配達クエスト 8
肥料を撒き終わった僕たちは、ジェフリーお爺さんの家に戻ろうとするど、タカオがこんな事を言う。
「牧草がしおれてて、元気が無い気がするな」
それを聞いて、ジェフリーさんが答えた。
「ここの所、雨ばっかりだったからのう。やはり植物はお日様が出てこんと、育ちが悪い」
「ふーん。そうだユウリ。元気が無いなら『ヒール』とか『キュア』とか魔法を掛けたら良いんじゃないか? 回復しそうじゃん」
「えっ? ヒールを? うーん、植物に効くのかな? とりあえずやってみるよ。『回復の息吹』、『治療の奇跡』」
歩きながら、適当な場所に『ヒール』や『キュア』を掛けていく。しかし、植物が相手だと効果が無いらしく、何度やっても変化は無かった。
ジェフリーさんの家に着くと、まずお礼を言われる。
「すまんのう。肥料を撒くのに付き合ってもらって。とりあえず雨具を脱いで、くつろいでおくれ。婆さん、お客さんの分もお茶を頼む」
「はいはい、わかりましたよお爺さん」
部屋の奥からお婆さん声が聞えて、しばらくするとお茶を持ってきてくれた。匂いと色からすると、紅茶のミルクティーのようだ。
お婆さんは、湯気の出ているミルクティーを渡してくれる。
「はい、お嬢さんたちどうぞ。今日は遠いところからご苦労様」
「ありがとうございます。ご馳走になります」
そう言って、僕はお茶を受け取る。大きめのマグカップに入ったミルクティーを飲むと、紅茶のよい香りと、濃厚なミルクの味が口の中に広がった。これは体の芯から温まる、優しくて美味しい味だ。
「うめぇ~。こんな美味いミルクティー、飲んだ事がないぜ!」
タカオも僕と同じ意見のようだ。
「気に入ったようで何より。おかわりなら幾らでもありますよ」
褒められて、おばあさんは少し照れながら、奥の部屋に引っ込んでいった。
僕が依頼の書類を出して、ジェフリーさんに渡す。
「すいません。ええと、この荷物の受け取りの書類にサインをお願いします」
「ここじゃな。ふむ、これで良いかな?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます」
荷物の書類のやり取りをしている横で、タカオがミルクティーを飲みながら、ボソッと言う。
「そういえば街で牛乳はあんまり見なかったな。なんでだろ?」
その疑問に、ジェフリーさんが答える。
「生の牛乳は痛みやすいからのう。市場にはあまり流通しておらんよ」
「では、この牧場は何を出荷しているんですか?」
牛乳を出荷していないと聞いて、僕が質問をしてみると、こんな答えが返ってくる。
「乳製品じゃな。バターやチーズに加工して、市場に出しておる」
「牧場で作ったチーズかぁ、美味そうだな。ユウリ、1つ買っていこうぜ」
「うん、そうだね。良ければ売ってくれませんか?」
僕がジェフリーさんに聞くと、笑顔で答えてくれる。
「もちろん構わないんじゃが、まずは試食してから購入を決めてみてはどうかな? 今日はもう夕方なんで我が家に泊まっていくんじゃろ?」
「そうですね。宿泊馬車は持っていますが、ここに泊めて貰えると助かります」
「では決まりじゃな。晩飯にチーズを出すから、たらふく食いなさい。それで美味かったら買えば良い」
力強く言い放った。ここまで強気という事は、ジェフリーさんはチーズに関して、かなり自信があるようだ。
「牧場のチーズ料理か、いったいどんな料理が出てくるのかな?」
タカオがよだれを垂らしそうな顔で言うと、ジェフリーさんはキョトンとした顔で答える。
「いや、チーズといったら、そのまま食べるか、パンに塗って溶かして食べるかの、どちらかじゃろ?」
この答えには、僕が思わず声をあげた。
「えっ? 何か他に料理は無いのですか?」
「チーズを使った食べ方なんて、他に知らんのう」
……やはり、この異世界の料理は、未発達な部分がある。ここは僕が何か作るしかなさそうだ。
「僕は『料理』のスキルを持っています。せっかくなので、何か作らせて下さい」
「構わんよ。台所はこっちじゃ」
ジェフリーさんに言われて、台所に行くと、お婆さんが晩ご飯の準備をしていた。
「お婆さんは何を作っているんですか?」
僕が聞くと、こう答える。
「パンを焼いておるんよ。後は野菜のスープを作る予定だねぇ」
「牛乳とか、余ってますか?」
「牛乳なら、いくらでも余っとるよ」
僕はメニューを考える。スープはただ野菜を煮ているだけだ、ここに牛乳を使ったシチューを作れるだろう。チーズを使った料理は何にしようか……
僕が悩んでいると、タカオが声をあげた。
「ユウリ、俺はグラタンが食べたい。確かマカロニは買ってあったよな」
「うん、買ってあるよ。牛乳もチーズもあるし、確かにグラタンは作れるね」
「じゃあ、決まりだ。グラタンをよろしく!」
そう言い残すと、隣の部屋へ移動してくつろいでいる。まあ、今日一日、歩き詰めだったので、休みたい気持ちも分かる。僕もさっさと料理を作って休憩しよう。