冒険者ギルド
城壁の中に入ると、市場が広がっていた。
見たことも無い、味が想像できない野菜や果物。焼きたての香ばしい匂いのするパン。氷漬けの魚や肉。
文化レベルが中世という話だったので、衛生面が不安だったが、僕の不安は杞憂に終わった。
小麦粉や米は、ビニール袋っぽい袋に小分けして販売されている。腐りやすい肉や魚は氷漬けなので、新鮮そのものだ。おそらく魔法が発展していて、科学のかわりに上手く文化を支えているのだろう。
賑やかな通りを歩いて行くと、剣と車輪が描かれた看板があり『商人と冒険者のギルド』と書かれていた。ちなみに異世界の言葉で書かれているが、なぜか普通に読めてしまう。
「冒険者ギルドに来たぜ、ここから俺たちの物語が始まるのさ。さて中に…… おっと、その前に確認しておくことがあった『ステータスウインドウ!』」
タカオが突然なにかを叫び出す。なんだろう、ステータスウインドウって?
「あれ? おかしいな? 『ステータスウインドウ!』」
再び、身振りを加えて叫んだのだが、もちろん何も起こらない。困った顔をしたタカオは、僕にこんな事を聞いてくる。
「なあ、ユウリ。ステータスウインドウが開かないんだけど、これってどうなってるんだ?」
「へっ? ステータスウインドウって何?」
すると、あきれた様子でタカオが答える。
「なんだ、知らないのかよ。ゲームとかであるだろ、レベルとか能力値とかが表示されるヤツ」
「ああ、ステータスとかの表示の事か」
「そうそう。で、なんで表示されないんだ?」
いや、なんでと僕に言われても…… そもそも現実社会でゲームのように能力値が表示されるなんて有り得ないだろう。そう思いつつ、神託スクリーンで調べる。すると、なんと該当する情報が出て来てしまった。僕はスクリーンの文字を、そのまま読み上げる。
「ええと。能力値やスキルを表示するには、専用の魔法器具が居るらしい。その魔法器具は冒険者ギルドとかに設置されているみたいだよ」
「なるほど、そっちのタイプの異世界だったか。じゃあさっそく計ってもらおうぜ」
そう言ってタカオはギルドの中に入って行く。その後を僕は慌てて追いかける。しかし、そっちじゃないタイプって何だろうか? ちょっと気になる。
ギルドの門をくぐると、中は広いホールになっていた。右側には受付の窓口があり、左側はテーブルと椅子が並び、レストランみたいになっている。
右側の受付は複数あり、『クエスト紹介・受注』『アイテム販売』『商団連の受付・相談』など、業種ごとに別れていた。商団連があるのは、冒険者ギルドだけでなく、商業ギルドも兼ねているからだろう。
何人かいる受付員の中で、タカオは真っ直ぐに『クエスト紹介・受注』に向う。その理由は簡単だ、他の受付員はゴツいおっさんで、この受付員だけが若い女性だったからだ。
タカオはカッコをつけながら、受付の人に話しかける。
「お姉さん、俺、冒険者になりたいんだけど」
「冒険者ですか? 冒険者といえば、危険は仕事もあるのをご存じですよね。あなたほどの美貌があれば、いくらでも他の仕事に就けるでしょう。それでも冒険者になりたいのですか?」
「ああ、俺は冒険者になるために生まれて来たようなもんだぜ!」
「……分りました。覚悟は出来ているようですね。私はエノーラともうします。そちらのエルフのかわいいお嬢さんは付き添いですか?」
エノーラさんは僕の方を見て言うと、タカオが答えた。
「コイツは俺のパートナーだ。2人とも冒険者の登録を頼む」
僕はエヘヘと愛想笑いをする。おそらく頼りなく映ったのだろう、エノーラさんは一瞬、あきれた表情をするが、すぐに業務の話に戻った。
「まあ、良いでしょう。うちのギルドのシステムは知っていますか?」
「いや、まったく知らないぜ」
「では、説明させていただきます」
エノーラさんはそう言って、小冊子のような物を僕らに渡す。
小冊子を見ながら、エノーラさんの説明が始まった。
「冒険者はランクごとに分かれています。『Eランク』から始まり、クエストをこなしていくと、D、C、B、Aとランクが上がっていきます」
それを聞いてタカオが質問をする。
「クエストにも難易度が設定されているんだろ?」
「ええ、その通りです。クエストもランク付けがされていて、『Eランク』の冒険者は『Eランク』までのクエストしか受注できません。これは未熟な冒険者が、間違って高難度のクエストを受けないようにするルールです」
僕がエノーラさんに質問をする。
「ギルドに入ると、どんな良い事があるんですか?」
「まず、仕事やクエストの紹介ですね。クエストは、配達や掃除などの雑用から、モンスターの討伐まで様々あります。他にもモンスターから取れる素材の買い取り、他の冒険者のあっせんなど、色々とありますが、やはり最大の利点は、スキルの習得でしょうか」
「スキルですか?」
「ええ、ギルドに所属していると、様々なスキルを学ぶ事ができます」
「もしかして、魔法とかも学べますか?」
「スキルは人によって相性があり、習得できるかどうかは分りませんが、使える様になる可能性はありますね」
せっかく異世界に来たのだから、僕も魔法を使ってみたい。性転換をしたり、偽金を作るような変な魔法ではなく、ちゃんとした魔法を!
この後、僕らは法律的な事を軽く説明されて、エノーラさんは契約書みたいな物を出して来た。
「問題がなければ、この書類にサインをして下さい」
僕とタカオはサインすると、エノーラさんに、こんな事を言われる。
「おめでとうございます。これであなた方は正式なギルド員となりました。まずは適性を見てみましょう」
「それって、能力値を測るヤツなのか?」
タカオが興奮ぎみに言うと、エノーラさんはうなずきながら答えた。
「そうせすね『才能の秤』という魔法器具で、おおよその能力値と、取得しているスキルが分ります」
「よっしゃ。さっそく計ろうぜ」
エノーラさんに連れられて、僕らは水晶玉のついてる装置の前に移動した。
これが能力値を測る装置らしい。