遺跡とダンジョン 4
遺跡は川の近くにあると言われて、川沿いを歩き回ったのだが、支流が多くて目的地にたどり着けなかった。
さんざん歩き回って、疲れたタカオが愚痴をこぼす。
「遺跡を見つけるのが、こんなに大変だとは。ゲームならフィールドマップが表示されるから、迷う事なんてないのに……」
それを聞いていたマクダさんが、不思議そうな顔をする。
「『フィールドマップ』ってなぁに? 聞いた事がないんだけど?」
『フィールドマップ』とは、ゲームで鳥観図のように、周辺の地図を表す画面の事だ。マクダさんは、この世界の住人なので、ゲームなんて知る訳がない。慌てて僕が誤魔化す。
「ああ、タカオはそういうユニークスキルを持った冒険譚の小説を読んだみたいです。なんでも、周辺の地形が分かるスキルらしいですよ」
「へぇ~、そんなスキルがあったら便利だねぇ。目的地が分かるんだったら旅がとても楽になるよ。まあ、そんなスキルなんて、ありえないと思うけどね」
マクダさんがそう答える。どうやら誤魔化せたらしい。
そう言えば、僕は『神託スクリーン』という、神様だけが使える、タブレット端末のような物を持っていた。試しに、他の人に聞えないように「神託スクリーン、周辺の地図を表示」とつぶやいてみる。
すると、周辺の地図が映し出され、かなり近くに遺跡の地図記号まで表示されていた……
ちなみにこの画面は、僕にしか見えていない、明日になったら、それとなく目的地に誘導をしよう。
話している間にも、夕方になり日が落ちてきた。そろそろキャンプの準備をしなければならない。
「もう暗くなるからキャンプをしないと。夕飯のリクエストは何かありますか?」
僕がマクダさんに聞くと、こう答える。
「カレーという料理がいいなぁ。一度、食べてみたい」
「確かに、キャンプといったら、カレーですぜ。外で食べると、美味さが倍増します」
タカオがなぜか自慢気に話す。作るのは僕なんだけど……
「では、まず、かまどを作りましょうか『石の壁』」
魔法でかまどを作り、『火柱』の魔法で火を起こす。すると、炎の灯りにつられて、虫がよってきた。
川沿いだから虫が多いのだろう。タカオが虫を払いながら、文句を言う。
「ユウリ、この虫をなんとかしてくれ」
「蚊帳は買ってあるけど、火を使っている最中は無理だし、料理が終わるまで我慢してよ」
「あー、もう、うっとうしい。そうだ、『城壁』の魔法で、高い塔を作ってくれよ。その上でキャンプをしよう、マンションの高層階には、虫が居ないっていうし」
「『マンション』ってなぁに?」
マクダさんが『マンション』を知る訳がない。タカオの失言を、再び僕が誤魔化そうとする。
「ええと、何かの物語の中に出て来たような気が…… そうだ、そこそこの高さの安全な塔よ、下から生えてこい『城壁!』」
呪文を唱えると、地面の下から巨大な石柱が生えてきた。僕たちをのせて、ぐんぐんと上に伸びていく。そして5~6階建て、およそ20メートルくらいの高さで止まった。
僕らは頂上の屋上の部分に居るのだが、広さは10畳くらいだろうか。ちょっと狭い気もするが、3人が過ごすには充分な広さだろう。『安全』という言葉を入れたので、手すりがついていて、落ちる心配は無さそうだ。
「おっ、虫が居なくなった。ユウリ、ナイスだ!」
タカオが外側の手すりまで歩いて行く。
「ちょうど夕日が沈む所だ、絶景だぜ、ユウリ、マクダのあねご、見てみなよ」
「高い場所だけど、大丈夫なの?」
マクダさんがへっぴり腰で、おそるおそる進んで行く。あまりにも遅いので、僕が横を通り抜け、先にたどり着いた。
「手すりは頑丈なので、大丈夫ですよ。マクダさんも、この風景を見て下さい」
大きな太陽が、遠くの山の間に沈もうとしていた。赤く染まった空の下、僕らは日が落ちる様子を見守る。
太陽が完全に消えて無くなると、マクダさんが口を開いた。
「ねえ、そろそろカレーを作り始めようよ」
「そうですね。作り始めましょうか」
そう言って、僕は料理に取りかかった。マクダさんは絶景より食べ物がいいらしい。
慣れた手つきでチキンカレーを作り、マクダさんに振る舞う。
「なにこれ! 辛さの中からうまさが押し寄せて来る! こんな美味しい料理を食べたことないよぉ!」
マクダさんはカレーを4杯ほど食べた。かなり気に入ってもらえたようだ。
この後、大型のテントの中に蚊帳を張り、野宿をする。塔の上は爽やかな風が流れ、僕たちは快適に眠る事ができた。