レアキャラは案外近くに
短編連載形式にしたいやつ、です。
楽しんでいただけるようなものを続けていきたい。
ゲーム序盤の始まりの森。
中盤に行くまでの経験値集め・薬草集め・装備の材料集めに事欠かない、フィールド、湖ときて、森。そんな序盤の初心者プレイヤーでごった返す森の中。始まりも始まりの森は、プレイヤーにこの世界のすばらしさを伝えるために今日も幻想的な風景を、神秘と言わしめるだけの荘厳なたたずまいをもって存在していた。
圧倒されるほどの景色は現代の世界では、ほぼお目にかかれないような状態のため、すでに古参と呼ばれるようなランクもあげにあげきったようなプレイヤーも、時折、思い出したように訪れる場所になっていた。
そんな森に、数か月前のアップデート後から変な噂が立っていた。
それはあるクエストを受注したものの3回ほど失敗をしてペナルティをくらっていた冒険者からもたらされた。
「本当だって!」
「いや、いやいやいや、その話が本当かどうかの前に、お前、こんな簡単な採取依頼を3回も失敗してペナルティってマジかよ…」
「本当よ…。『娘の病気を治すために必要な薬草、クコの葉3枚をどうか満月の夜に採取して欲しい』って、これ初心者向けのマップ探索用クエストじゃない。しかも、AI技術のすばらしさなのか、ゲーム住民は皆本当に生きていると勘違いしそうなほどなのに、よくこんな悪魔の所業を出来るわね…」
とんでもなく呆れかえったような目をしながら、やれやれと首を振った剣士ジョブを選んだ幼馴染の隣で、汚いものを目にしてしまったとでもいうような目と顔つきで、魔導士ジョブを選んだもう一人の幼馴染が俺を見る。俺たちは3人一組でパーティーを組むご近所つながりの既知プレイヤーだった。
「いや違うんだって!最初はうっかり満月の日を忘れてしまったんだけど、次の満月の時はクコの葉の近くにゴブリンが巣を作ってて巻き込まれちまって、3度目の正直って思って受けたら今度は丁度運営の突発イベントが起きちゃったから…」
「簡単な採取クエストよりもイベントを優先させてしまったと」
俺の言い訳に、二人がそろって、うわ、という顔をした。微細な感情まで的確に表現できるなんて本当に昨今のゲームクオリティは半端ねぇと思いつつも、ギャルゲーだったら好感度が地の底に落ちたとでもいうような二人の顔に焦ったように顔の前で手を振る。
「いや、だから、俺の失敗談とか言い訳を聞いてほしいんじゃなくて!俺だって3回も失敗しちゃったら、その発注者の子供がどうなるのか気になっちゃって、見に行ってみたんだよ」
「ギルドからペナルティ貰って他の事が出来なくて暇だっただけじゃないの?」
「う、いや、そ、それもほんのちょっとあるけど…」
幼馴染の冷たい追及に冷や汗が垂れる。
違うのだ。こうやって糾弾されたくて話をしているわけじゃないんだ。本当に話をしたいのはその次なんだ。
「だ、だから!ちょっと最後まで聞いてほしいんだけど!」
「今のところあんたの胸糞話の内容しかなくて、イライラしてるんだけど!まだ続けんの?」
「かおり、ひとまず落ち着けって。初心者ペナルティなんて序盤の大体の人間がくっつけてるけど、その内容をわざわざ言うってことは、何か新しいクエスト見つけたとかかもしれねーじゃん」
「かおりって呼ぶな!シン!今の私はカーリ!」
「そんな変わんないじゃん」
このままでは絶交されそうな勢いのカーリの言葉にひるみつつも、援護するように仲裁し始めてくれたシンに目線で礼を言いつつ、話を続けるために俺はちょっとだけ息を整えた。
だって、今から話す内容は、攻略サイトのどこにも書いてなかった話なんだ。誰も、誰一人も見つけてないか、見つけたとして秘匿してるってことなんだと思う、そんな重大な話を俺は今から話すんだ。
「えーと…、その、もうちょっとばかし、カーリの嫌いな胸糞が続くんだけど、ほんと、これ、最後まで聞いてほしい。最後ハッピーエンドで終わるし、そこまでの過程で多分この前のアップデートで新しく搭載されたんじゃないかって思う場所を見つけたから」
新しく搭載された場所、という言葉に軽蔑しきった表情のカーリがきょとんと眼を丸くした。
同じように若干こっちは俺をダシにカーリにちょっかいかけてた節があるシンもぽかんとした顔つきになった。
「なにそれ、え、ペナルティくらってから始まるクエストってやつ?」
「なんだよ、そーゆうの独り占めすんなよ」
「だーかーらー!なし崩しに始まっちゃったけど、今その話を伝えようとしてるんだろっ!」
先ほどとは打って変わって食いつきの良くなった現金な二人に今度は俺が呆れたような目をしながら、少しだけ声を潜める。
「発注者の娘さんなんだけど、クコの葉から作られた薬草を丸1月ほど接種できなかったから、やっぱり病状が悪化して、今にも死にそうって感じになっちゃったんだけど」
ガツン!と重い一撃が頭に走った。
なに、なになになに?HPが三分の二も削れてる!??
