遺跡とダンジョン 12
僕だけでなく、タカオとマクダさんもレベルが上がっていた。
「私から、取得できるスキルを見てもらってもいいかなぁ?」
「良いですよ、マクダのあねご。どうぞお先に」
どうやらマクダさんからスキルを調べるようだ。魔法道具に手をかざすと、こんなスキルが浮かび上がった。
◇一般
・荷物運び 必要ポイント1
・野営 必要ポイント2
◇戦士系
・盾修練 必要ポイント1
・武器修練 必要ポイント1
スキルの一覧を見て、マクダさんが声を上げる。
「おお、『野営』だってさ。これがあれば野宿できるから、宿代が浮きそうだね」
いくら緩い世界でも、野宿で暮らすのは問題があるだろう。僕が説得をする。
「いや、野宿って大変ですよ。屋外は虫も多いですし、ちゃんと体を休める事もできないでしょう。ギルドの宿代は安いんですから、そちらを利用しましょうよ」
「まあ、それもそうだね。なるべくギルドの宿を使うよ。お金に困った『野営』を使うかもしれないけどね」
タカオがエノーラさんに聞く。
「『盾修練』『武器修練』は戦闘で役に立つと思うんですが、『荷物運び』ってスキルは役に立つんですか?」
「役に立ちますよ。重い荷物を楽に運べるようになりますし、疲れにくくもなります。物を持ち運ぶ、コツを掴むと考えていただければ結構ですね」
「なるほど、役に立ちそうですね。でも、なんでこのスキルが覚えられるようになったんだろう?」
タカオが不思議がるので、僕が思い当たる事を言う。
「徹夜明けで眠っていたタカオを、マクダさんが運んでくれたからじゃないかな。人をひとり運んだわけだし、かなり大変だったと思うよ」
僕がそう言うと、タカオが思い出したようだ。マクダさんにお礼を言う。
「マクダのあねご、ご迷惑をおかけしました。このお礼は、いつか、そのうち……」
「いいって、クエストを無事にこなして、お金もたくさんもらえた訳だし、レベルも上がったし。エノーラくん、ここに出てきたスキル。全部を取得するね」
「了解しました。てはこちらに」
エノーラさんが魔法道具で手続きをして、マクダさんはスキルを全て取得した。『荷物運び』のスキルは、日常的に使いそうなので、あれば便利そうだ。
「さて、俺はどんなスキルが取得できるのかな? エノーラさん、お願いします」
「はい、ではこちらへどうぞ」
タカオを魔法道具で調べると、1つのスキルが浮かび上がった。
◇シーフ系
・トラップマスター 必要ポイント5
タカオがつぶやくように言う。
「うーん1つだけか……」
僕が浮かび上がった情報を見ながら言う。
「取得ポイントが多いのは、それだけ強力なスキルなんじゃないの?」
「そうなのかな? どうなんです、エノーラさん?」
「少々お待ちを。見たこと無いスキルなので、調べますね」
エノーラさんがしばらくすると見つけたようだ。僕らに説明をしてくれる。
「罠に関しては様々なスキルがあります。罠を見つける『罠探知』、罠を仕掛ける『罠設置』、仕掛けられた罠を解除する『罠解除』、罠を作り出す『罠製作』などにそれぞれに別れています。『トラップマスター』は、これらを組み合わせたスキルで、これ1つあれば、これら4つのスキルを取得したのと同じ効果が得られるようです」
タカオが満面の笑みを浮かべた。
「すげぇスキルだ。さっそく、そのスキルを取得させて下さい!」
「わかりました。こちらへどうぞ」
魔法道具を使い、タカオがスキルを覚えている横で、僕はエノーラさんに質問をする。
「罠関係のスキルって、覚えるのが難しいんですか?」
「いえ、そうでもありません。罠の講習を受ければ、大体の人が短期間で覚えられますね。1つのスキルに対して、必要なスキルポイントは1です」
