ジャッカロープ狩り
僕らはギルドを出ると、外に出るため城門の方へと向う。
途中の市場で、食料と飲み物、あとは雑貨をいくつか買い、城門の兵士さん達に挨拶をすると、僕らは街の外へと出た。
街の外は、なだらかな丘のように畑が広がり、のんびりとした田舎の風景が広がる。
僕がエノーラさんに言われた事を確認する。
「『ジャッカロープ』は、畑と森の境界あたりに、よく出るって話だよね」
「ああ、冒険者を見ると、すぐに逃げ出すらしいから、狩るのが大変だって言ってたな。まあ戦闘は俺に任せてくれ、雷光のような動きで、簡単に仕留めてみせるから」
タカオはそう言うが、僕は不安になってきた。倉庫魔法から武器のメイスを出して、念のため装備をしておく。
畑と森の間の道を、約1時間くらい歩いている。『ジャッカロープ』はいまだに見つからず、タカオが文句を言い始めた。
「見つからねぇ。いったいヤツらはどこに居るんだ」
「まあまあ、急ぎの依頼でも無いし、少し休憩でもしてみない?」
「うーん…… そうするか。焦ってもしょうがないし、ひとまず休憩しよう」
たまたま切り株がそばにあったので、そこに腰を下ろす。のどかな田園風景を眺めながら、先ほど買った水筒を倉庫魔法から取り出して、お茶をコップにつぐ。一つは自分の分、もう一つはタカオの分だ。
「はい、これはタカオのお茶」
「おっ、サンキュー。しかし、ここら辺は平和すぎるな、モンスターが一匹も見当たらない。ゲームだと、フィールドに出たら、20歩も歩けば必ずモンスターに遭遇するのに……」
「まあ、ここはゲームの世界とは違うんだから、そんなに簡単に敵と遭遇しないでしょ」
「うーん、そうなのか…… あれ? あそこの木の枝は動いていないか?」
タカオが指をさした先を見つめると、確かに動いている枝がある。
ジッと観察をしていると、やがて草むらから頭から木の枝を生やしたウサギが跳びだした。ウサギは周りに敵が居ない事を確認すると、擬態を解く。木の枝のような頭の角は、鹿の角へと変っていった。
「獲物発見だ! いくぜ!」
そう行ってタカオは飛び出して行く。
「我が剣の錆びにしてやる!」
タカオはすらりと刀を抜き、ジャッカロープに斬りかかる。ジャッカロープは臆病な性格なので、これは逃げるんじゃないんだろうか?
そう思いながら僕はタカオの後を追いかける。
ジャッカロープはタカオの方をチラリと見て、フンと小馬鹿にしたように鼻息を吐いた後、振りかぶった刀をガキンと片方の角で受け止めた。
「な、なんだと!? 我が剣を受け止めるとは、なかなかやるな!」
一人と一匹は、そのままつばぜり合いのように、刀と角を付き合わせた状態で膠着した。やがて力の押し合いが始まる。
僕は、つばぜり合いの行方を見守る。すると、やがてプルプルと、タカオの腕が震え始めた。余裕の出来たジャッカロープは、空いている腕でパンチをする。猫パンチのような感じで、ペチペチとタカオの体を引っぱたく。
「いた、こいつ、いたた。ユウリ、助けてくれ!」
「分ったよ。『回復の息吹』」
僕は痛がっているタカオの傷を癒やしてやる。するとタカオは必死に言う。
「ちがう、そうじゃない、ダメージは大して受けてないんだ! 攻撃してくれ、そのメイスでぶん殴ってくれ!」
「えっ? いや、でも、ウサギを殴るなんて可愛そうじゃない?」
「コイツはウサギじゃなく魔物だ! はやく攻撃してくれ、もうもちこたえられない!」
僕はタカオの攻撃に夢中になっているジャッカロープの後頭部をメイスで殴りつける。ゴッという鈍い音がして、ジャッカロープはピクリとも動かなくなった。
「ふ、ふう。二人がかりでやっとか。なかなかの強敵だった。ユウリ、この死体は倉庫魔法に格納できるか?」
「ちょっと待って、やってみるよ」
僕は倉庫魔法を使い、ジャッカロープの死骸を放り込む。すると、何の問題もなく格納された。
「大丈夫みたいだね」
「後でギルドに納めよう。食肉になるみたいだし、喰うことで供養にもなるだろう」
ジャッカロープはウサギに似ているので、ちょっと可愛そうな気もするが、この世界で肉を食べるというのは、こういう事なのだろう。それに、よく考えてみると、肉を食べる為に殺生をしなければいけないのは、元いた世界でも変らない。
ジャッカロープを一匹、狩り終えて分った事がある。
「角は木の枝に擬態できるみたいだから、不自然に動いている木の枝を探せば見つけられるかもね」
「そうだな。今まで鹿の角ばかりさがしてたから、見つからなかったんだよな。おっ、あそこにも変な動きをしている木の枝がある。行くぜ!」
タカオはまた走って突っ込んで行った。
次の目標地点は、およそ300メートル先だ。
さんざん走って、ようやくたどり着いたタカオは、刀を抜いてジャッカロープに再び襲いかかる。渾身の力を込めて刀をふり下ろすが、ジャッカロープは勢いよく角で弾き返した。余りの勢いにタカオは刀を手から放してしまう。
その後は酷かった、一方的にジャッカロープが、タカオをつつき回す状況になる。タカオは何とか角を掴んで抵抗しようとする。
「た、助けてくれユウリ!」
ゴッ、僕は本日、2匹目となるジャッカロープに止めを指す。
タカオが角を掴んでくれていたおかげで、避けられる心配も無く、簡単に仕留める事ができた。
「ふう、助かったぜユウリ、じゃあ次に行こうか」
僕らはさらに狩りを続け、さらに3匹目と4匹目のジャッカロープを倒す事に成功した。
4匹目のジャッカロープを倉庫魔法で格納し終わり、次の標的を探そうと周りを見渡すと、日が傾いて、空がオレンジ色に染まってきた。暗くなっては狩りは出来ない、僕らは街に戻る事にする。
ちなみに、タカオはこの3匹目と4匹目にもボコボコにされた。この角の生えたウサギのレベルに手こずるようだと、この先、いったいどうなる事やら……
※イラストはseima氏に描いていただきました。