雨の日の買い物 2
僕たちは、ロジャーさんの店に再びやってきた。
新しく覚えた、『発熱』『冷却』『製水』『洗浄』『整地』の生活魔法を、より便利にする魔法道具を手に入れる為だ。
予算に限りがあるので、あまり高い物は買えないけど、どんな物があるか知っておくだけでも、色々と役に立つだろう。
ロジャーさんが厚さ2センチ、幅と奥行きが20センチ四方の石版を持ち出してきて、説明してくれる。
「まずは『発熱』だな。『発熱』の魔法は、熱を集中させるのには、それなりの熟練度が必要なんだが、それを補ってくれるのが、この『赤熱の石板』だ。これがあれば下手なヤツでも、お湯くらいは沸かせるくらいには熱くなる」
どうやら魔法で動くIHのクッキングヒーターみたいな道具らしい。
「それって、いくらなんです?」
「小が銀貨8枚、中が銀貨15枚、大が銀貨40枚って所だ。二人だったら小で充分だから、小にしとけ。デカくなると値段も張る上に、消費MPも増えていくからな」
「これって室内でも使えます?」
「ああ、もちろんだ。火を使う訳じゃないからな」
「わかりました。では小を下さい」
「おう。こいつの下に敷く、鍋敷きはサービスでつけておいてやるぜ」
僕は、IHのコンロっぽい物を手に入れる。
次にロジャーさんは、15センチ四方の立方体の箱を取り出して来た。
「これは『冷却』で使う魔法道具だな。必要な物じゃないから、無理して買わなくてもいいが…… まあ、これはとりあえず使ってみるか、水を入れてから、この箱に『冷却』の魔法をかけてみろ」
箱と水の入った容器を渡された。僕は箱に水を流し込み、『冷却』の魔法をかけてみる。すると、中の水が一瞬で氷に変った。これは製氷皿のようだ。
隣で見ていたタカオが声を上げる。
「おお、一瞬で氷ができたぞ。これは便利だな」
ロジャーさんが詳しく説明してくれる。
「便利だが、食材の鮮度を保つくらいにしか使い道がないぞ。俺は冒険者には不必要だと思うんだが」
たしかに生鮮食料品の店主なら、これは必要不可欠なアイテムだが、冒険者には微妙かもしれない。
「これはいくらなんです?」
「この小さいサイズで、銀貨5枚だな」
「一つ下さい。何かの役に立つかもしれないので」
「分った。まあ、使わないようだったら、またうちで買い取るから、その時は持ってこい」
製氷器を手に入れた。これで氷がいつでも手に入る。
「『製水』に関しては、特に魔法道具は要らない。水を作ったときに受け皿となる、タライや樽があれば良いだけからな」
「なるほど、では持ち運びを考えて、樽を下さい」
「大きさは、小で良いな。熟練度が低いと、作れる水の量も少ないからな。この大きさだと銀貨3枚だ」
「それをお願いします」
樽の大きさは、高さ40センチ、幅30センチくらいだろうか。大きめのバケツくらいはありそうだ。これで充分だろう。
「『洗浄』と『整地』も特別な魔法道具は無いな。『洗浄』の魔法道具はあるにはあるんだが、冒険者には関係ないだろう」
関係ないと言われても、どんな道具だか気になってしまう。僕は聞いてみる。
「それはどんな道具なんですか?」
「あー、まあ、移動出来るトイレの小屋だな。『洗浄』の魔法で、いつも清潔に保てるトイレだ。貴族や裕福な商人が使うヤツだが、冒険者なら、そこら辺で済ますから要らないだろう」
なんだって! そんな夢のようなアイテムがあるなんて……
僕は今まで屋外でトイレには悩まされてきた。タカオは外で平気でやるが僕は違う。
なんとしても手に入れたい。僕はロジャーさんに迫る。
「それはいくらなんです!」
「えっ? もしかして買う気か? 高いぞ。金貨7枚もするぞ」
「買います。絶対に買います」
「お、おう。まいどあり」
僕の鬼気迫る迫力に、ロジャーさんがたじろぎながら返事をする。
トイレ小屋は、現代社会でよくある、仮設トイレのような形だった。普通だと持ち歩けるサイズではないが、僕は倉庫魔法で中にしまう。金貨7枚は、けっこうな出費だが、これでトイレの悩みから解放されるなら安い買い物だ。
支払いを済ませて、店を出ようとすると、ロジャーさんに声を掛けられた。
「あー、その分だと、まだ魔法の知識をよく分ってないだろう?」
「ええ、ほとんど知りません」
「それなら一度、図書館へ行ってみたらどうだ。今日は雨だし時間もあるだろう、ちょうど良いと思うぞ」
「ありがとうございます。行ってみます」
ロジャーさんに場所を教えてもらい、僕らは街の図書館へ行く。