「カーリまて!まてって!ハッピーエンドって言ってただろ!!」
本当にエフェクトで目の前に星が散ってる俺の視界の先で、憤怒の形相をしたカーリがシンに羽交い絞めにされながらも再度俺に攻撃を加えるべく杖を両手で振り下ろそうとしているところだった。シンがほとんど全力で止めているようなのに、その力を振り切るほどのすさまじい状態だ。ひ、ひえっ。
「まってまって!でも助かったんだ!」
第二撃をくらったらさすがに死ぬ。ペナルティ貰った状態で神殿戻りでストレージの半分がなくなるのはちょっと待って欲しいマジで!
攻撃の手を止めるために必死で続きを叫ぶ。
叫んだ俺を周りのNPCも、プレイヤーも驚いて見てくるが、それに何でもないと手を振りつつ怒りを若干収めたらしい幼馴染に近づいていく。
「助かってるよ。死んでないよ…。さすがに死んでたら話そうなんて思わないって…」
未だにずきずき痛んでこんなところまでリアルを再現しなくてもいいのにと思いながら、殴られた場所をさする。
「その娘さんが助かった方法ってのがマコトが新しく見つけたクエストってわけか」
「うん、そう…。といってもクエストっていうよりか、場所なんだけど」
カーリから腕を外したシンがわくわくした調子で俺のそばに来る。
不本意そうなカーリも話の続きが気になるのか、今度は静観の構えになった。
「依頼人で発注者のお父さんがもう本当に死にそうな顔をしながら森に行くのに、俺もさすがに気まずくてさ…。その日も満月だったから、きっと自分で取りに行こうとしてるのかなって思って、ギルドクエストじゃないけどこれでお父さんまでどうかなったら俺も目覚めが悪いっていうかゲームできそうにないから、勝手に護衛兼、今度こそクコの葉を採取するぞって思ってついてったんだ。そしたら…」
短刀一つで、青ざめた顔のままぶつぶつと何かを言っている父親の姿は正直、薬草を探しに行くというよりも死に場所を見つけに行く自殺者のようにしか見えなかったのだが、それを話すとカーリが今度こそ俺を教会送りにしそうだったため詳細を省き、父親が心配で後をついていった話を続ける。
「いつもの始まりの森のほんの少し奥まったところに、唐突に分かれ道が出来て」
「分かれ道!?」
「あそこ誰も迷うことがないような一本道じゃん!」
思わずといった調子で大声を上げた二人に、またも街中中のNPCとプレイヤーから注目が集まる。三人そろってから笑いをしながら何でもないで―すと手を振った俺たちは、視線が外れたところで、顔を突っつき合わせるような近さでひそひそ話へ移った。
「それってマジで新情報じゃん」
「攻略サイトにものってないよね」
「うん。俺も遭遇してすぐに確認しに行ったけど今日ものってないの確認済み」
分かれ道に吸い込まれるように父親は歩みを新しくできた道へと進めた。彼が正直、その道を選んだというよりは、足取りが不確かすぎて偶然その道へ入ってしまったようにも見えたが、突然の分かれ道出現に慌てていた俺はなりふり構うことなく彼を追いかけて道へ入ってすぐに、町にある雑貨屋と似たような雰囲気の店があることに気づいた。
