異世界クッキング 2
食材を買い終わると、僕たちは冒険者ギルドに戻ってきた。ギルドの炊事場で本格的な調理を始める前に、僕がタカオにこんな提案をする。
「倉庫魔法の中だと、時間が経過しないよね」
「ああ、そうだな。露天の屋台で買った料理とかも冷めないよな」
「そこで、かなり多めにご飯を炊こうと思うんだ。小分けにして倉庫魔法でしまって置けば、いつでも炊きたてのご飯が食べられるようになると思うんだけど」
「いいなそれ。現代社会より便利だぞ」
「でも、ちょっと問題があって、小分けにする為の容器が無いんだ。僕がご飯を炊く準備をしておくから、タカオは容器を買ってきてよ」
「分った、買って来るぜ。タッパーが理想だけど、まあ売ってないだろうな。弁当箱みたいな感じの容器で良いよな?」
「うん、それでお願い」
「じゃあ行ってくる」
タカオは容器を買いに出掛けていった。僕はこの間にご飯を炊く準備をする。
米を炊くには、お釜使うのがベストだ。無い場合は土鍋でも代用できる。
しかし、僕はお釜も土鍋も持っていない。あるのは小さな片手鍋と、そこそこ大きな寸胴の鉄鍋だ。量を炊くなら寸胴を使わなければいけないのだが、これでお米が炊けるのだろうか?
とりあえず僕は米を洗う。電子炊飯器で炊いた事はあるので、ここまでは大丈夫だ。問題は鍋に米を移してからだ、火加減はもちろん、水の量も分らない。
どうすれば良いか悩んでいると、電話のコール音が聞えてきた。神託スクリーンを開き、受話器を取る。電話を掛けてきたのは、もちろん女神マグノリア様からだ。
「ユウリ、困っているようですね」
「はい、マグノリア様。僕はあまり料理をした事がないのですが、やらなくてはならない状況になってしまいました……」
「なるほど、ところであなたは神器という物を知っていますか?」
「神器ですか? オーディーンの槍、グングニルや、草薙剣などでしょうか?」
「ええ、あなたの世界ではそうですね。そこで『神器創世』の魔法を教えましょう。あなたは神さまとしてのレベルは低いので、たいした神器は作れないかもしれませんが、それでも『聖剣エクスカリバー』くらいのレベルなら作れるでしょう」
「『聖剣エクスカリバー』といえば、伝説の武器じゃないですか! 僕はそんな物まで作れるんですか?」
「ええ、問題なく作れますよ」
なにやらとんでもない魔法を教えてもらった。
これは凄い、『聖剣エクスカリバー』といえば、最強の武器といっても過言では無い。そんな武器を作れるなんて……
でも変だな。なんで今のタイミングで教えてもらったのだろう? ただ、料理の仕方に困っていただけなのに。
「あの、マグノリア様。料理の方の問題は解決していないのですが……」
僕がおそるおそる聞くと、こう答えてくれた。
「あなたは『意思を持つ剣』や『会話する剣』があるというのを知っていますか?」
「ええ、おとぎ話の中くらいでしか知りませんが、聞いた事はあります」
「あなたはソレを作る事ができます」
「あっ、はい。それと料理は、どう関係するのでしょうか?」
「作れば良いのですよ。意識を持った『鍋』を神器として」
「神器として鍋ですか……」
「ええ、料理の仕方や、火加減の調整を教えてくれる『意識のある鍋』です」
「えっと……、はい。ありがとうございます」
「では、他に何かあったら、いつでも聞いて下さいね」
マグノリア様は、そう言い残すと電話が切れる。
しかし、神の力を使って、鍋の生成か、とんでもなく力の無駄遣いの気がする……
僕は女神マグノリア様から教わった魔法で、神器を作り出す。
まあ、神器といっても剣とか槍ではなく、鍋なのだが。
神託スクリーンに映し出された呪文を詠唱する。
「導きの神、ユウリの名において、英知を携えた大鍋を作らん。神のみわざ、神器創世」
僕が呪文を唱えると、まぶしい光の柱が現われて、それが少しずつ収まっていく。
光が消えると、そこには少し大きな寸胴の鍋があった。
「我が名は『エルビルト・シオール』。ユウリ様の名の下、この場に生誕いたしました。何なりとご命令をお申し付け下さい」
……何か、えらい格好いい名前の神器を作ってしまった。これが剣とか槍だったら良かったのだが、これは残念な事に鍋でしかない。