導きの神、ユウリ 1
赤く揺らめく人魂を前に、僕は緊張をしている。これからこの魂を、正しく異世界へと送り出さなくてはいけないからだ。
女神、マグノリアス様は、『念話』を使って、僕の心に直接語りかける。
「堂々としていれば大丈夫です。神託スクリーンにある台詞を読んで下さい」
僕はタブレット端末のようなスクリーンを見ながら、そこに表示された文字を読み上げ始める。
「僕は導きの神、ユウリ。『佐藤タカオ』よ目覚めなさい、これからあなたは勇者となって異世界を救うのです」
赤い人魂に問いかけると、暗く静かな声が返ってきた。
「……もしかして俺は死んだのか?」
「はい、残念ながら、あなたは若くして不遇の死を遂げました」
「異世界とか言っていたな。俺は異世界に飛ばされるという訳か?」
「ええ、そうなりますね」
スクリーンによると、享年21歳らしい。まだ若いのに、死んでしまってショックだろう。やりたいこともまだまだあったに違いない。
「うおぉぉっ! やったぜぇ! 異世界転生だ! この俺が異世界転生の主人公に選ばれたぜ!」
ん? なんだこのハイテンションは? 死んだはずなのに、こんなに喜ぶなんて……
人魂の反応を見て、困惑している僕に、マグノリアス様が念話で話しかけてくる。
「異世界転生の話をすると、だいたいこんな感じですよ。みんな大喜びします」
「ほ、本当ですか? 死んでしまったというのに?」
「ええ、そうですよ、現世より異世界の方が良いらしいですね。試しに、まだ現世に復活しようとすれば出来ると伝えて下さい」
「分りました、伝えます」
僕は赤い人魂に向って語りかける。
「落ち着いて聞いて下さい、あなたの魂はまだ現世に引き返せます。無理に異世界に進まなくても構いませんよ、どちらの道を選びますか?」
「もちろん異世界で!」
即答で返事が来た。いったいどうなってるんだ……
ハイテンションな魂が、僕に向って話しかけてくる。
「アレだろ? 何か特別なスキルとか、神器級の伝説の武器とかもらえたりするんだろ?」
「ええ、あなたにはこれから3つの『ユニークスキル』を授けます」
「ひゃっほう! 3つも貰えるのか、一つだけだと思ってたのに、ヤバいぜ! 最高だぜ!」
「えー、では、まず説明を……」
「俺、絶対に欲しいスキルがあるんだ! このスキルは譲れないぜ!」
僕が説明しようとすると、興奮状態の魂がそれを遮って、何かを語り出した。
「俺さ、生きてる間は、女の子にぜんぜんモテなくてさ、異世界に行ったらモテたいんだよね。だからそういった効果のスキルを下さい!」
いきなり無茶な要求が来た。そんな都合の良いスキルは無いだろうと思っていたら、神様をサポートするシステムが、それっぽいスキルを3つも抽出してきた。その中で、僕はもっとも無難なスキルを紹介する。
「分りました。『英雄の雄姿』、このスキルはいかがでしょう? あなたの行動が高く評価され、カリスマが上昇するスキルですね。その効果は仲間だけでなく、敵からさえも評価されます」
「それはイヤだな。敵から評価されてもしょうがないし、男に気に入られても意味が無い。俺は女の子にさえモテれば良いんだ!」
かなり強く拒否をされる。まあ、女の子にモテたいという気持ちは分らなくはないので、僕は次のスキルを紹介する。
「では『魅了の魔目』というスキルはどうでしょうか。魔力を消費して相手を見る事により、服従させることが出来ます。いったん魅了してしまえば、永久的に効果が続きます。男性、女性、どちらにも効果がありますし、モンスターにも使えて、配下にする事もできます」
「モンスターを配下しても楽しくないだろ。それに女の子を魔力を使って無理やり服従させるのは、ちょっとね。俺の流儀に反するかな」
……モテないくせに注文が多い。確かに女の子を無理矢理に服従させるというのは、あまり気が乗らないのも分るけど。
僕は最後のスキルを紹介する。
「『神秘的な魅力』というスキルはどうでしょう? 異性に対して好感度が最高に上がるスキルですね。このスキルは常時発動型で、常に異性から注目されるようになります」
「それだ! まさに俺の探し求めていたスキルそのものだ!」
「このスキル、対象は異性だけで、同性には効果が無いんですが、本当に大丈夫ですか?」
「男なんかにモテたくねえし! 俺はこのスキルを取得するぜ!」
こうして『佐藤タカオ』が異世界に持っていく、一つ目のスキルが決まった。