「は、マジかよ…」
「うっそ。お店…」
「マジマジ。しかも、そこ薬草屋」
お店の出現にぽかんと間抜けにも口を開けて入口のひさしにかかった看板を目を凝らして見ると、町と同じようにフラスコ瓶のような図柄が彫られ、その下には確かに薬草屋との表記があった。
突然の出来事に驚きながら、その店に近づいた俺は、薬草屋の中から大の男が咽び泣きながら大声で「ありがとうございます」と叫んでいる声にビクッと体をこわばらせた。直後、バタンッとけたたましい音を立てながら扉が開いて中から出てくる人物に思いっきり体当たりをされて、俺は衝撃を受け流せずによろめいてつまづき、地面に倒れてしまった。
「いってて、なに、あれ、依頼人の父親…?」
人とぶつかったことなんて気づいてもないようにわき目も振らず走り去っていく人物を体を起こしつつぽかんと眺めて見送ったところで、ギィ…ギィ…ときしむような音を立てながらさっきの衝撃で揺れているドア奥からローブを目深にかぶった人物が出てくるのが見えた。
「うわー…、壊れたらこれ僕一人で直さなきゃいけないんだぞ…。事情は分かるけど、今度からドア開けっぱなしで迎えようかなぁ…」
弱った声を出しながらドアの調子を確かめているNPCに今度こそ俺は目を大きく開いて、立ち上がるどころじゃなくて這いずるような体制のままむんずとその人物のローブの端をつかんだ。
「えっ、ええっ!も、もう一人…?」
いきなりつかまれて驚いて飛び跳ねたNPCが恐る恐るこちらを向いた。顔は結構幼い感じが…。
「あ、あれ…きみ、町の人じゃなさそうだね…」
声も若い。けど、俺よりは上…?
驚きをすぐに静めて冷静に対処し始める姿に、同年代ぐらいを上方修正する。うわーうわー、マジで新キャラ!こんな顔重要NPCの中で見たことない!スクショ!あ、ここ禁止エリア!!!え、だから見たことない!??
「あの、手を離して欲しいんだけど…」
困ったように笑う姿に、興奮で頭がいっぱいだった俺はしわになってしまうぐらいに強くつかんでいるローブのすそを握る手と自分の体勢も思い出して、慌てて手を離す。敵意はないことを示すように両手を顔の横でパっと広げた。その間もずっと彼の顔から目は離さない。目を離したら消えてしまいそうで、正座の状態で彼を見上げていると、頬を指でかきながら、そのNPCは眉を下げてどうしたものかといった表情で俺を見ていた。
「あ、あのっ、名前!名前ありますか??」
「名前? あ、ああ、この店の?」
「じゃなくて、あなたの!」
「僕?…僕の名前は僕を必要としてくれる人にはわかるようになってるから…、君はじゃあやっぱり違うのかな…」
きょとんとした顔に、いやなんで店の名前!?と思っていた俺は訂正しなおした後に続いたNPCの小さく呟く声を拾って、や、やっぱイベントキャラ…!と興奮に顔を赤く染めた。すげー初遭遇かもしれない!俺が!初遭遇!!
