誓約とギアス 1
「すいません。調子に乗りすぎてました。反省してます、男に戻して下さい」
女の子になった佐藤タカオは、わめき散らした後、ようやく落ち着いたらしい。冷静になると、許しを請うために、僕に向って綺麗な土下座をしている。
「いやあ、そんな事を言っても、またセクハラをやるでしょう」
「二度とやりません。神に誓って宣言します!」
タカオはかなり調子の良い事を言う。見た目は反省している様に見えるが、本当に本心から反省しているのだろうか?
「うーんでもねぇ」
僕が煮え切らない態度を取ると、タカオがこんな提案をしてきた。
「そうだ! スキル『神秘的な魅力』は異性にしか効かないので、まずはユウリ様が男に戻ってください。その後に俺を男に戻せばスキルは発動しませんよ!」
タカオが男に戻ると、また何か悪い事をやらかしそうだが……
まあ、その時になったら、僕が止めれば良いかもしれない。神様の力があれば何とかなるだろう。
それに、この提案を受け入れると、僕も男に戻れるので魅力的だ。この案に乗ってみよう。
「分ったよ。じゃあ、まず僕が男に戻るから『神秘的な魅力』が発動しないように、タカオが離れてよ」
「そうですね。女の俺に惚れられても困りますし」
タカオはそう言うと、かなり遠くに離れた。スキルの範囲距離は知らないけど、これだけ離れれば平気だろう。
「いくぞ、『神のいたずら、性別の反転』」
僕は自分に向って性別の変る魔法を使った。ところがなぜか魔法が発動しない。
「あれ? おかしいな? もしかしてMP切れで発動しないとか? とりあえずもう一度やってみよう、『神のいたずら、性別の反転』」
今度も魔法が発動しない。何か理由があるのだろうか? 不思議に思い、原因が表示されてないかと、神託スクリーンを見てみると『権限エラーの為、魔法が使用できません』と表示されていた。
何の権限エラーだろう? 考えていても答えが出てくる訳ではないので、女神、マグノリアス様に電話で聞いてみる事にした。
神託スクリーンの電話のアイコンを押すと、『マグノリマス』と『佐藤タカオ』の二人の名前があるので、マグノリアス様を押す。すると、あっという間に電話が繋がった。
「もしもし、マグノリマス様。すいません、お聞きしたい事があるのです。僕が自分に『神のいたずら、性別の反転』を掛けても、権限エラーが出てきて魔法が発動しないのです」
「あなたが男性に戻れない理由は、佐藤タカオの願いによるものです。佐藤タカオは『女神様と一緒に、異世界を冒険したい』という願いをしました。『女神と冒険』なので、あなたが『女』である必要があります」
「……つまり、僕がタカオと一緒に、この世界にいる間は、男には戻れないという事ですか?」
「ええ、そうなります。願いによって誓約が掛けられている状態ですね」
「それは困りました…… ちなみにタカオを再び男に戻す事はできますか?」
「問題なく出来ますね。誓約がないので自由に戻せます」
僕は頭を抱えて、ひとり言をつぶやいた。
「うーん、困ったなぁ。タカオだけ男に戻すと、また僕がイタズラされそうだしなぁ……」
「それならば『天界からのギアス』という呪いはどうですか。神と約束を結ばせて、その約束を破ると自動的に罰が下ります」
「ギアスの発動条件と効果は、自由に決められるのですか?」
「相手に約束を提示して、承諾してもらう必要がありますが、自由に決められますよ」
「ありがとうございます。何とかなりそうです」
「それでは念話を切りますね。何かあったら相談して下さい」
そう言い残すと、マグノリアス様との電話が切れた。さて、ギアスの内容はどうしようか?