ルア
「よし、順調順調」
ルアは、額を拭いながら背中に担いだ籠の中に木の実やら山菜やらを放り投げていく。
「これぐらい集まれば十分かなー? プアー、帰るよー」
生茂る草木の中からひょこりと顔を出したのはかわいいリス…ではなく、リスに似た魔獣である。
「ぷぅ」
プアはルアの背中からよじよじと登って頭に乗り、準備完了とでも言うかのようにぷきゅぷきゅと鳴いた。
「はいはい、早くしろってね。もう、自分はいつも遊んでばっかのくせに」
そう言いながらも彼女の顔は楽しそうだ。
ここは人里離れた山の奥。
ルアは小さな頃から山で暮らしている、生粋の山娘である。
プアは元野生だが、まだ小さい時に母リスとはぐれ、怪我していたところを少女に手当てされ懐いてしまった。
自分の名前ルアに似せて「プア」と名付け、今では何かと良い友達だ。ルアは、兄弟がいたらこんな感じなのかな、と思ったりもする。
「プア、美味しいきのこがたくさん取れたよ!御馳走なんだろうね〜。きのこ鍋でしょ、きのこご飯も食べたいし、シンプルに蒸し焼きでも良いなぁ」
思わず頬が緩む。
きのこパーティーだぁ。
山での生活の中で、きのこは本当にありがたい食料なのだ。
鼻歌を歌いながらルアが美味しいきのこ料理を次々に頭に思い浮かべていると、なんだか辺りが暗くなってきた。
見上げると、いつの間にか嫌な感じの雲が空を覆っている。
うーん、これは降るな。
「プア、もうすぐ夕立が来そうだから早く帰ろう」
「ぷきゅう」
遠くで雷が聞こえる。
洗濯物も干しっぱなしだ。
ルアが掌を空に向けて、あのお決まりの雨が降っているかを確かめる仕草をしていると首元ががさがさと動いた。
「あ、こら、プア!」
気がつくと、プアが何かを両手で嬉しそうに抱えもっている。
……それ、わたしのペンダント。
ルアは変な小躍りをしているプアから、それを遠慮なく奪いとった。
「ぷきゅぷきゅっ」
プアが何するんだよぉと言いたげな目を向けてくる。
……あのねぇ。
「プアがきらきら好きなのは知ってるけど、プアもこれがわたしの大切なものだってこと、知ってるでしょ」
ビー玉よりひと周り大きい、白透明で丸い球体の石のペンダント。石は金属の金具で鎖に繋がれていて、いつも首にかけて持ち歩いている。
「本当、いつ見ても綺麗だよね、この石は」
実は、ルアは、リアードとは血が繋がってない。
昔、森に捨てられていたルアを、リアードがひろったのだ。
身ひとつでいたルアが、唯一持っていたものがこのペンダントだった。
ルアは、お守りとしていつも首にかけていた。
ゴロゴロゴロゴロッ
ザーーーっ
大きな雷の音がしたと思ったら、土砂降りの雨が降ってきた。
うわっ、やっばい!
石を眺めている場合じゃないっ!!
ルアは急いでプアから奪ったペンダントを首にかけると、山道を走った。
「ぷきゅーっ!」
「プア、籠の中を守って!」
「ぷきゅぷきゅっ!(無理だよ!)」
「ああ、リアードに怒られるー!!!」
どうして雨が降る前に帰って来ないんだい、と手を腰に当てて説教を始めるリアードの姿がルアの頭の中に浮かぶ。
ルアの叫びは雨の音にかき消された。
******
ああ、もう最悪。
あれから急いで走ったけど、洗濯物は全滅だった。
今から洗っても乾かさないし、明日やろう。
……はあ。
とため息を吐きながら、後ろには重い籠、前に大量の洗濯物を抱えて、我が家(ちなみに家は綺麗とは言えないかも知れないが、雨漏りはしないし大きさも丁度いいので結構住みやすかったりする)のドアを開ける。
…………え?…………誰?
ぴかっ
ゴロゴロゴロッ
また遠くで雷が鳴っている。
ルアは混乱していた。
え、何、え?……
雨に濡れたせいで幻覚でも見ているだろうか。
ルアの前には、黒く、つのと牙を持ち、目は赤く三角につり上がった……悪魔がいた。
いきなり悪魔とご対面です。
【作者より】
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