よほどギラギラした目つきになっていたのか、彼が一歩引くようにじり…と後退ったところで、ハッと気づく。
「いや、あの、怪しいものじゃ!お、おれ、さっき出ていった人を追いかけてたんですけど…」
「さっきの彼を?なんで?」
「あの、俺、彼のクエスト失敗しちゃって、気になって様子見に行ったらすごい顔で出ていくし、森に向かって、た、から…」
「へぇ…君が彼の言ってた『無能な冒険者』?」
慌てるように言いつくろっているうちに彼の表情がどんどん冷たいものに変わっていく。心なしか周りの空気も冷たいような。さ、さむい…。
「『娘は本当に厄介な病気で、藁にも縋る思いで金をかき集めて頼んだのに、同じ冒険者が遊び半分で3回も受けて失敗しやがって、くそ…俺たちを何だと思ってやがる…』って、彼、泣きながら僕に訴えてたけど、どうしてそんなことしたの?」
凍てつくような視線に、淡々とした調子の声音。なじるわけでも、責めるわけでもないが、返答を間違ったが最後、本気で殺されそうだと思うほどの彼は、さっきまでの人当たりのよさそうな姿が嘘のように、今はもう暗殺者と言われてもうなずける雰囲気になっていた。
興奮で赤くなっていた顔が、一瞬で青ざめる。これは、答えを間違ったら二度と会えないパターンなんじゃ…。
「いや、あの、遊び半分じゃ、なくて…その、彼を追ってきたのも、今日満月だし薬草自分で取りに行くのかなって、モンスターに襲われたらいやだなって思ってこっそりついて来てて、あの…そ、その…ご、ごめんなさい!!!!」
しどろもどろになりつつ言い訳じみた言葉を言うにつれて、彼の顔がどんどんどんどん冷たくなっていくようで、たまらず、俺は、がばぁっと困った時の日本人奥義、スキル土・下・座を彼へ向けてはなった。ネタでとったスキルが、こんなところで役立つ日が来るなんて…!
色んな意味で俺の目からは涙がボロボロあふれている。
虚を突かれたのか、彼からは何の言葉も出てこないが、しばらくすると声を抑えるようにして、くっ、ふふっという笑い声が上から聞こえてきた。
おそるおそる顔を上げてみる…。お、おお、笑ってる…!
「あ、あの、ギルドからもペナルティで一カ月の奉仕作業と鍛錬が言い渡されてるし、その、奉仕作業代わりのクエストで手に入れた報酬は達成できなかったクエスト依頼者に渡されるって言ってたから、その、そのお金持って、俺、謝るから…!」
「彼の娘さんが死んでたら、どうしてたの?」
「…っ!」
畳みかけるように言い訳を重ねた俺は、笑いをひっこめた彼からの言葉にひゅっと息をのんだ。
「たまたま、僕のところに来ることが出来て、彼の娘は助かるけど、そうじゃなかったら、君、どうしてたの?」
腕を組んで見下ろしてくる彼の表情はさきほどの冷たさではないにしろ、変わらず冷酷なままで俺の行為を糾弾してくる。
こ、のイベント、もしかして運営のペナルティくらったやつ向けの反省イベントなのかなぁ…。離脱を本気で考えるほど、的確にえぐってくる言葉に、俺は何も言えずにうつむいた。
「まあ、君が失敗しなかったら僕も久しぶりのお客さんに会えなかったし、君も反省はしているみたいだし、その様子だと、彼がいう『人でなしの悪魔』ではないみたいだね」
すごい呼称で呼ばれたものだなと思った瞬間にピコンとアイコンが点滅した。
「そんな君にちょっとお願いがあるんだけど、いいかな?」
「え?あ、は、はいっ!」
「ちょっと待っててね」
そう言って店内へ消えていった彼の姿を呆然と見送って、少し。こ、これは、新しいクエストなんじゃ…!あ、でもダイアログは出てこないな。
膝をつきっぱなしの状態に気付いて立ち上がりつつ膝についた土を手で払う。視界の端っこで点滅し続けているのは、称号アイコン…。確認したいようなしたくないような気持ちでその点滅に目を向けていると、彼が店から出てきた。
「はい。これ、さっきの人の忘れ物」
「え゛っ!」
「なにその声…。君、謝りたいって言ってたよね…」
