護衛任務 14
30分ぐらいかけて風呂の準備が出来る。
ちなみに、風呂の周りには石の支柱を建てて、ロープを張り、そこにベッドのシーツをかけて、周りから見えないようにした。目隠しに、石の壁で覆ってもよかったのだが、親方に通気性が悪くなると言われたのでやめておく事にした、下手をするとカビが生えてくるらしい。
お風呂が沸くと、タカオが言う。
「風呂が沸いたから、みんなで一緒に入ろうぜ」
風呂はあまり大きくなく、2人用で、ここには農家の奥さんも居る。3人一緒には入れないだろう。
「お風呂があまり大きくないから、僕は後でいいよ。誰かがお湯を沸かす鍋をみていなきゃいけないし、2人で先に入って来て」
奥さんの年齢は30歳付近だろうか、そこまで年齢はいっていない。タカオはジッと奥さんの体をみて、こう言った。
「分った。奥さん、お風呂の経験はあまりないんですよね?」
「ええ、ほとんど経験はありませんね」
「俺が手取り足取り教えてあげましょう。さあ、こちらへ」
ニヤけながら風呂の方へと行く、あきらかに下心がありそうだ……
鍋の近くからでは、湯船の方がよく見えない。タカオと奥さんの声が聞えてきた。
「奥さん、湯船に入る前に体をよく洗って下さい。きれいな体で湯船に浸かって、お湯を汚さないのがマナーです。お背中を流しましょうか?」
「いえ、大丈夫です。肌を見られるのは恥ずかしいので……」
「女同士なんで大丈夫ですよ。街の公衆浴場では、みんな裸で気にしません。さあ、奥さんもさらけ出して!」
タカオが調子に乗ってきたので、僕は洗い場まで走って行って、鍋をかき回していた柄杓で、タカオの頭をコツンと叩く。
「いってぇ!」
「ほら、無理に迫らない」
「分ったよユウリ。しょうがないな、じゃあ胸の方を」
僕は再び、コツンと頭を叩く。
「いってぇ! 冗談だって」
奥さんは、あきれた感じで「ハハハ」と笑っていた。
この後、タカオはまともに説明をしていく、体をちゃんと洗って、いよいよ湯船に入るようだ。
「滑るかもしれないので、気をつけて。おっ、ちょっと熱いかな?」
それを聞いて僕は空のバケツを持っていく。湯船の近くに置くと『製水』の魔法で水を満たした。
「熱いなら、それを使って」
「サンキュー、ユウリ。とりあえず半分くらい入れてみるか…… 良い感じになった。奥さんも、どうぞ」
「あっ、はい。では失礼して…… ふう、なるほど。これは気持ちいいですね」
2人が湯船に浸かってから、タカオが変な事をしないか、僕は聞き耳を立てる。
「おおぅ、やっぱり風呂はいいな」
「なるほど。これはいいですねぇ~」
聞えてくるのは、心の底からリラックスした声だった。どうやらタカオは問題を起こしていないようだ。
やがて奥さんがタカオと、何気ない話をしはじめた。
「『制水』の魔法、便利ですよね。井戸汲みが要らないなんて……」
「そうだな、とても便利だと思う」
「私も魔法が使えたら良いんですけど、適正が無いみたいで」
「だれでも魔法が使えれば良いのにな。家族で魔法が使える人はいないのか?」
「旦那もあまり魔法の適正がないみたいですね。息子はまだ適正試験をしてないので、分りませんけど」
「適正試験ってヤツは、受けるのが面倒くさいのかな?」
「いえ、村の教会にいって、銀貨3枚を払えば、簡単に分ります。測定の魔法器具があるので」
「それなら一度、適正試験ってヤツを受けさせてみたらどうだ? 俺たち、明日も暇だからさ、教会に息子さんを連れてってやるよ」
「本当ですか? それならお願いしようかな」
わきあいあいと話している。どうやらかなり仲良くなったようだ。
しばらくすると、こんな注文が入る。
「ユウリ、ちょっと温度を上げてくれ」
「わかったよ。今、いくね」
バケツにお湯をいれて、湯船の近くまで持っていき、湯船に着くと、柄杓でチョロチョロと、ゆっくりと注いで行く。
「どう? 温度は?」
「ああ、良い感じだな。ん? ユウリ、ちょっと柄杓を貸してくれ」
「いいけど、何をするの?」
「こうするのさ、くせ者!」
タカオは、バケツにくんできた温度の高いお湯を、目隠ししているシーツに振りかけた。
「うぉ、あっちい!」
シーツの向こう側から、若い男の声が聞えた。
「キャー!」
覗いていた人は、親方によく殴られている若手の人だった。
「あ、あっちぃ!」
お湯の温度はあまりたいした事はないが、念の為に治療をしておく。
「火傷を治したまへ『回復の息吹』」
奥さんが悲鳴をあげると、農家の旦那さんと職人さん達がやってきた。親方が拳をパキパキと鳴らしながら、若手の人に迫る。
「おう、おめぇ、どういう了見だ!」
親方に言われて、若手の人が必死に言い訳を考える。
「ええと、その、大工道具をこの付近でなくしまして……」
「大工道具を無くすとは、良い根性してるじゃねーか! ちょっとこい!」
「いえ、実はなくしたわけじゃなく、あいた! いて! いたっ!」
遠くに連れて行かれて、親方にボコボコに殴られている。これは、あとでヒールをもう一度かけた方がよさそうだ……
若手の人が連れて行かれると、僕たちの方は再び入浴へと戻った。
なんで気がついたのか、僕はタカオに質問をする。
「どうして覗きが分ったの?」
「それに俺がヤツの立場だったら、間違いなく覗きに行くからな。絶対にこのチャンスを逃さないぜ!」
タカオは胸をはって答える。いや、そんな事を誇らしげに言わなくても良いんじゃないだろうか……