護衛任務 15
お風呂場の覗き騒動が終わり、覗いた新人さんへの制裁が終わると、何事もなかったかのように夜がすぎていく。僕とタカオはベッドでゆっくりと眠りについた。
翌日、空が明るくなり、僕は目が覚めた。まだ起きていないタカオを起こすと、２人で顔を洗いに水場へと行く。すると、焼きたてのパンの匂いが漂ってきた。手早く身支度をすると、料理を手伝う為に２人で台所へと行く。
「おはようございます」
「おはようございます。ユウリ先生」
僕が挨拶をすると、奥さんは軽く会釈をしながら答えてくれる。
作っている料理を見ると、パンと野菜の入ったスープだった。
スープには、昨日、僕が教えた通りにコンソメが入っているようだ。一口、味見をさせてもらうと、美味しく出来ていた。
味見をすると、奥さんが僕に聞いてくる。
「どうでしょうか？」
「完璧ですね。もう僕が教える事はないんじゃないでしょうか」
「またまた、お世辞が上手ですね」
２人でなごやかに話しているのだが、この雰囲気をタカオが壊す。
「これだけだと少ないかも。もう一品くらい欲しいかも？」
この意見に僕は反対をする。
「朝食だったら、このくらいでもいいんじゃないの？」
「いいや、もう少しガツンとした物が食べたいな」
「分ったよ、じゃあ、昨日の晩ご飯の残りで手を加えようか」
僕は、倉庫魔法からトンカツを取り出した。パンに切れ目を入れて、その中にキャベツの千切りとトンカツを切った物を入れる。味付けはウスターソースと、少しだけマスタードをかける。
「おっ、さすがユウリ。カツサンドか、ウマそうだな。どれ、ひとくち味見を……」
タカオが手を伸ばしてきたので、僕はそれを躱して、カツサンドを奥さんに渡した。
「味見をお願いします」
奥さんは、カツサンドを一口だけ食べると、笑顔でこう言った。
「トンカツの肉汁と、キャベツの千切り、パンの味の調和が素晴らしいです。信じられないくらい美味しいです」
「では、これを作りましょうか。全員の分を作るので、大変ですが……」
「やりましょう。この美味しさは広めるべきです！」
奥さんがやる気になり、この後、３人でひたすらカツサンドを作った。
カツサンドを作り終えると、職人さん達も起きて来たようだ。
昨日、作った石のテーブルに座り、朝食はまだかと、心待ちにしている。
農家の旦那さんとお子さんを外に呼んで、みんなで外で食事を取る事にした。
全員が揃うと、カツサンドを配る。トンカツの美味しさは、味わったばかりだ。
「美味そうだ」「早くかじりつきてぇ」
そんな声が聞えてきた。
最後にタカオにカツサンドを配ると、いよいよ食事の始まりだ。
「いただきます」
タカオの前にカツサンドを置くと、タカオは周りも見ずに真っ先に食いついた。
みんな、ガツガツとカツサンドを平らげていく。
「お代わりもあるので、慌てないで下さい！」
僕がそう言っても無駄だった。人数の３倍くらい作ったカツサンドは、気がつけば無くなっていた。
食事が終り、スープを飲みながら職人さん達が会話をする。
「今日の朝食もすげぇ美味かったな」「ああ、脂っこいカツと、爽やかなキャベツの千切り。ウスターソースとマスタードの相性も格別だった」
食べ終わってから、ようやく感想が聞けた。どうやら今回の食事も好評だったらしい。
今日の僕とタカオには仕事がある。農家の息子さんを、村の教会につれて行く任務を引き受けたからだ。
食事の後片付けが終わると、奥さんが息子さんを連れてきた。
「それではよろしくお願いします。フレディ、お姉ちゃん達の言う事をよく聞いてね」
「分ってるよ。よろしくねお姉ちゃん」
「おう、俺たちに任せておけ」
「よろしくね」
タカオと僕は挨拶をすると、フレディ君と３人で村の教会を目指す。
畑の間の農道を、ゆっくりと歩いて行く。農家の旦那さんの話だと、村の中心まで、大人の足であるいて１時間ちょっとという話だ。子供がいるので、もう少し時間がかかるだろう。
歩きながら、僕はフレディ君に話しかける。
「これから魔法がつかえるかどうか調べるんだけど、フレディ君は魔法が使えたら何に使いたい？」
「水を作ったり、火をおこしたり、生活魔法を覚えたい。お父さんとお母さんは魔法が使えないから、ボクが魔法でお手伝いをするんだ！」
「おう、偉いなボウズ」
タカオはそういって、フレディ君の頭をクシャクシャと乱暴になでる。
フレディ君は「エヘヘ」と照れ笑いをしていた。両親思いの、とても良いお子さんらしい。
タカオがフレディ君に言う。
「生活魔法に関しては、このユウリお姉ちゃんに聞けばいいぜ。何でも知ってるからな」
「教えて、ユウリお姉ちゃん！」
「そこまで詳しくないけど、基本的な事は……」
魔法の説明をしながら歩いていく。途中、休憩を何度かはさみ、僕らは村の教会へとたどり着いた。
