山娘
「ルア!」
青空の下、手に洗濯籠を抱えた少女がエメラルドグリーンの艶やかな髪を靡かせて振り向く。
「何、リナード」
彼女は、鈍色の髪の初老の女性――リアードに駆け寄った。
「ルア、明日はお前の誕生日だろ。いつもより豪華な飯を作ってやるから、それに合う食材を採ってきな。」
ルアが顔をしかめる。
「豪華な飯を作ってやるからって……それ、わたしのためなんだよね。だけど食材とってくるのはわたしって、寧ろこっちの仕事が増えたような気がするんだけど」
ルアが不満を口にすると、鬼のような形相でぎろりと睨まれる。
「祝ってほしくないなら別にいいけどね」
酷い話である。
「わーん、そんなことない。嬉しい、本当、嬉しくて泣いちゃう!」
そうだよ、御馳走なんて滅多にないんだから、これぐらいどうってことない。
とルアは自分に言い聞かせる。
「ほら、日が暮れる前にさっさと行って」
リアードにしっしっと虫を払うような仕草で送り出された。
……やっぱりちょっと酷くない?
はーい、とやる気なさげに返事をして、ふと思いついたように振り返る。
「山のふもとの村に、商団が来てるんだって! わたし、そろそろ新しい服が欲しいなぁ」
ルアの透明な瞳がリアードをじーっと捉える。
リアードはこの瞳に弱かった。
「……分かったよ。」
「やったっぁー!!!」
飛び跳ね、抱きつくように洗濯籠をリアードに押し付けると、山用の籠の紐を掴みとり山に向かって走っていく。
「楽しみ! 頑張って採ってくるねー!」
「あんまり走ると転ぶよー!」
リアードが心配して叫ぶと、ルアのだいじょーぶーという声が遠くから聴こえた。
「まったく、もう。あんなんで大丈夫かね、あの子は。」
はあーとため息を吐くリアードの頬が緩んでいたのは、ルアには秘密である。
「平和だねぇ」
そんな些細な呟きは、風の音にかき消されてしまった。
明日もまた投稿します。
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鈍色とは、ざっくりいうと灰色です。