おつかいクエスト 2
僕は、農家の倉庫を清掃するクエストを受けた。
開けられたドアから、倉庫の中を覗いて見る。すると、チュウチュウと鳴き声が上がり、ネズミらしき影が見える。
「うわぁ」
僕は思わず声を上げると、ネズミらしき影も驚いた様で、スルスルと柱を登り、壁の穴から外へと逃げていった。
他にもネズミがいないかと、警戒しながら部屋の中に入る。すると、ネズミは居なかったものの、嫌なニオイが漂っている。
僕は出来るだけ息を止めて、まずは建物の雨戸を開ける。窓から光が小屋の中に差し込んできて、部屋の惨状が見えてきた。
何に使うか予想もつかない、農機具らしき大きな道具がいくつもあり、ゴチャゴチャしていて見通しが悪い。
床には所々にネズミのフンが落ちていて。肥料の『油かす』の袋が、破れて散らかっている。おそらくネズミに食い散らかされたんだろう。酷いニオイは、これが原因のようだ。
僕は雨戸を開けると、ひとまずドアから外へ出る。とにかくニオイが酷すぎる。これは、魔法でなんとかなるのだろうか?
とりあえず試しに、目についたネズミのフンに『洗浄』の魔法をかけてみる。
「汚れを清めたまえ『洗浄!』」
魔法を唱えると、フンとその周りの床が光に包まれて、その光が収まると汚れが跡形もなく無くなっていた。
「おお、すごい!」
僕は思わず声をあげる。黒ずんだ床は、魔法をかけた部分の、直径30cmの場所だけ、白くピカピカに変っている。汚れる前は、こんな色合いだったのだろう。
効果が分ったので、ネズミのフンのある場所を見つけては、片っ端から魔法をかける。
「清めたまえ『洗浄!』『洗浄!』『洗浄!』せ……、あれ? もうMPが切れた」
僕のMPは32あるのだが、4回の魔法でMPが切れてしまった。
MPの消費は8を越える。確か、この魔法は、汚れが酷いほどMPを消費するハズだ。骨折を治すヒールの消費が5だったので、それだけこの汚れが酷いという話なのだろう。
僕は『魔力の自動回復』という、スキルを持っている。ギルドカードで、現在のMPをチェックしていると、30秒で3くらい回復するようだ。
MPが回復して来たら魔法を撃ち、しばらく休憩しては、また魔法を撃つ。そんな事を繰り返して居ると、ネズミのフンは見当たらなくなった。どうやら全て始末したらしい。
次の清掃のターゲットを何にしようか考えて居ると、依頼主のお婆さんがやってきた。
「どうだい? はかどっているかい?」
「えーと、少しは進みましたね」
「とりあえずお茶でもどうだい? 無理に急いで作業をやる必要はないよ」
「はい、それではごちそうになります」
自分に『洗浄』の魔法をかけてから、お婆さんの家に入る。
美味しい手作りのクッキーと、香りの良い緑茶を頂いた。この世界の世間話を聞きながら、ゆっくりとした時間をすごす。充分に休憩をすますと、僕は再び清掃作業に戻った。
「『洗浄!』『洗浄!』、ふう、意外と時間がかかるな」
僕は部屋の隅から、床を塗りつぶすように『洗浄』の魔法をかけていく。
1回の魔法で綺麗にできるのは、直径30cmくらいなので、とにかく進まない。部屋の8分の1ほど洗浄したところで、日が傾きはじめた。
今日はここまでにしておこう。窓をしめて、倉庫の鍵をかける。そしてお婆さんに一言、今日の作業を終えた事を伝えて、僕は図書館へと向う。
図書館に向ったのは、今日、見てきた、訳の分らない道具たちの使い方が気になったからだ。図書館に入ると、いつものお婆さんに本の場所を聞く。
「すいません。農機具の図鑑みたいな本はありますか?」
「まあ、あるよ。図鑑というより、どちらかと言うと、販売用のカタログだけどね。道具の用途、使い方などが説明された本だ、それで良いかい?」
「はい、お願いします」
「ほいよ、これだね」
お婆さんはあっという間に一冊の本を持ってきてくれた。僕はその本を受け取ると、読書コーナーの机へと向う。
本を開いてページを読み進める。そこには、いくつか見かけた道具が載っていた。
棒がたくさん突き刺さった樽のような装置は、脱穀機といって、米や麦、稲穂や麦穂から、実の部分だけ振るい落とす装置らしい。他にも馬鍬といって、馬に引かせて地面を耕す装置や、種まき機などの道具の使い方や説明が載っていた。
感心しながら読み終えると、僕は明日の事を考える。『洗浄』の魔法は、MPをかなり消費する。消費が多いのは汚れが酷いからだ。前もって、ある程度は手作業で綺麗にしておけば、MPの消費をおさえられるのだろうか? 明日にでも、タカオに手伝ってもらって、試して見よう。
そう考えながら、自分のギルドカードをみてみる。すると、32だったMPが47に増えていた。
「あれ? なんでだろ?」
レベルの所を確認すると、2から3へと上がっている。どうやら知らない間にレベルアップしていたらしい。