護衛任務 5
親方と解体に行ったタカオは、しばらくしてから、青ざめた顔でジャッカロープの肉塊を持って帰ってきた。
「ユウリ、毛皮はダメにしちまったけど、肉はなんとか確保できた」
「お疲れさま、この肉は大切に使わせてもらうよ」
そう言って、倉庫魔法に格納する。さすがのタカオでも、動物をさばくのは精神的に堪えたらしい。
そんなやり取りをしていたら、施工主の農家さんがやって来た。
「あれ? もう建物の骨組みが出来てますね。早すぎやしませんか?」
あまりに作業が早すぎて、手抜きで工事を進められたのかと不安になったのだろう。親方が建設現場まで連れて行って、説明をしはじめる。
「土台の部分は『整地』と『石の壁』の魔法で作ったから早いんです。ちょっと確かめてくだせぇ、地面がこれ以上ないくらい硬くなってるでしょう」
「どれどれ…… 本当だ、人間業じゃ出来ないくらい硬くなっている。基礎の石の壁も、深く埋まっているみたいで、押したくらいじゃビクともしない」
「そうでしょう。これを人手で作るとなると、10日くらいかかるんじゃあないですかね。このレベルの基礎は、はっきり言って、このサイズの蔵の建物には勿体ないくらいです。大きな教会とか作るレベルの基礎ですぜ」
「建設に関しては素人だが、良いモノってのは充分に分ったよ。ありがとう」
農家さんは納得したようにうなずいた。どうやら、僕が魔法で作った家の基礎は、かなり良いモノらしい。
作業に満足した農家さんは、思い出したように話し出した。
「そうそう。うちで作った野菜を晩ご飯に使ってもらう為に、ここに来たんだった。今持ってくるから待っていてくれ」
そう言って、農家さんは納屋に行き、少し時間が経つと、荷物運び用の一輪車に満載の野菜をのせて戻ってきた。職人さんたちは10人以上居るのだが、あきらかにこの量は多い。しかし、親方はこころよく受け取った。
「ありがたく受け取っておきます。ところで、ここに居るユウリお嬢ちゃんは、凄腕の料理人で、ユグラシドル級の料理を作れるんですぜ」
「……ユ、ユグラシドル級。あの伝説のですか?」
農家さんが驚いた顔で答える。料理の表現で出てくる、ユグラシドル級って、いったいどなレベルなんだろう?
親方は農家さんに話を続ける。
「ユグラシドル級の料理、食べてみたくありませんかい?」
「そりゃあ、もちろん食べてみたいに決まってる」
「ユウリ嬢ちゃん、今日の料理は少し多めに作ってもらえないかな?」
「15人分が16人分になっても、大して手間は掛からないので平気ですよ。ところでユグラシドル級って……」
僕が質問しようとすると、農家さんが話に割り込んできた。
「ぜひ、妻と息子の分も頼む。食べさせてやりたいんだ」
「あっ、はい。分りました、良いですよ」
こうして、僕が料理が、必要以上に期待されてしまう。そこまでたいした料理は作れないのだが……
しかし、ユグラシドル級って本当になんだろう?
農家さんと話が終わると、職人さんたちは再び仕事に戻っていった。
僕は渡された野菜を見て、今晩のおかずを決める。
カボチャ、ニンジン、タマネギ、ナス、プチトマト。他にも野菜があるのだが、目立った食材はこんな所だろうか。この間のようにカレーを作っても良いのだが、今日は違う料理にしようと思う。
僕は、会話のできる鍋『エルビルト・シオール』を取り出した。そして、こんな質問をする。
「『天ぷら』を作ろうと思うんだけど、僕に出来るかな?」
「マイ・ロード、もちろん出来ますとも。マイ・ロードは天ぷらは塩派ですか? 天つゆ派ですか?」
「うーん。個人的な好みとしては天つゆだけど、両方あった方が良いかな」
「了解しました。まずは天つゆを作りましょう」
エルビルト・シオールの言うとおり、昆布と魚粉からダシをとり、天つゆを作る。その間に、タカオには食材を切ってもらう。
天つゆを作っている時に、エルビルト・シオールにこんな事を聞かれる。
「マイ・ロード、天丼のタレは作りますか?」
「あっ、いいね。作っておきたい」
「では、天つゆの後に作りましょう」
こうして、天つゆと天丼のタレが出来上がった。タカオの野菜のカットも、そこそこ進んだようなので、いよいよ天ぷらをあげる作業に取りかかる。