッコウ族に向かい走りだした。
「うわぁ、エリス、アンナ様に魔法障壁を。エニスタ達はそこを動くな」
双剣のアンナが自分たちを横切って前に進むのを、エニスタ達は何が起きたと驚く。止めるべきなのにジャクリーンからの指示は動くなであった。
※ ※ ※ ※ ※
「お頭、ガキがひとりで突っ込んできますぜ。どういうつもりでしょう」
大頭目に頭目のひとりガルが伝える。
「他のヤツらに守られていたヤツだな。しびれを切らして飛び出してきたか」
「どうします」
「ガキのお守り連中に矢をお見舞いして足どめ。ガキはガル、お前の隊で捕らえてこい」
「へい」
シャッコウ族からガルの小隊が走り出すと、他の隊が山なりに矢を射ちエニスタ達と合流したジャクリーンとエリスに浴びせる。
「来たぞ、エリス、頼む」
「広域魔法障壁」
ほぼ上空からくる無数の精霊石矢じり矢。ただの矢ならすべて弾き飛ばせるのに、この矢は魔法力を吸い取り無効化する。
だが多少なりとも勢いが落ちるので、エニスタとジャクリーンなら叩き落とすことができる。レオーネとアルスはなんとか避ける。
「くそ、これでもう広域魔法障壁は張れない」
膝をつき肩で息するエリスをみてジャクリーンは舌打ちをし先行してるアンナに目を向ける。すでに双方の対峙したところの半分を過ぎていた。
「そろそろいくわよレギンレイヴ」
正面から来るガルの小隊と接触する頃を見計らってアンナは足を止める。そして双剣を大地に刺して離し、祈りをささげはじめる。
「戦乙女のレギンレイヴに願いたてまつる、母なる女神フレイヤ様の信者を守るため我が願いに応えたまえ──」
すると天空より一筋の光がゾフィの時と同じく照らし、まるで違う空間をつくりあげる。そして上から薄く陽炎のような戦乙女レギンレイヴがアンナの頂に舞い降りアンナの身につけてた衣服を霧散させる。
アンナの全身を踊るように見定めたのちにレギンレイヴは笑顔となり両腕を掲げ空間に穴を開けて神器ビキニアーマーを呼び寄せる。
──唱えて──
それに応えてアンナは祝詞を唱える。
「バルキリーパワー レーイズ アーップ」
神器ビキニアーマーがアンナの頭、胸、腰、両脚、そして両腕に装着され、最後にレギンレイヴがアンナに憑依し美聖女戦士アンナが降臨した。
「レギンレイヴ来てくれてありがとう」
「ブリュンヒルデから事情は聞いてるわ。彼奴等を倒せばいいのね」
「時間が無いわ。一気にいくわよ」
「任せて」
アンナの両掌から神霊力がほとばしり剣の形を成す。双剣。それはアンナの得意剣術、師はジャクリーンである。
「いくわよ」
アンナは神霊力を全身に纏い、彗星のごとく飛び立ちガルの小隊の頭上を越え一気にシャッコウ族の本隊に向かう。
※ ※ ※ ※ ※
「な、なんだあれは」
驚くシャッコウ族。だが大頭目は冷静に指揮をする。
「慌てるな、飛んでいるだけだ、大物の鳥と変わらん。落ち着いて矢を放て」
まだざわついているが大頭目周辺の手下は命令通り矢を放つ。それをアンナは避けると本隊の中央に降り立つ。
得体の知れない存在にシャッコウ族は避ける。アンナを中心に空間が拡がる。
そしてアンナの双剣が空を斬る。
次の瞬間、数人の首が飛んだ。
「言葉は通じないだろうけど名乗らせてもらうわね。我が名はアンナ。アンナ=カーキツバタ。カーキ=ツバタ王国の王女なり。我が国の領地を侵し、民を傷つけた行為、万死に値する。その罪をその命をもって償ってもらうわ」
おそらくこの隊の隊長であろう相手に、アンナは挑むようにそう言い放った。
それは国を背負う覚悟を自分自身に言い聞かせるようでもあった。




