魔術師ギルドの依頼 9
「とりあえず、橋を作る現場を見てみようぜ」
タカオに言われて、みんなで下見をする事になった。
僕とタカオとアネットさん、そして村長さんで、村と街道を隔てている渓谷に歩いて行く。村のメインストリートを抜けて、渓谷に向って行くと、すぐに崖へとたどり着いた。
這いつくばるようにして、切り立った崖の下を覗いてみる。すると、下の方に清流が見える。対岸までの距離は、およそ70メートル。下までの高さは20メートルくらいだろうか。馬車が通れるような本格的な橋を建てようとすると、かなり大がかりな工事が必要になりそうだ。
場所を確認すると、タカオが村長さんに確認する。
「橋をかけるとすると、ここから、あそこら辺にかけるのがベストかな?」
「ああ、それが理想じゃが、この場所は対岸までの距離が遠すぎじゃ。800メートルほど向こう側だと、渓谷が狭まっている場所があるんじゃが……」
「いや、このくらいの距離なら問題ない。そうだよな、ユウリ」
「うん、大丈夫だと思うよ」
「じゃあ、とりあえず橋を掛けてくれ。他の村民にも説明しなきゃならないと思うが、地図を見ながら説明するより、実物に見てもらった方が早いだろう。ダメだったら作り直せば良いんだし」
「そうだね。大きくて頑丈な石の橋よ、永久に対岸まで繋がれ『城壁!』」
僕が呪文を唱えると、アーチ型の橋脚の石作りの橋が、ゴゴゴという音と共に現われた。
長さはおよそ70メートル、道幅は7~8メートルほどだろう。馬車どころか、トラックでも通れそうな、立派な橋が出来上がる。
「とりあえず、こんな感じで良いでしょうか?」
僕が村長さんに聞くと、驚きながら答えてくれる。
「じゅ、十分じゃよ。しかし、こんな立派な橋を、一瞬で作るとは、とんでもない魔術師じゃな」
「いえ、そんな大した魔法じゃないですよ。ねえ、アネットさん」
僕がアネットさんに話を振ると、しばらく呆然としていたアネットさんが、ようやく口を開く。
「ど、どどど、どうやったんですか、ユウリさん。一瞬で、こんな巨大な橋を作るなんて!」
「えっ? ちょっと『城壁』の呪文で作ってみたんだけど……」
「ちょっと作ってみましたじゃないですよ! こんなの異常ですよ!」
「そ、そうなのかなぁ? でも、『城壁』の呪文は僕が開発したわけじゃなくて、昔から存在していた呪文でしょ? 昔の使い手も僕と同じような感じで使っていたんじゃ……」
「使っていません! 文献によると、『城壁』の魔法を唱える前に、巨大な魔方陣を描いて、何時間も呪文を唱え続けて、ようやく家サイズの石を練成できるらしいです。こんな、お手軽に使える呪文じゃないはずです!」
「へ、へぇ、そうなんだ……」
僕は苦笑いを浮かべてごまかすしかなかった。どうやら、大がかりな準備が必要な大魔法を、簡単に使いすぎていたようだ。
タカオが興奮状態のアネットさんに声をかける。
「まあ、実際に簡単に出来るんだから、しょうがないだろう。それより、魔法でできたこの橋を、調べなくてもいいのか?」
「あっ、そうでした。調べます! あまりにお手軽に作ってしまったので、もしかしたら、中身がスカスカで、強度が足りない可能性もありますから、調査が必要になります。この魔法道具を使って……」
アネットさんが荷物をゴソゴソと探り、時計のような針のついた、30センチくらいの杖のような物を取り出した。
僕が魔法道具について聞く。
「アネットさん、それは何ですか?」
「魔法強度を測る、測定器具ですね。これで、おおよその耐久性を調べられるんですよ」
「そんな便利な物があるんですね。どうやって使うんですか」
「説明するより見た方が早いですね。実際にやってみせましょう」
アネットさんが杖の先を橋のにつけると、呪文を唱える。
「万物を測定する、いにしえのシュミットロッドよ、マナの強度を教えたまえ」
呪文を唱え終わると、杖についている針がゆっくりと動き出す。その動きは、本当に遅く、結果が分るまでしばらく時間がかかりそうだ。杖をもった状態で、アネットさんが説明してくれる。
「しばらくお待ち下さい。結果は1~10の数字で表われます。数字が高ければ高いほど、強度が強くなります。ちなみに2以下の数字だと、強度的に問題がありますね。この状態だと使用するのは、辞めた方が良いと思います。数字が4~5あれば、ふつうの石橋と同じくらいの強度があるので、問題ないでしょう」
強度が足りないと、危険なので使えないらしい。せっかく掛けた橋が使えない可能性が出て来たので、村長さんが、詰め寄るようにアネットさんに聞く。
「それで、強度はどうなんじゃ? この橋は使えるのかのう?」
これからの村の運命が掛っている、真剣にもなるだろう。
そんな会話をしていると、針がようやく止まり、アネットさんが結果を発表する。
「この橋の強度は…… 10ですね、最高ランクです。こんな強度、見たことありません、ありえない数字です。いったいどんな材質で出来ているんでしょうか……」
愕然としているアネットさんをよそに、タカオが村長さんに、こんな事を言う。
「良かったな。強度は問題ないってよ。これは、村をあげて盛大なお祝いをしないとな」
「ああ、あんたらは村の救世主じゃ。精一杯のご馳走を用意させてもらうぞ!」
タカオは村長さんを焚き付けて、豪華な食事を約束させていた。いくらも仕事をしていないのに、無理やり催促したみたいで、少し申しわけない気持ちになった。