表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

119/124

魔術師ギルドの依頼 9

「とりあえず、橋を作る現場を見てみようぜ」


 タカオに言われて、みんなで下見(したみ)をする事になった。



 僕とタカオとアネットさん、そして村長さんで、村と街道を(へだ)てている渓谷に歩いて行く。村のメインストリートを抜けて、渓谷に向って行くと、すぐに崖へとたどり着いた。


 這いつくばるようにして、切り立った崖の下を覗いてみる。すると、下の方に清流(せいりゅう)が見える。対岸までの距離は、およそ70メートル。下までの高さは20メートルくらいだろうか。馬車が通れるような本格的な橋を建てようとすると、かなり大がかりな工事が必要になりそうだ。



 場所を確認すると、タカオが村長さんに確認する。


「橋をかけるとすると、ここから、あそこら辺にかけるのがベストかな?」


「ああ、それが理想じゃが、この場所は対岸までの距離が遠すぎじゃ。800メートルほど向こう側だと、渓谷が狭まっている場所があるんじゃが……」


「いや、このくらいの距離なら問題ない。そうだよな、ユウリ」


「うん、大丈夫だと思うよ」


「じゃあ、とりあえず橋を掛けてくれ。他の村民にも説明しなきゃならないと思うが、地図を見ながら説明するより、実物に見てもらった方が早いだろう。ダメだったら作り直せば良いんだし」


「そうだね。大きくて頑丈な石の橋よ、永久(とわ)に対岸まで繋がれ『城壁!』」



 僕が呪文を唱えると、アーチ型の橋脚の石作りの橋が、ゴゴゴという音と共に現われた。

 長さはおよそ70メートル、道幅は7~8メートルほどだろう。馬車どころか、トラックでも通れそうな、立派な橋が出来上がる。


「とりあえず、こんな感じで良いでしょうか?」


 僕が村長さんに聞くと、驚きながら答えてくれる。


「じゅ、十分じゃよ。しかし、こんな立派な橋を、一瞬で作るとは、とんでもない魔術師じゃな」


「いえ、そんな大した魔法じゃないですよ。ねえ、アネットさん」



 僕がアネットさんに話を振ると、しばらく呆然(ぼうぜん)としていたアネットさんが、ようやく口を開く。


「ど、どどど、どうやったんですか、ユウリさん。一瞬で、こんな巨大な橋を作るなんて!」


「えっ? ちょっと『城壁』の呪文で作ってみたんだけど……」


「ちょっと作ってみましたじゃないですよ! こんなの異常ですよ!」


「そ、そうなのかなぁ? でも、『城壁』の呪文は僕が開発したわけじゃなくて、昔から存在していた呪文でしょ? 昔の使い手も僕と同じような感じで使っていたんじゃ……」


「使っていません! 文献(ぶんけん)によると、『城壁』の魔法を唱える前に、巨大な魔方陣を描いて、何時間も呪文を唱え続けて、ようやく家サイズの石を練成(れんせい)できるらしいです。こんな、お手軽に使える呪文じゃないはずです!」


「へ、へぇ、そうなんだ……」


 僕は苦笑いを浮かべてごまかすしかなかった。どうやら、大がかりな準備が必要な大魔法を、簡単に使いすぎていたようだ。



 タカオが興奮状態のアネットさんに声をかける。


「まあ、実際に簡単に出来るんだから、しょうがないだろう。それより、魔法でできたこの橋を、調べなくてもいいのか?」


「あっ、そうでした。調べます! あまりにお手軽に作ってしまったので、もしかしたら、中身がスカスカで、強度が足りない可能性もありますから、調査が必要になります。この魔法道具を使って……」


 アネットさんが荷物をゴソゴソと探り、時計のような針のついた、30センチくらいの杖のような物を取り出した。



 僕が魔法道具について聞く。


「アネットさん、それは何ですか?」


魔法強度(まほうきょうど)を測る、測定器具ですね。これで、おおよその耐久性を調べられるんですよ」


「そんな便利な物があるんですね。どうやって使うんですか」


「説明するより見た方が早いですね。実際にやってみせましょう」


 アネットさんが杖の先を橋のにつけると、呪文を唱える。


「万物を測定する、いにしえのシュミットロッドよ、マナの強度を教えたまえ」



 呪文を唱え終わると、杖についている針がゆっくりと動き出す。その動きは、本当に遅く、結果が分るまでしばらく時間がかかりそうだ。杖をもった状態で、アネットさんが説明してくれる。


「しばらくお待ち下さい。結果は1~10の数字で表われます。数字が高ければ高いほど、強度が強くなります。ちなみに2以下の数字だと、強度的に問題がありますね。この状態だと使用するのは、辞めた方が良いと思います。数字が4~5あれば、ふつうの石橋と同じくらいの強度があるので、問題ないでしょう」


 強度が足りないと、危険なので使えないらしい。せっかく掛けた橋が使えない可能性が出て来たので、村長さんが、詰め寄るようにアネットさんに聞く。


「それで、強度はどうなんじゃ? この橋は使えるのかのう?」


 これからの村の運命が掛っている、真剣にもなるだろう。



 そんな会話をしていると、針がようやく止まり、アネットさんが結果を発表する。


「この橋の強度は…… 10ですね、最高ランクです。こんな強度、見たことありません、ありえない数字です。いったいどんな材質で出来ているんでしょうか……」


 愕然(がくぜん)としているアネットさんをよそに、タカオが村長さんに、こんな事を言う。


「良かったな。強度は問題ないってよ。これは、村をあげて盛大なお祝いをしないとな」


「ああ、あんたらは村の救世主じゃ。精一杯のご馳走を用意させてもらうぞ!」


  タカオは村長さんを()き付けて、豪華な食事を約束させていた。いくらも仕事をしていないのに、無理やり催促(さいそく)したみたいで、少し申しわけない気持ちになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] こんなの現実でも奇跡だしね。神業ってやつだ。
[良い点] このわざとらしいなろう味 大好き [気になる点] 正体に気が付くやろ… でもゆるい世界だしなー
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