配達クエスト 2
レストランでカレーについて話していると、エノーラさんが依頼の書類を作ってきてくれた。
僕は書類にザッと目を通し、サインをする。タカオは何も見ずにサインをした。
「書類の確認くらいしてから、サインをしてよ」
僕がタカオに言うと、タカオは親指を立てながら答えた。
「エノーラさんの作る書類に間違いはないぜ! エノーラさんなら、冒険者に無茶なクエストも振らないだろうし」
それを聞くと、エノーラさんが少し照れながら答える。
「いえ、契約には一通り目を通していただかないと困ります。地図は明日までに用意しておきますね。出発はできるだけ早い時期が良いので、明日の朝でも構わないでしょうか?」
出発の時間を決めようとすると、依頼主のロジャーさんが、それを止める。
「待ってくれ、まだ持っていく荷物の荷造りをしていない。明日の朝の出発は無理だ、昼までには用意しておくから」
「では、昼過ぎの出発という事で……」
エノーラさんが日程を決めようとするが、僕がこんな提案をする。
「荷物が店の倉庫にあるのなら、今から僕が行って回収しましょうか?」
「おお、それは助かる、じゃあ行こうか」
この後、僕とタカオはロジャーさんの店に行き、指定された荷物を次から次へと倉庫魔法の中に放り込んだ。
荷物は重そうな物が多く、手作業でやろうとすると重労働だと思うが、魔法だと一瞬で格納できる。
あっという間に収納が終わると、ロジャーさんがうらやましそうに言う。
「本当に倉庫魔法は便利だな。うちの店員にならないか? 破格の賃金で雇うぞ」
それを聞いて、タカオが強く否定をした。
「ユウリは俺のパートナーだからダメだ! 倉庫整理の依頼とかだったら、たまに受けても良いぜ」
「うーん、そうか。まあ、必要な時に依頼を出すのも手か…… 分った、その時はまた頼むわ」
ロジャーさんの雇用を断り、僕らはギルドの宿へと帰った。なにげなく使っている倉庫魔法だが、稼ごうと思えば、これだけでも稼げそうだ。
翌日の朝、僕らは朝食を取った後に、エノーラさんに声をかける。すると、1枚の紙を出してきた。
「こちら、目的地の『ジェフリー牧場』までの簡単な地図です。距離にすると、およそ50キロ。一日で到着するのは無理ですね」
エノーラさんは地図を指さしながら説明を続ける。
「ここから15キロほど先の地点に村があり、30キロのほどの地点に旅の商隊が休憩を取れるキャンプ場があります。途中の村で昼食を取り、『居住馬車』を使ってキャンプ場で一泊するのが良いでしょう。食料などは持ってますよね?」
その質問に、僕が答える。
「はい、一ヶ月分くらいはありますよ」
「それだけあれば大丈夫ですね。キャンプ場は、村のそばにありますが、何も無いただの空き地なので、こちらから装備を持ち込む必要があります」
地図を僕に渡すと、エノーラさんは会釈をしながら僕らを送り出す。
「雨が降っているので、無理をせず気をつけて行って下さい」
タカオが元気よく返事をする。
「それでは行ってきます。いくぜユウリ」
「ちょっと待ってよ。そんなに急がないでよ。では、エノーラさん、行ってきます」
「はい、お気を付けて」
雨具をつけたタカオが、小走りで飛び出して言ったので、僕は慌てて後を追いかけた。
天気は土砂降りの雨だ。僕らは、ブーツに雨傘に雨合羽という、完全な装備をして、雨の中を歩いて行く。
バシャバシャと、いつもより早く歩くタカオが言う。
「50キロだったら、少し急いで歩けば一日で行けないかな? マラソンランナーは40キロを2時間で進むぜ」
「いや、僕らには無理だと思うよ。あの人たちは、日々、地獄のような訓練を積んでいるんだから」
「俺たちは、魔王を倒す伝説のパーティーだぜ。大丈夫、そのくらいの距離、一日で行けるって」
「……まあ、行けたら行こうか」
「おう、目的地はすぐそこだぜ!」
初めは早足で歩いていたタカオだったが、2キロも行かないうちにペースは落ち、1時間も歩いていると、弱音を吐き出した。
「ユウリ、ちょっと休憩をしよう。疲れた」
「ほら、まだ、今日の中間地点の村にも着いていないよ」
「いや、もう無理、休もう、雨に打たれて体も冷えてきたし」
「う~ん、まあ、そうしようか。じゃあ、少し開けた場所じゃないと、居住馬車が出せないから、そこまでは歩こうか」
「ああ、そうしよう! よし、あそこの空き地までラストスパートだ!」
まだ、今日の中間地点の村にも着いていないというのに、ラストスパートとはどういう事だろう……
この後、2度ほど休憩をはさみ、昼過ぎあたりに中間地点の村へと着いた。
午前中の4時間で移動できた距離は15キロほど、30キロほど先のキャンプ場には夕方くらいには、おそらく着けるだろう。タカオの心が折れずに、歩き続けてくれたらだけど……