ステータスオープン
僕とタカオは、ステータスを表示するという『才能の秤』という魔道器具の前に来た。
「よっしゃ。さっそく計ろうぜ…… どうすれば良いんだ?」
タカオが気の抜けた質問を、受付員のエノーラさんにする。するとエノーラさんは、小さなカードとナイフを二つずつ持ってきた。
「こちらがギルドカードとなります。まずはカードに血を一滴、垂らして下さい」
「お、おう。こういった時は、どこを切ればいいんだ?」
「どこでも良いですが、親指の腹の部分を切る人がほとんどですね」
「わたった。じゃあ、いくぞ!」
タカオはおそるおそるナイフを親指の腹に突き立てた。すると血がちょっぴり出てくる。
血を一滴、カードに垂らした後、タカオは僕に向ってこんな事を言う。
「ユウリ、怪我をしたからヒールをくれ」
「そんなのツバを付けておけば直ると思うけど。まあいいや『回復の息吹』」
僕は傷を治してあげる。
「おっ、治った。サンキュー、ユウリ」
それを見ていたエノーラさんが、少し驚いた様子で僕に聞いてきた。
「ユウリさんは、ヒールが使えるのですか?」
「ええ、一応、使えるみたいです」
「それは貴重な戦力になりそうですね」
「大した事ないと思いますよ。もしかしてヒールを使える人は少ないのですか?」
「うちのギルドに所属している人員は、およそ280名いますが、そのなかで『低級』レベルのヒールを使える者は5名。『中級』レベルを使える者は1人しかおりません。ちなみに、この『才能の秤』は、スキルの種類は分りますが、レベルまでは分りません」
ヒールを使える人は、280名の中で6名。およそ50人に一人か。これは、そこそこ貴重なスキルなのだろう。
僕もカードに血を垂らして鑑定を受ける準備をする。他にも何かスキルを持っているかもしれない。
「これで準備ができたんだろう、次はどうすれば良いんだ?」
タカオが急かしてきたので、エノーラさんが対応する。
「『才能の秤』のくぼみに、カードをセットして下さい。あとは、この水晶玉の部分に手を置いてもらえれば、能力値とスキルがカードに記載されます」
「分った。ここにセットして、手を水晶玉に置くと。おっ、文字が浮かび上がってきたぞ!」
タカオのカードに文字が現われた。僕も覗き込んでみる。
『タカオ レベル1 HP12 MP8』
『能力値 筋力D:耐久力E:器用度B:敏捷C:知力C:魅力A』
『スキル 神秘的な魅力』
『魔法 暗闇』
「能力値は、数字ではなくてアルファベットのランク形式か。しかし、低いな……」
タカオが、がっかりとした口調で言う。すると、エノーラさんがこう言った。
「いえ、レベル1にしては、まあまあ高い方ですよ。器用度と魅力が高いですね。あと聞いた事の無い『神秘的な魅力』というスキルもありますし、珍しい『暗闇』の魔法も使えるようです」
「『暗闇』の魔法ってどう使うんだ?」
「暗闇を想像して、闇を発生させたい場所に向って『暗闇よ』と唱えるだけですね。初歩的な魔法なので、杖などは要らないはずです」
「よし、試して見よう『暗闇よ』」
そう唱えると、タカオの周りが闇に包まれた。真っ暗になり、タカオの姿が見えなくなる。
僕は少し心配になって声を掛ける。
「こっちからは姿が見えなくなったんだけど、中はどうなってるの?」
「中から外は見えるぜ。普通に暗がりの中から、明るい方を見てる感じだな」
「なるほど、中から外は見えて、外から中は見えない。これは使い方によって、ものすごく便利かもしれないね」
「そうだな。人は深淵を覗いている時、深淵もまた人を覗いているのさ。フフフ」
タカオがなにやら中二病的な発言をしている。おそらく暗闇の中でカッコを付けていると思うが、闇すぎて全く見えない。すると、エノーラさんが、こんな魔法を唱える。
「『光よ』」
魔法が発動すると、暗闇は霧を吹き飛ばすようにかき消された。暗闇の中で、タカオはやはりカッコをつけていた、片手で顔を隠すようなポーズを取っている。
「このように、暗闇の魔法は、光の魔法によって打ち消せます。光の魔法は生活魔法と呼ばれるほど、人々に広まっていて、子供でも使えたりしますから、暗がりから一方的に攻撃するのは難しいでしょうね」
「なんだって……」
エノーラさんの説明を受けて、タカオが膝から崩れ落ちた。それほどショックだったらしい。
「暗闇を身にまとうなんて、最高に格好いいと思ったんだがな…… ユウリの能力値はどんな感じだ?」
「うん、今からやってみるよ」
タカオと同じ様に、カードをセットして、水晶玉に手を乗せると、ステータスが浮かび上がる。
『ユウリ レベル1 HP22 MP32』
『能力値 筋力B:耐久力B:器用度C:敏捷D:知力S:魅力B』
『スキル 魔力の自動回復:白魔法の加護』
『魔法 回復の息吹:治療の奇跡:浄化の閃光:倉庫魔法』
僕は浮かび上がったスキルを見て、ひとまずホッとする。それは神様関連のスキルや魔法が載っていなかったからだ。先ほどマグノリアス様から教わった、お金を作り出す『万物の造幣局』なんて違法な魔法が表示されたら、刑務所に入れられてもおかしくないだろう。
僕の能力値を見ながら、タカオが言う。
「全体的に高いな。あれ? エノーラさん、どうしました?」
エノーラさんは、しばらくジッと固まっていたが、フゥーっと大きく息を吐いてから、僕に向って話し出す。
「今まで多くの冒険者の能力値を見てきましたが、『知力S』なんて初めてみました。それに『治療』『回復』『浄化』、それに『倉庫魔法』がレベル1で揃っているなんて、聞いた事がありません。何か特別な修行でもしていましたか?」
「あー、えーと。姉が宗教関係の人だったので、修行を見よう見まねでやっていました」
僕は思いつきで苦しい言い訳をする。このスキルや能力値は、そんなに凄いのだろうか?
エノーラさんが、もう一度、深呼吸をしてから口を開く。
「そうですか。ちなみに『治療』や『回復』には、『低級』『中級』『上級』といったレベルがあります。あなたはどのレベルなんでしょう?」
「ええと、かすり傷を治すくらいしか使った事がないので、たぶん『低級』だと思いますよ」
「なるほど。まだレベル1なので、これから成長するでしょう。期待していますよ!」
そういって両手で僕の手を強く握ってきた。あからさまにタカオの時と反応が違う。タカオが嫉妬していなか、ちょっと心配になったが、目線を送ると、親指を立てながら、笑顔でこう言った。
「さすが俺のパートナーだな。しっかりサポートを頼むぜ!」
どうやら余計な心配は要らないらしい。
この後、僕らは能力値とスキルについて話を聞こうとすると、突然、怒鳴り声がギルド内に響いた。
「緊急事態だ! けが人が出た、至急、緊急手配を頼む!」
鬼気迫る声に、緊張感が一気に高まる。