人狼の嫁探し 4
僕は人狼のリーダーのフィリベルトを女性化した。それまで狼のように毛むくじゃらだった体は、毛が無くなり、ほとんど人間と変らなくなる。狼っぽいのは耳と尻尾くらいしか残っていない。
異変に気がついた他の人狼たちが騒ぎ出す。
「フィリベルトさん、女になってますよ」「本当だ、女です」
「おまえら、何を馬鹿な事を言ってるんだ…… うおっ、胸がある!」
自分の胸を見て、慌てて隠すフィルベルト。今まで上半身は裸だったので、急いでシャツを着る。
シャツを着たフィリベルトは、自分を落ち着かせるように言う。
「おっ、落ち着け。ナニが簡単に無くなったりしないだろう……」
そう言って股間を探すが、もうそれは無くなっている。ゴソゴソと探し続けるが、無い物は無い。
この状況を見て、タカオが得意気に話し始める。
「あきらめろ。ユウリの魔法で、完璧な女になってるぜ」
事実を告げられて、フィルベルトは悲痛な表情でこんな質問をする。
「これ、一定時間だけだよな? すぐに戻るんだよな?」
「いいや、ずっとこのままだ。これからは女性として生きて行くんだな」
実は、もう一度、性別を反転させる魔法を掛ければ元に戻るのだが……
まあ、話がややこしくなりそうなので、ここは黙っておこう。
完全に女性になってしまったと聞いて、仲間の人狼が話しかける。
「フィルベルトさん、お体は大丈夫ですか?」
「ああ、まあ、痛い所とかは無いな。性別が変った以外は異常はなさそうだ」
「それはよかった。ところで俺と結婚して頂けないでしょうか?」
「はぁ? 何で男と結婚しなきゃならないんだ」
「いえ、もう女性らしいですし、俺と結婚しましょう」
このやり取りを聞いて、周りの人狼達が騒ぎ出した。
「抜け駆けをするんじゃねえ、フィリベルトさんは俺と結婚するんだ」
「いいや、俺とだ」「俺の方が良いですよ。家が裕福です!」
「おまえら、ちょっと待て!」
この場には10人ほどの人狼が居るのだが、すべてがフィルベルトに殺到した。
先ほどまでは迫る立場だったのだが、逆の立場になった。
「まて、まて、お前ら。何度も言うが、俺は男と結婚する気はない! 心は男のままだからな!」
フィルベルトが、何度も何度も断り続けて、ようやく他の人狼達が落ち着き始めた。
「ちぇ、ダメか」
「せっかく、同族の女性が目の前に居るっていうのに……」
「……そうだ。結婚がダメなら、せめてオッパイを見せて下さいよ。フィルベルトさんが女に変った時、俺の場所からだと見えなかったんです」
1人がとんでもない事を言い出した。フィルベルトは顔を赤くしながら答える。
「おっ、お前、何を言ってるんだ! 見せるわけないだろう」
「『心は男』なんですよね? それならオッパイを見せても良いじゃないですか、男なら問題ないでしょう?」
それを聞いて、周りも同調する。
「そうだ、オッパイを見せろ!」「オッパイ、オッパイ!」
話が変な方に転がり出した。
一度、暴走しはじめると、どんどん要求が膨らんでいく。
「見せるだけじゃ足りない。揉ませろ」
「そうだ、男の胸だったら揉んでも問題ないハズだ!」
「いや、待て! 男同士で胸を揉み合うなんて、おかしいだろう? 今まで一度もやった事はないよな?」
フィルベルトが思わず突っ込むが、周りの人狼は白々しく答える。
「いえ、俺たち、男同士で揉んでますよ」「そうです。毎日のように揉み合ってます」
みんなで口裏をあわせて、あからさまな嘘を付く。
なんだろう、その様子はあまりにも必死で、見ていてツラくなってきた……
このやり取りをみていたタカオが、人狼たちに呼びかける。
「なんだ、そうまでして胸を揉みたいのか? それなら考えてやっても良いぞ」
そう言って、胸を強調するセクシーポーズを取る。これには人狼たちの目が釘付けだ。タカオは続けて、こう言った。
「さて、揉みたいヤツは手を上げろ」
「はい」「はい」「はーい」
フィルベルト以外の全員が手を上げた。
手を上げた人狼たちを見ながら、タカオは僕に小声で言う。
「手をあげた連中に『神のいたずら』の魔法を掛けてくれ」
「えっ、この人たちも女性にするの?」
「ああ、そうすれば自分の胸を揉めるだろ」
「いやぁ、でも……」
「やらないと俺の身が危ない。俺だけじゃ足りないから、ユウリも揉まれると思うぜ。もしかすると揉まれた後に、さらに要求がエスカレートして……」
「わ、わかったよ。ここにいる男性を全て女性に変えよ『神のいたずら、性別の反転』」
辺りは光りに包まれ、全員が女性になった。
「ほら、全員が女性になったぞ、自分の胸なら揉み放題だ!」
タカオがそう言ったが、男性だった人狼達は、しばらく呆然と立ち尽くしていた。
やがて動き出すと、自分の胸を確認したり、股間を確認しはじめた。
「あれ、女になったのか?」「えっ? あっ? えっ?」
戸惑う人狼たちに、フィルベルトが言う。
「女になったんだ。とりあえず銭湯の女湯を覗きに行くか! 今なら堂々と入れるぞ!」
「はい」「賛成」「行きましょう!」
……どうやら深く考えるのを辞めたらしい。彼女たちは凄いスピードで街のほうへ走って行った。