ヒトハ合流
声を聞きつけたひとりが身構えながら辺りを見回す。
「こちらはアンナ、ヨツジに到着して世界樹様の御業で話しかけています。返事をして」
「アンナ王女さま……」
「そうよ、皆んなを起こして衛兵長を呼んできて」
「あの、どちらに」
「いいから早く、急いで」
アンナの剣幕に慌てて衛兵が衛兵長を起こして連れてくる。目印があった方がいいかなと、控えめに生やしていたのをヒマワリくらいのサイズにしておいた。
衛兵長が来たのをアンナに伝える。
「衛兵長、アンナよ、聞こえる」
「は、はい。アンナ王女、今どちらに」
「ヨツジに居るわ。協力していただいてる世界樹様の御業で話しているの。それより大変なことがわかったの、村を襲ったのは未知の部族で目的も分からないの。今は生きた情報が欲しいから村の避難民を急いで連れてきてほしいの」
「ということは」
「村の様子はいいから旧街道に向かって避難民と合流して。北ではなく東に向かって」
「しかしいったい何処に」
──オレが道を開く──
「だ、誰だ」
──世界樹のクチキだ。今から避難民の居場所を調べてくる、それから合流する地点を割り出しそこまでの道をつくる──
「クチキ様、お願いできますか」
──ああ。時間がかかるかもしれないが、遅くとも夜明けまでにやっておく──
[はじまりの村]まではまだ一日分の距離がある、[マイクツタ]と[スピーカーツタ]はそのままで大丈夫だろう。いったんヨツジまでもどり、旧街道沿いに支配地を増やそうとしたとき、
──クッキィィィィィィィィィーーーーー──
──グォッ──
文字どおり高速でやって来たアディにタックルされる。
精霊体の時は物理的ダメージは無いが、イメージによるつまり精神的ダメージはある。アディの勢いと想いが強過ぎたので、まるでタックルをかまされたようなダメージを受けたのだった。
──大丈夫? 大丈夫? どこもやられてない? 平気? 無事? 大丈夫? 問題無い? ──
──大丈夫だから落ち着け。どうしたんだいったい──
──イツハから同期したんだけど、変な奴らに襲われたんだって? また伐り倒されたかもって心配したんだよー──
──ああそうか。心配かけてゴメンな。ペッターみたいな奴そうそういるもんか──
──わかんないじゃん、そんなの──
まあそうだが……そうか、ペッターなら何か知ってるかもしれないな。
──アディ、その変な奴らが使った矢が森の北にあるから、それをペッターに渡してくれないか──
──ええー、なんでー──
──いいから。……そうだな、オレ達の身を守るためだよ、そのために必要だからだ──
──むー、わかったー──
──気をつけて触れよ、矢じりをさけて矢の部分を持つんだぞ──
アディが戻っていくと支配地を増やそうと北へ向かう。が、その前にアンナに頼まれる。
「クチキ様、たびたびすいませんがこのデンワを王国と繋げていただけませんか」
そういややってなかったな。その場で王国と回線を繋ぐが途端に向こうから連絡があった、ヒトハからだ。
──ヒトハか、どうした──
──ユーリ様から伝言です。おそらくお父様からアンナ王女と回線を繋げてくるだろうから、そうなったら伝えるようにと──
さすが大賢者ユーリというところか。よくわかったな。
──それで伝言というのは──
──まず、ヒトハをアンナ王女に紹介してください。今後のやり取りに必要だからと──
──たしかにそうだな。他には? ──
──アンナ王女にも伝えたいので、まず紹介をお願いします──
──……わかった──
自分のペースで進まないのはなんか釈然としないが、言ってることは正しいからヨツジの樹液モニターにオレとヒトハを映し出す。
──アンナ、ヒトハを紹介する。オレの娘で上級ドライアドだ。そしてユーリと永遠契約をしている──
樹液モニターに映し出されたヒトハを見てアンナは驚く。
「ユ、ユーリ様」
──いいえ、ヒトハといいます。永遠契約したのでユーリ様の姿に影響されているのです──
ヒトハが礼儀正しく挨拶をし、区別がつくようにか身体に細いツタを絡ませる。
──いま、ユーリ様は議会を掌握するのに全神経をつかっておられます。ゾフィ様のおかげで親衛隊はこちらにつきました。あとは貴族議会を掌握すれば外交に移ることができる。内政はそのあとと──
「それでお母様──女王陛下はどうなったの」
──無事……とだけ伝えるようにと──
「そう……」
──アンナ王女、お父様、ユーリ様からの命令でヒトハはアンナ王女をお助けいたします。避難民の救助とノマドという連中の対処を補助します──
「え、それは嬉しいけどどうやって」
──お父様ほどではありませんがそれなりに木々や草花を操れます──
「そうなのクチキ様」
──ああ。オレの娘の中ではいちばん優秀なのは保証する。そういうことならヒトハ、伝えたいことがある。これを見てくれ──
同期はできないから先程見聞きしたものを映像で見せ、ヒトハはそれを見て眉をひそめる。
「お父様、もう一度見せてください」