魔術師ギルドの依頼 12
ご飯を炊き終えた頃に、タカオがうなぎ漁から帰ってきた。
「たくさん捕れたぜ! 今日はごちそうだ!」
そう言いながら、肩からぶら下げていた籠をひっくり返す。すると、体長は1.5メートル以上、重さは10キロ以上ありそうな、馬鹿でかいうなぎが落ちてきた。
「うひゃぁ」
あまりの大きさと、ぬたぬたと動く気持ち悪さから、おもわず変な声が出てしまった。思わず後ずさりをして、距離を取る。
大うなぎに僕がびびっていると、村の主婦のひとりが、包丁を片手に前に進み出た。そして、すかさず、鋭い一撃を放つ。ダンという音がして、うなぎの首が吹っ飛んだ。
「ユウリ先生、ここれから先の調理は、どうすれば良いんでしょうか?」
「あっ、はい。包丁を入れて、魚を三枚に開いていきます。背中側から包丁を入れる方法と、お腹側から入れる方法があるんですが、お腹側からの方が簡単なので、そちらの方法でやって行きたいと思います」
僕は腹側から魚を開いていく。そして、尻尾の先まで開ききったら、今度は背骨を剥がすように包丁をいれていく。でかいうなぎは、あっという間に三枚に開かれた。元にいた世界では、魚なんてほとんど触った事もなかったが、こうやって問題無くおろせるのは、調理スキルを取っておいたおかげだ。
「こんな感じで、骨と身を分けます」
僕がお手本を見せると、主婦たちもそれに続く。
「こうかしら?」「難しいわね」
あちこちで籠をひっくり返し、ダン、ダンと、うなぎの首をはねる音が聞えてくる。しかし、躊躇なく首をはねる姿はたくましい。もしかしたら、僕よりずっと戦闘に向いているかもしれない。
でかいうなぎの半身を、程よい大きさに切り分けて、串を打っていく。
「串は、焼きやすいように持ち手をつける役目の他に、焼いた時に、身が反り返るのを防ぎます。身の中心を貫くように、突き刺して下さい」
「あら、簡単そうに見えて、難しいわね」「本当だわ、上手くいかないわ」
不細工な物もあるが、全員がなんとか串を打ち終えた。
「焼き目がつくまで、軽く焼いていきます。それが終わると、蒸し器にいれて、身をふっくらとさせます」
『蒸し』の工程は、省く事もできるが、このうなぎはとにかくでかくて肉厚なので、蒸して少しでも柔らかくした方が良いだろう。
15分ほど蒸し上げて、いよいよ最終工程へと入る。
「では、最後にタレを浸けて焼きます。表面が香ばしくなるまで、焼き上げれば完成です」
身をタレに浸して、弱火でじっくり焼いていく、周りの奥さんも僕に続く。すると、あの独特の匂いが漂い始めた。
「この匂い、美味そうじゃないか!」
「これが本当に不味い『ジャイアント・イール』なのか?」
調理の様子を見ていた村の男性陣がざわつき始めた。まあ、いつも食べているウナギのゼリー寄せとは、似ても似つかない料理だろう。
良い匂いが充満してくると、タカオが待ってられなくなる。
「ユウリ、容器によそるからご飯を出してくれ」
「分ったよ。はい、炊きたてのご飯」
「よし、じゃあこっちは任せろ」
うなぎ用の重箱などは、もちろんこの世界には存在しない。村人たちが持ってきた、サラダ用のボールや大きな皿に、タカオはご飯をよそっていく。
ご飯が準備できた頃に、ちょうどうなぎも焼き上がった。あつあつのご飯にタレをかけてから、うなぎをドンとのせる。
村人全員に行き渡ると、タカオが真っ先に声をあげる。
「いただきます! うめぇ、やっぱりうなぎは最高のごちそうだ!」
タカオが食べ始めると、村人達もつられるように食べ始めた。
「なんだこれ、うめえぇ。魚の生臭さがまるでねえ」
「こんなの食ったことがないぞ。身が下の溶けていく」
「美味すぎて、食べるのを止められない!」
初めは食べるのを躊躇していたアネットさんも、気がつけばパクパクと食べていた。どうやらうなぎの蒲焼きは、この世界でも好評らしい。僕も食べて見ると、タレの熟成度はまだまだだが、きちんとウナギの味がした。身が大きいので色々と心配したが、ちゃんと美味しく柔らかく仕上がっている。
全員があっという間に食べ終わり、満足している雰囲気の中で、村長さんが口を開いた。
「この素晴らしい料理を使って、村に観光客をよべねぇだろうか。観光客さえ来てくれれば、村はうるおうんじゃが……」
村人のひとりが強気で答えた。
「呼び込めるじゃろ。この料理の材料のうなぎは、いくらでも捕れる。料理の美味さも、申し分ない。これで人が来ないはずはねぇ」
すると、村人のひとりが反論をする。
「料理の美味さで、来てもらえるかもしれねぇが、宿泊はどうすんだ? この村は、街から日帰りじゃ帰れねぇ距離にあるぞ」
「ああ、そうだなぁ。やっぱり無理だよなぁ……」
観光が不可能だと思い、村人達が落ち込んでいると、タカオがこう言った。
「それならユウリにキャンプ場を作ってもらえば良いじゃねぇかな。キャンプ場さえあれば、とりあえずは泊まれるだろ」
「なんと! 是非とも、キャンプ場の建築をお願いします!」
村長さんが僕に詰め寄って来た。どうやら村の存亡がかかっているらしく、鬼気迫る表情だ。
「あっ、わかりました。簡単な施設でよければ、お金は要らないですよ。橋の建築の代金で、お金は十分にもらってますし」
「それは助かる。本当にあなたは女神さまのようなお人じゃ」
村長さんが感謝している横から、タカオがこんな事を言う。
「キャンプ場を作るんなら、湖のほとりが良いんじゃないか。うなぎを取りにいった時に見たが、なかなかの絶景だったぜ。食後の散歩ついでに、今から行ってみるか?」
「そんなに湖は近いの?」
「歩いて10分も掛らないんじゃないかな」
「じゃあ、行ってみようか」
食事の終わった僕らは、少し散歩をする事となった。ご飯を食べ過ぎたので、ちょうど良い運動になるだろう。




