新しいスキルの効果 3
昼食を食べ終えて、薬草を採取し終わった僕たちは、再びジャッカロープの狩りに戻る。畑と果樹園の間を歩きながら獲物を探していると、草むらか生えている木が動いている。
おそらく擬態したジャッカロープの角だろう、しばらく遠くから観察をしていると、草むらからジャッカロープが飛び出してきた。
いつもなら迎え撃つように飛び出して行くタカオだが、今回は冷静だ、チラリと自分のギルドカードを確認して、こう言った。
「昼に休憩したからMPが少し回復している。『花吹雪』のスキルを使って、俺が戦ってみるよ、ユウリは援護をしてくれ」
「『花吹雪』って、エフェクトで戦闘には効果が無いんじゃないの?」
「そうだと思うんだが、試してみなければわからないだろう? いくぜ、百花繚乱『花吹雪!』」
……百花繚乱か、タカオは多分、このスキルの発動のセリフを考えていたんだろう。どのようなスキルか分らないが、何か特別な効果があるんだろうか?。
スキルを発動すると、タカオの周りには、なぜか桜の花びらが舞い落ち始める。そして、タカオがジャッカロープに向って走って行くと、通り過ぎた後を追うように、派手に花びらが舞い散る。その様子は、まさにゲームのキャラクターそのものだ。
「いざ尋常に……」
タカオがそこまで言いかけると、ジャッカロープはこちらを見て、全力で逃げ始めた。
「えっ、おっ、ちょっと待て」
タカオは慌てて追いかけるが、相手はウサギだ、あちらの方が早い。
僕が急いでジャッカロープの行く手の妨害をする。
「地面よ、高き壁となって行く先を阻め『隆起!』」
土壁を出すが、ジャッカロープはその脇を縫うように走り抜けていき、果樹園の中に逃げ込んだ。
僕はそのさらに先に壁を出そうとするが、果樹園だと樹木が邪魔になってうまく狙いがつけられない。
ガサガサと音を立てて、ジャッカロープはさらに奥の茂みの中へと姿を消す。
「に、にげられた……」
タカオが呆然としながらつぶやいた。こうなってしまうと、もうどうしようもない。
「まあ、たまにはこういう事もあるよ。次の獲物をさがそう」
タカオを励まして、僕らは再び歩き出した。
40分くらいは歩いただろうか、ようやくジャッカロープを発見する事が出来た。
果樹園の中で、2匹が小競り合いをしていて、コチラには全く気がついていない。
「チャンスだな、不意打ちみたいで悪いが、いきなり攻撃をするぜ」
こっそりと近づこうとするタカオ。しかしジャッカロープ2匹に気がつかれた。
『花吹雪』のスキルは、かなり特殊で、一度発動させてしまえば、MPを消費させずに効果を継続させる事が出来る。タカオは前の戦闘から、このスキルを出しっぱなしにしていた。
足音を立てて気がつかれたのか、花びらが視界に入って気がつかれたのか分らないが、二匹はタカオを見ると、すぐに小競り合いをやめて、それぞれの方向へ逃げ始める。
「あっ、ちょっ、逃げるな!」
僕は再び土の壁を出そうとするが、あきらめる。果樹園で無理矢理この魔法を使うと、木を倒してしまいそうだ。
「えっ、どっちだ!」
タカオは、どちらのジャッカロープを追おうとするが、一瞬、迷った。この判断の迷いは致命的で、もう絶対に追いつけない距離までにげられてしまった。
「ああ、また逃げられた……」
「まあ、レベルアップして、ジャッカロープに逃げられるくらい、強くなったと思えば良いじゃない。今日は図書館に寄りたいから、そろそろ切り上げない?」
「うん、そうするか。とりあえず『花吹雪』をオフにしておこう」
僕がフォローをすると、タカオは直ぐに持ち直した。僕たちは方向を変えて、街へと戻り始める。
帰り道の途中、たまたま一匹のジャッカロープに出会う。
このジャッカロープは、早々に僕たちの存在に気がついたようだ
「おらぁ、いくぜ! どうせ逃げると思うから、ユウリは逃げ道を断っておいてくれ」
「分ったよ、任せて」
たまたま草むらに居たので、今回は周りに気づかう必要もない。『万里の長城のような長い壁を作って、逃げ道を完全に絶ってやろう』。そう思っていたら、ジャッカロープはまっすぐタカオに突っ込んできた。
「おお、根性あるな。このタカオ様が相手をしてやろう!」
タカオは身構えると、角の突進をを受け止める……
はずが、力負けをして、尻もちをついてしまう。
「いって、おっ、ちょ、ちょっと待った」
ジャッカロープはそのまま頭を大きく振るい、角を叩きつける。
タカオは刀でなんとか受け止めているが、全て受け切れておらず、ときどき攻撃をもらっている。
「痛い、助けてユウリ」
タカオに攻撃を続けるジャッカロープに、僕は後ろから近づくと、頭に向って一撃を入れる。
「ギュウ」
ジャッカロープは完全に動かなくなった。
これは何だろう? タカオを警戒したわけではなく、『花吹雪』のスキルを警戒していただけだろうか?
確かに見たこともないスキルなので、警戒する気持ちも何となく分るけど……
とりあえず、このスキルは使わない方が、狩りが上手くいきそうだ。