「は、はい。言った!言いました…!」
じゃぁ、届けてきて、と渡されたのは父親が手にしていた短刀だった。
「一応僕の薬には一定の魔除け効果もあるから帰りの道中にモンスターに襲われてなくても、これ、護身用みたいだし失くしたら困ると思ってたんだ」
しっかりと手に握らされたその短刀の重みに、急にここがゲームじゃなくて現実かと思ってしまうような実感がじわじわこみあげてきた。相当ひどい顔になったらしい僕の姿に、淡々とした様子だった彼がほんの少し苦笑した。
「次はもう失敗しないんだろ?」
「しません!」
言外にするわけないよな、という声も聞こえた気がするが、しっかり握らせてくる彼の手ごと反対の手で力強く握ったまま、彼にずずいっと顔を寄せて宣言する。
「俺、どうせゲームだしって思ってちょっと軽い気持ちでやってたけど、結構リアルに近いし、いや、何言ってるかわかんないと思うんだけど、俺誰かが居なくなるの嫌だから!それがNPCでも!だから、絶対今度は失敗しない!しそうだったら一人じゃ受けない!!」
若干、彼のほうが背が高かったせいで立ち上がっても彼を少し見上げるような形にはなったけど、ぎゅっと握りしめた手と俺の必死な顔を交互に見た彼が、最初にあった時のような顔でふっと笑ってくれた。
「よろしい。じゃぁ、これ、頼まれてくれるな」
「もちろん!」
しっかり頷いた俺に彼が安心したような、けれどどこか寂しそうに笑う。
「あ、の…?」
「手を、離してほしいんだけど」
その表情が気になって問いかけようとした瞬間にその顔は困ったように変わって、眉が下がって、彼の眼はまた俺の手を見つめて、最初の時と同じセリフを彼は言った。言わせてしまった…。
ああああああ、お、おれ!彼の手、握りっぱなし!!!
ばっとのけ反るように手を離す。
一瞬きょとんとした彼が面白そうに笑った後、「じゃぁ、頼んだ」といって手をひらひらさせながらドアを開けた。
俺もその手を振り返しながら、握りしめた短刀に視線を向けて、顔を上げた瞬間、そこは樹海の奥深くに戻っていた。
「は、はああ?」
「何それ、ちょっと、夢見たわけじゃなくて!?」
「夢じゃない夢じゃない!ほら、証拠に短刀!これ!!」
「あ、ああ…彼が返して来いって言った…。…、……おい、まさか、これ一人で返すのが嫌で俺らについて来て欲しいっていうんじゃ…」
「ぎくっ」
「え、い、いいやよ!人でなしと同類に思われたくない私!」
ばっと飛びのいたカーリは青ざめながらぶるぶると首を振る。そりゃ、娘を死なせようとした冒険者のお仲間とか思われたくないのはわかるけど、わかるけど…!
「そういや、称号アイコン光ってたって…」
「光ってた。称号貰ってた…」
「「「人でなしの悪魔」」」
一人は恐る恐る、一人は噴き出す寸前のような、最後の一人、俺はため息を盛大に吐きたい心情で。声はハモった。
「しっかし、そんな感じで遭遇するんじゃ、なかなか他に居ても出回らなそうな感じはあるよなぁ」
「そうなんだよね。特定の条件がギルドからペナルティを貰う事?だったら、中堅も古参もわざと以外でもらうことなさそうだし」
「初心者のペナルティの場合は、半分は貰ってすぐにペナルティ期間、ゲームに来なくなるか、真面目なプレイヤーはせっせと奉仕活動に励むぐらいで依頼人にわざわざ会いにはいかないわよねぇ…」
「しかも、NPC殺しそうなところって、マコト、お前よく行けたよな…」
「や、だって、ペナルティ貰うまでそんなにやばいって思わなかったから、気になって気になって」
「そんなに気にするくらいなら、なんで失敗すんのよ。なんで運営クエストやっちゃうのよ」
「もー!俺だって反省してるって!ちゃんと件のNPCにも誓ったんだから!!!」
「そう!その件のNPC!その短刀返したらまた会えるわけ?これ、新しいクエストってわけじゃないんでしょ?」
