真相
「おい、いったん下がるぞ」
頭目の言葉に手下はジャクリーンから後ずさり、くるりとひるがえるとウマのところまで走り出す。
それをエニスタたちが追いかけようとする。それを見送るユーリにヒトハからスピーカーツタで話しかけられる。
「ユーリ様、エニスタさん達を呼び戻してください。ノマド──シャッコウ族の本隊がやってきます」
「なに」
「[はじまりの村]にいた本隊です。道を使わず荒れ地をこちらにほぼ真っすぐ向かってきてます。私の見落としです、シャッコウ族は[グリーン・ウォール]だけでなく空に向かっても矢を射ってました。たぶんそれが合図だったのかと」
「どれくらいの数だ」
「少なくとも20騎はいるかと」
「ヒトハ、マイクツタを」
ユーリの背後にある[グリーン・ウォール]からマイクツタが生えて手元まで来る。すぐさまエニスタ達に向かってスピーカーツタで伝える。
「エニスタ、シャッコウ族の本隊が来る。追わずにこちらと合流してくれ」
声が届いたようで3人は方向を変えてこちらに向かってくる。アンナとジャクリーンもユーリのそばにやってきた。
「遠くまで声が届いて便利ですね。ユーリ様、このあとどうしましょう」
アンナの問いにユーリはヒトハに訊く。
「ヒトハ、状況は」
「シャッコウ族本隊は旧道にたどり着きこちらに向かってます。逃した2人はウマに乗り──どうやら本隊が来たのに気づいたようで待ってるようです」
「こちらは? 避難民と救援隊はどうだ」
「合流した救援隊が、歩きの避難民をウマに乗せたので動きが速くなりました。まもなくヨツジに到着します。ゾフィさんはエリスさんとともに[グリーン・ウォール]の反対側にいます」
「ヒトハさん、ゾフィは無事なの」
「まだ体力は回復してないようです。デンワツタを使いますか」
「お願い」
デンワツタで横たわっているゾフィと会話するアンナ。
「ゾフィ、大丈夫?」
「アンナ様、ご無事で。私は大丈夫です。そちらはどうなってますか」
「ノマド──シャッコウ族というらしいけど、そいつ等の本隊がまもなく来るわ」
「なんと。私もそちらに参ります」
ゾフィが無理して立ち上がろうとし、ふらついたところをエリスが肩をかし支える。
「無理です。そんな身体では」
デンワツタ越しにエリスの言葉を聞いたアンナは、ゾフィはまだ回復してないと察した。そこにヒトハからまた連絡がはいる。
「ユーリ様、フタハから連絡が入りました。旧道南からすごい速さで向かって来るものがいるそうです」
「旧道南から? ……帝国軍か」
「おそらく」
「詳しくわからないか」
「少々お待ちを。私が見てまいります」
[グリーン・ウォール]にいたヒトハは支配地を使ってヨツジまでいくと、カメラツタで南の方を見る。隊列を組んでものすごく速く帝国が来るのをとらえた。デンワツタで報告する。
「ユーリ様、ヒトハです。間違いなく帝国軍です。その数20騎」
「20騎だと。間違いないか」
「はい。速さから察するに使役獣加速魔法を使っていると思われます」
ユーリはおかしいと思い、今まで起きたことを思い出していた。やがてひとつの推測が浮かび上がる。
「ヒトハ、帝国軍はさらに南に本隊がいるんじゃないか」
ユーリの言葉に旧道の南をさらに見てみる。するとわずかに土ぼこりが上がっているのを見つけた。
「いました。遠過ぎて規模は分かりませんが、規則正しく土ぼこりが上がっているのでいると思われます」
「そうか。よし、戻って来てくれ」
デンワツタでの会話を終えるとゾフィ達と回線をつなぎ、到着したエニスタ達と合わせて自分の推測を話す。
「ここしばらく起きたことをあわせて1つの考えに達した。おそらくシャッコウ族と帝国軍は繋がっている」
驚く全員にユーリはどう考えたか説明する。
「いま、帝国軍20騎がヨツジに向かっている使役獣加速魔法をつかってまでな」
「たった20騎ですか」
「そうだエニスタ。あまりにも少なすぎる。だがシャッコウ族とほぼ同じ数でもある。
帝国軍はカーキ=ツバタの要請で軍を動かしたと言ってたな。だがこちらは要請する理由がない、どういう訳だと思ったが、そこへシャッコウ族が[はじまりの村]を襲ってきた」
ユーリの言葉にアンナが気づく。
「そうか。順番通りならユグドラシル樹立国で駐屯して、[はじまりの村]を襲ったシャッコウ族がカーキ=ツバタにも襲いに来るはずだったんだ。それを帝国軍が追い払う、こうやって我が国に恩を売るつもりだったのね」
「その通りだ。だがクッキーのおかげで帝国軍の予定がズレてしまった。だから我々は帝国軍とシャッコウ族両方に攻められるととらえてしまった」
「しかしその実は裏でつながっていたと」
「そういうことだ。しかし予定どおりでないのは帝国軍だ。ズレを直さなくてはならない。だから20騎だけ使役獣加速魔法をつかってまでこちらに向かわせた」
「シャッコウ族とほぼ同じ数。なるほど、相手の戦力がわかってないとできないことですね」
「そうだ。ということは、我々はやってきた帝国軍を追い返しながら、シャッコウ族も追い払うことをしなければならない」
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