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始まりの街、サノワ

 僕とタカオは街の前までやって来た。

 街は4~5メートルの城壁が取り囲み、城門には5人ほどの警備兵がついている。

 城門の前には、荷馬車が3台ほど列を作っていた。


 街に入るにはこの門を通らなければならない。僕ら二人は荷馬車の後ろに並んだ。


 前の方を見ていると先頭の荷馬車の持ち主が、門番の兵士に身分証を見せて通行料らしきものを支払っている。不審者を街に入れないように検問をしているのだろう。


 僕たちには身分書も無く、どちらかというと不審者になる。特にタカオはどこから見ても怪しい。僕らは無事に街に入れるだろうか?



「なあ、ユウリ。前の人はお金を払っているんだが、俺は金とか持っているのか?」


 僕は神託(しんたく)スクリーンのヘルプ機能を使いながら、その質問に答える。


「ええと、異世界からの勇者には、支度金(したくきん)として金貨100枚が渡されているハズだよ。金貨1枚がおよそ1万円くらいの価値らしいから、100万円くらい持っている計算になるね」


「マジか? 俺、そんな大金を持ったことないぞ! いったいどこにあるんだ?」


 タカオはそういって自分の装備品を確認する。すると、腰の辺りを探しているときに、チャリチャリと硬貨の音がした。


「この小さな袋に入っていたのか。しかし100万円も持ち歩くのは怖いな。ユウリ、倉庫魔法でしまっておいてくれよ」


「いいよ。それじゃあ預かるね」


 タカオは金貨を10枚ほど残して、90枚ほどを僕に渡す。僕は倉庫魔法で小さな引き出しを作り出して、その中に金貨をしまい込んだ。



「そういえば、ユウリは金をもっているのか?」


「あっ、どうだろう? ちょっと確認してみるね」


 お金を持っているか確認しようとすると、目の前に二つの引き出しが現われた。一つは先ほど僕が作り出した小さな引き出し。もう一つは、タンスほどある大きめの引き出した。


 この出現した二つの引き出しは、僕がお金を探しだそうとして、自動的に倉庫魔法が反応したのだろうか?

 試しに小さい引き出しを開けると、さきほど預かった90枚の金貨が入っている。タンスくらいの大きさの引き出しを開けてみると、そこには金貨がギッシリと詰まっていた。



 後ろからタカオが声を掛けてくる。


「どうだ? お金とかあったか?」


 あまりの大金を前に、僕は慌てて引き出しを閉めてごまかす。


「い、いや。どうやら僕は、お金を持ってなさそうだね」


「ふーん。まあ俺が(おご)ってやるよ。100万円くらい持っているからな!」


 タカオは得意そうに言った。



 あのお金はなんだろう、見間違いだろうか?

 神託スクリーンを見てみると、僕の所持金が金貨10090枚と表示されている。金貨1枚が1万円相当なので、日本円に直すとおよそ1億と90万円……


 これは何かの間違いでは? とりあえず、僕はタカオに気がつかれない様に、こっそり電話でマグノリアス様に聞いてみる。


「マグノリアス様、よろしいでしょうか? 僕の魔法の倉庫の中に、金貨が1万枚もあるようなのですが。これは何でしょうか?」


「先立つ物は必要でしょう。私が作って入れておきました」


「今、作ったと言いました? もしかして金貨を作ったのですか?」


「ええ神の力を使えばいくらでも金貨を作れますよ」



 ……それは通貨偽造とかになるのでは? 

 僕が心配をして黙り込んでいると、マグノリアス様は変な方向に勘違(かんちが)いをする。


「お金が足りないようでしたら、あなたが作れば良いのです。『万物(ばんぶつ)造幣局(ぞうへいきょく)』この魔法を使えば、幾らでも金貨を生み出す事ができますよ。それでは異世界の冒険を頑張って下さい」


 そう言って電話が切れた。


 魔法で通貨を作るのは、どう考えても法的にアウトだ。とりあえず、この1万枚の金貨は使わずに封印しておこう。



 マグノリアス様との通話が終わると、僕らの検問の番になっていた。

 門番の兵士が僕らに質問をしてくる。


「君たち、見慣れない顔だね。何の目的でこの街に入るんだ? 身分証を提示してもらえるかな?」


「えっ、えっと僕らは、その……」


 身分証もなく、特に目的のない僕は、言葉に詰まってしまう。すると、タカオが嬉しそうに語り始めた。


「俺、冒険者になりたくて、この街にやって来たんだ。この街にもギルドがあるだろう?」


「冒険者ギルドならこの街にもあるが、大丈夫なのか? その細腕で?」


 兵士に心配されたタカオは、黒い日本刀を抜いて構えてみせる。


「これを見ろ! どうだ、格好いいだろう?」


 すると、兵士達の間でざわめきが起こる。


「格好いいな。いや、格好いいというよりは美しい!」

「あの人、ただ者ではないな」

「きっと達人に違いない」

「それにあの容姿、好きになってしまいそうだ」



 ……これは、おそらくタカオのスキル『神秘的な魅力』によって兵士達の好感度が急上昇しているのだろう。

 このまま話し込んで、好感度が上がり続け、タカオに()れられても困る。僕はタカオに話を切り上げるように言う。


「タカオ。そろそろ先に進まないと」


「そうだった。ここを通っても良いかな?」


「どうぞどうぞ。冒険者ギルドはまっすぐ進んだ所にありますよ」


「ありがとう。じゃあ先に進ませてもらうよ」


 タカオのスキルのおかげで、僕らは無事に検問を通りぬけられた。

 門から少し進むと、後ろの兵士達は、こんな会話をしている。


「ありがとうだってさ。感謝されちまった」

「すげえ魅力的だったよな」

「あの人、彼氏とかいるのかな?」


 ……うん、話がややこしくなりそうだ。会話はタカオの耳には届いていないようだし、聞かなかった事にしよう。僕らひとまず、冒険者ギルドを目指す。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ユウリさんしか常識持っている人いない やばい
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