「4つ覚えれば良いんですよね? じゃあ『トラップマスター』のスキルポイント5って、もしかして効率が悪いんじゃ……」
「ええ、悪いですね。4ポイントで済むところが、5ポイント必要ですから」
……非効率みたいだけど、タカオは喜んでいるし、まあいいか。『トラップマスター』って名前も気に入っているみたいだし。
ギルドに仕事の報告が終り、スキルを覚え終わった僕らは、暇になった。
すると、タカオがマクダさんにこんな提案をする。
「マクダのあねご、仕事が終わったんで、これから街の銭湯に行きませんか?」
「銭湯かぁ、確か値段がけっこうかかるよね?」
「おごりますよ。風呂上がりに冷えたエール酒でもどうです?」
「いく! 連れてって!」
マクダさんがエール酒で釣れた。エノーラさんに別れの挨拶をすると、僕らは街の銭湯へと行く。
お風呂に入り疲れを癒やし、プールで体を軽く動かして、ふたたびお風呂で体を温める。
タカオが何度か「まぶしい!」と叫んでいたので、おそらくマクダさんの裸を覗こうとしたのだろう。だが、タカオが不機嫌なの、で全ては『光防御魔法』の結界で防がれたみたいだ。
お風呂上がりに、休憩所で冷たい飲み物を飲む。タカオとマクダさんはエール酒。僕はコーヒー牛乳だ。
マクダさんが、冷えたエール酒を一気に飲みきる。
「んーーっ! 湯上がりの一杯、これは最高だねぇ!」
「そうでしょうマクダのあねご。銭湯は最高でしょう」
「うん、これで入場料さえ安ければねぇ。エールのお代わりを頼んでも良い?」
「良いですよ。どんどん行っちゃって下さい」
エールを飲んでいる横で、僕が割引パスポートを見せながら、マクダさんに説明をする。
「ここの一日入場料は銀貨1枚ですが、僕らは銅貨3枚で入れるんです。ただし、水着でプールを利用するのが条件なんですけどね」
「それは変な条件だねぇ? まあ、それで安くなるなら、私も貰いたいけど……」
すると、少しタカオが、調子にのりながら答える。
「俺がオーナーに掛けあって、割引パスポートをもらってきましょうか。あっ、あそこにオーナーがいる。オーナー、ちょっと来てくれ!」
たまたま見つけたオーナーを、タカオが呼び止める。オーナーはこちらを見かけると、走り寄ってきた。
「これはこれは、タカオさん。いつもご利用ありがとうございます。うちも利用客が増えて、助かっていますよ」
「……なんで俺が来てるのと、利用客が増えてるのが関係あるんだ? まあ、いいや。マクダのあねごにも割引パスポートを発行してくれよ」
「あまり簡単には発行したくないのですが、タカオさんの頼みなら断れませんね。良いでしょう」
「やったぜ、さすがオーナー話が分る!」
発行してもらえると分り、マクダさんも喜ぶ。
「本当にありがとうねぇ。おっ、エールのお代わりが来た! んっ、んっ、ぷはぁー、冷えたエールは最高だねぇ」
この豪快な飲みっぷりを見ていて、オーナーが何か思いついたようだ。
「そうだ! 特別サービスとして、一日一杯だけ、エール酒の無料サービスもいたしましょう。ただし、周りの人には無料だと言わないで下さいね。全員にお酒を配ったら、破産してしまいますから」
「本当に良いの? いやぁ、ここの銭湯は最高だね!」
そう言って、マクダさんが笑顔を浮かべた。
おそらく、オーナーはマクダさんの飲みっぷりが、宣伝になると思ったのだろう。あれだけ気持ちよく飲んでいれば、誰だって飲みたくなってしまう。一杯だけで、他のお客さんにアピールできるのなら安いものだ。
この後、3人で気持ちよく飲んで。ギルドの宿屋へと戻った。
初めて冒険者の仲間が出来たのかもしれない。