ふるつわものタカオ
僕がちょっと早足で歩くと、みるみるうちにタカオとの距離が開く。
すると、慌ててタカオが走ってきた。
「ユウリ、待ってくれ、おいてかないでくれぇ~」
あまりにも必死だったので、僕は立ち止まって待ってあげる。
僕に追い付いたタカオは、息を切らしながら、こんな事を聞いてきた。
「はぁ、はぁ、ユウリ、俺は冷静に受け止めるから、本当の話してくれ、俺はもしかして男に戻れなくなったのか?」
「うん。性別を変える魔法を試したけど、ギアスの呪いの方が強いらしいんだ」
「やっぱり…… それで、元に戻る方法はあるのか?」
「2つ手段があるらしい。一つ目は、この世界の魔王を倒して、世界に平和をもたらす事。二つ目はギアスの呪いを解くアイテムを使えば良いんだけど、このアイテムは珍しくて、存在しているのか分らない」
かなり深刻な話をしたのだが、タカオの表情が明るくなった。
「なんだ、アイテムを使えば良いだけか。思った以上に簡単だな」
あまりに簡単そうに言うので、僕は忠告を込めて言う。
「そんなに簡単じゃないと思うけど、そのアイテムが、この世界に無い可能性だってあるんだし……」
「大丈夫だって、アイテムは都合良く配置されているはずさ。俺がどれほどの世界を救って来たと思っているんだ?」
「……それ、ゲームの世界の話だよね?」
「もちろん。異世界なんてゲームみたいなもんだろう。大丈夫だって、大船に乗った気で俺に任せな!」
「あっ、うん。まあ、頼むよ」
せっかくやる気を出してくれているんだ。ここで厳しい事を言って、モチベーションを下げる必要は無いだろう。
タカオにはがんばって魔王を倒してもらわないといけない。普通なら、魔王を倒すなんて事は不可能に思えるが、この世界の攻略難易度も最低の『Zランク』という話だったし、何とかなると思う。
「まずはあの街へ向おうぜ。冒険の始まりだ!」
タカオが上機嫌で歩き出す。どうやら完全に女性化のショックから立ち直ったらしい。
同じく女性化した僕の気分は、まだ落ち込んだままだと言うのに……
「女になった俺の顔ってどんな感じ?」
「かなり美人だと思うよ。鏡があるから見てみる?」
そう言って、僕は倉庫魔法を使い、鏡を取り出してタカオに渡す。
「おっ、いけてるじゃん。かわいくて美人で、良い感じだな!」
鏡の前で日本刀を構えて、色々とポーズを取る。完全に旅行気分だが、本当に大丈夫なのだろうか?
ある程度、鏡を見続けると納得したらしい。こんな事を聞いてきた。
「ところでさ、この世界はどんな世界なんだ? ユウリは神様だから知っているだろ?」
「もちろん知っているよ。歩きながら説明するね」
そう言って、神託スクリーンを開き、この世界について調べ始める。
このスクリーンは本当に便利だ、僕の意思で自由に操作できる。人には見られず調べ物が出来て、さも知っているように語る事ができるのも良い。これだけでも万能の神様になった気分になれる能力だ。
この世界について解説しているページを見つけ、得意気になって開いてみると、そこにはこんな一文があるだけだった。
『この世界は、魔法が使える中世ヨーロッパ風の世界です』
……なんだこれは? 世界の説明がこんな一文で収まる訳がない。歴史、文化、宗教、そういったものの情報はどこにあるんだ! 神託スクリーンは壊れてしまったのか? それとも僕の調べ方が悪いのだろうか?
「なあ、ユウリ、世界について説明してくれよ」
「あっ、うん。そ、そ、そうね。『この世界は、魔法が使える中世ヨーロッパ風の世界です』」
テンパった僕は、とりあえず神託スクリーンの一文を読み上げた、しかし、この続きはどう話せばいいんだろう……
次は何を話せばいいのかと、冷や汗をかいていると、タカオから予想外の返事が返ってくる。
「へえ、『中世ヨーロッパ風の世界』か。なるほどね、だいたい分ったよ」
ん? もしかして、いまの一文で納得したのか? いや、まさかそんなハズは……
「ユウリはどんなスキルを持っているんだ?」
あれ? 話題が次に移ったぞ。もしかして本当にあの一文で納得したと言うのか?
まあ、下手な事を言って、藪をつついて蛇を出すようなマネはしない方がいいだろう。僕も次の話題に移る。
「ええと、攻撃系の魔法は使えないけど、神様が使う『創世魔法』と、傷とかを治す『白魔法』が使えるよ」
「おっ、『創世魔法』と『白魔法』か、なんか凄そうだな。攻撃魔法が無いけど、なんとかなるだろ、俺が敵をあっという間に倒しちまうからな。そういえばユウリは何か武器はもってないのか?」
「ええと……」
持ち物について考えると、神託スクリーンに武器一覧が出て来た。『こんぼう』に『メイス』に『フレイル』『ウォーハンマー』。どうやら僕の倉庫魔法の中にしまってある武器らしい、女神マグノリアス様が用意しておいてくれた物だろう。
『メイス』を思い浮かべると、目の前に戸棚が現われて、そこを開けるとメイスが入っていた。90センチはある杖ぐらいの長さのゴツいメイスだ。
その武器を取り出し、タカオに見せながら言う。
「いくつか武器をもってるよ。たとえばコレとか」
「ゴツいな。まあ、それがあれば何かあっても大丈夫だろう。おっ、そろそろ街に到着するな」
歩きながらしゃべっていると、僕たちは街の前まで来ていた。
※イラストはseima氏に描いていただきました。