必死に頼み込んで家の近くまでついて来てもらうことを了承した二人にけなされつつも、依頼人の父親の家に向かって歩いていた俺にカーリが気になってしょうがないという感じで尋ねてくる。
「そうなんだよね。ダイアログ出てないからクエストになってないけど、クエストにするための条件の一つかもしれないし…」
「げっ、じゃぁ、彼に会うためにまたギルドペナルティ貰うって事?」
「いや、そのNPCに失敗しないって宣言した以上、そのルートはもうないんじゃないか?」
カーリの引いた口調に、シンがちょっと考え込むような顔で答える。
「俺もそう思う。次に失敗したら俺はもう二度と会えないような気がするんだよね」
「じゃぁ、どうするの?いやよ私ギルドペナルティ貰うの」
「俺もちょっと嫌だなー…試してみたい気はするけど、店が薬草屋ってことは、大なり小なりギルドペナルティ貰うやつってNPCがやばそうな案件しかなさそうだし」
「なんか別ルートがあるかもしれないんだよね。スクショ禁止エリアだってのも運営の本気度合いがやばそうだし」
「もーそれよそれ!なにそのスクショ禁止エリアって!銭湯エリア以外でそんな禁止区域遭遇したことないわよ」
「新NPCの顔はマコトがひとりじめかー。くっそー」
「その代わりの代償がちょっと重い気がするけど…」
町の少し外れた地域に来たことで、ようやく依頼人の家が見えてきた。二人がそろって足を止める。
「重ね重ね思うけど、あんた本当に人でなしの最低よね…」
「確かに、どこまで行くんだって思ってたけどスラム地域の住民の依頼を三回も…そりゃペナルティくらうわ…」
「う、うるさいな!報酬が低かったから、結構楽な依頼かと思ったんだよ!」
「初心者あるある依頼にひっかかったってわけね…」
ギルドは公正に依頼料と難易度でランクを分類するが、ごく稀に、金額は安く難易度が微妙に難しいものが混ぜられることがある。よく内容を読めば、条件が限定的だったり、やけに日数がかかったりと気づけるものは気づけるが、特に考えずに依頼を受けてしまうものが引っ掛かってしまう俗にいう地雷案件だった。
「こりゃ、ますます、このルートから辿りつくのは勘弁してほしいやつだな…」
「そうねぇ…、お店が薬屋って事だから逆に病気関係のクエストを全部受けてクリアしていってみる?」
「いや、クリアするとその薬屋に用事がなくなるんじゃ…?あーでも、そこでしか売ってない薬っていう発注クエストが出てくるかもしれないか?」
今からの用事には一切関係のない二人は、俺が遭遇したNPCに合う算段をつけるために相談という名の考察をし始める。
俺はそんな二人を背にしながら、短刀を返すべく元依頼人の家へと足を向けた。大丈夫。彼の薬で娘さんは助かるって言ってた。大丈夫。俺は彼に頼まれた忘れ物を届けにきただけ。謝れたら謝る。謝れそうになかったら、奉仕活動のお金を渡す時に…。
「なんか急に歩くの遅くなったわね…」
「まぁ、今から謝りに行く先が行く先だもんな」
暗雲を背負っているようなエフェクトもうっすら見えるマコトを見送っていると、視認できる範囲で家のドアをノックしたのが分かった。
「あら、意外と近い…って、ええええええ!??」
「スラムに住んでる割に案外たくましそうおお!??」
ドアが開いて短刀を渡すところまではよくある光景だった。が、短刀を渡した後にマコトが何かしらを言いながら頭を下げたあたりから、その依頼人だという父親が短刀の刃をひらめかせながら突如マコトに襲い掛かっていた。眺めていた俺たち二人はあんぐり口を開けて、必死によけながら涙目から号泣に変わりつつ父親から走って逃げていくマコトと憤怒の形相で追いかける父親と思わしき人物が目の前をすごい速さで通り過ぎ去っていくのを見送る。
「ま、まぁ…娘死なせそうになってたらそりゃ怒るわね…」
「たしかに、まぁ、教会送りになってたら飯でもおごってやるか…」
砂煙が上がるほどの勢いでかけていった二人を見送って、俺たちはもう一度マコトが見つけたNPCに合う算段をつけるのだった。