護衛任務 19
「俺がサクッと倒して来てやるぜ!」
ジャッカロープを見つけると、タカオは突っ込んで行った。僕があわてて止めようとする。
「ちょっと待ってよ、みんなで協力して倒さないと、フレディ君にも経験値が入らないでしょ」
「いや、パーティーを組んでいるだけで大丈夫なハズだ! ゲームとかでもそうだろう」
「この世界はゲームじゃないんだから……」
僕があきれながら言った。
ジャッカロープは、僕らが走って向っている事に気がつくと、逃げようとする。3対1では不利だと思ったのだろう。そこで、僕が地面を隆起させて土の壁を作る。
「逃げ道をふさげ『隆起!』」
高さ3メートル、幅7メートルくらいの土の壁が現われて、ジャッカロープの行く手をふさいだ。
逃げ場をなくしたジャッカロープは立ち止まり、そこにタカオが攻撃を加える。
「くたばれ! 『強撃』」
スキルを使った強烈な一撃をみまうと、ガキンとジャッカロープは角で受け止めた。一匹と一人はそのまま、つばぜり合いのような力比べに移る。
「ほら、俺が押さえているうちに、早くトドメを!」
タカオがさっそく僕に助けを求めてくる。先ほどまでは1人で倒すと言っていたのに……
メイスを握りしめ、援護に入ろうとしたら、横からフレディ君が攻撃をしかけた。
「えいっ!」
フレディ君は、足のむこうずね。いわゆる弁慶の泣き所に強烈な一撃をお見舞いした。
鉄の塊で、そんな場所を殴られたジャッカロープは、完全に動きが止まる。その表情は、心なしか涙目にも見えた。
硬直している所を、僕が後頭部を殴り、トドメを刺す。
「やったぁ」
「いぇーい、ナイスフォロー」
フレディ君とタカオがハイタッチをする。打ち合わせもとくにしていなかったのだが、予想外に連携が上手くいった。
ジャッカロープの死体を、倉庫魔法にしまうと、タカオが先頭に立って歩き始める。
「よーし、この調子でどんどん狩ろうぜ」
僕らは村の農家さんに教えてもらった、ジャッカロープの出没する地点を巡っていく。
行く先で、何度かジャッカロープと遭遇し、戦闘があったが、僕たちは上手く処理する事が出来た。経験値を分ける為だけに組んだパーティーだが、意外と相性が良いのかもしれない。
次から次へと倒していき、本日、4匹目のジャッカロープを倒した後に、タカオが言う。
「もうそろそろフレディのレベルが上がったんじゃないかな?」
「いや、まだ早いでしょう。でも、けっこう時間が過ぎているから、そろそろお昼の休憩にしようか」
「おう。じゃあ、ユウリ、いつもの出してくれ」
僕が道端に、居住馬車を出した。いきなり小屋のような大きな馬車が現われたので、フレディ君が驚く。
「これ、どうなってるの?」
質問されると、なぜかタカオが得意気に答える。
「今まで倉庫魔法の中にしまっていたんだ。さあ中に入ってお昼にしようぜ!」
居住馬車の中に入り、テーブルの上に食事を広げる。今日のお昼は、トマトソースのスパゲッティだ。
茹で上がった状態で、倉庫魔法にしまっておいた麺を取り出し。あらかじめ作っておいた、アツアツのソースとあえるだけで、料理が出来上がった。
料理を広げると、フレディ君がそわそわし始めた。早く食べたいのだろう。
「じゃあ、みんなで食べようか」
「そうだな。いただきます」
「「いただきます」」
食事の挨拶をすると、タカオはガツガツとスパゲッティを食べ始めた。それに釣られて、フレディ君も夢中になって食べている。どうやらこの料理を気に入ってくれたらしい。
食事が終わると、フレディ君のシャツにトマトソースの染みがついていた。前の現実世界では、この染みはとても厄介だが、この世界では違う。
「フレディ君、ちょっと動かないでね。ソースの染みを落とすから。清めたまえ『洗浄』」
『洗浄』の魔法を唱えると、染みはあっという間に消える。この便利な魔法を見て、タカオがポツリという。
「魔法ってのは、本当に便利だな。そう言えば、レベルが上がったとして、ポイントを使ってスキルを覚えるのはどうするんだ?」
僕が、新たなスキルを取得した時を、思い出しながら答える。
「えーと、冒険者ギルドには、スキルが付与できる魔法器具があったよね。街の冒険者ギルドまで行って覚えるのかな?」
すると、フレディ君が教えてくれる。
「村の教会にも、生活魔法などの一般的なスキルを付けられる魔法道具はあるよ」
「そうか、それなら問題は無いな。経験値を稼いで村に戻るか。すぐに出掛けよう!」
タカオが凄い勢いで居住馬車から出て行き、それにフレディ君が続く。僕も急いで外に出て、収納魔法で馬車をしまうと、後を追いかけていく。
フレディ君のレベルが上がるほど、ジャッカロープの数を狩れるだろうか。