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名前を教えてもらえました!

「私は人でも魔物でもない。どういった者かをお前に教えるつもりもない。が…」


「が?」


そこで区切ったと思ったら、おもむろに、ためらいなく、フードをおろした。


やっぱりフードに認識阻害の魔法でもかかっていたのか、さっきまできちんと認識できなかった髪が見える。顔が見える。


とても綺麗な少し長めの金髪だった。きらきらと金色に輝いている。

目は赤い、髪は金色、想像の黒尽くめの魔王とは違うけど、やっぱりどう見てもその美形は、物語に出てくる魔王のような…堂々とした風格、絶対的強者感がただよっている。

なにより、耳がある位置より少し上に二本、立派な羊のような黒い角が生えている。

そして、耳は願ったとおりにエルフ耳だった。


「わあ…!」


思わず感嘆をあげる。

だって、角だ。エルフ耳だ。感動するだろう。


「これは…推せる…」


「なにを言っている、お前は。」


ものすごく美形(私的に)だし頭には角。魔王っぽい。できれば黒髪がよかったけど、金髪もいい。いや、むしろ金髪の方が王様っぽいから魔王らしいかもしれない。

長めの前髪も、適当に切った様子の長い襟足も、めっちゃいい。

耳がとんがっているのもいい。すごくいい。


なんていうかものすごく恋愛小説系ファンタジーモノの登場人物っぽい。

すごい推せる。これ乙女ゲーで出てきそうな感じ、あれでしょ、全部クリアしたあとに攻略出来るようになるルートでしょ、知ってる。見たことある。


「…なぜそんな目で見る。お前は、…馬鹿なのか。」


見るからに人外なのにめちゃくちゃ戸惑っている。正直可愛い。これは推せる。

異世界転生して初めて、本当に初めて、私はこの世界に感謝した。


「これは、推せる。」


最初に見なくてよかった。きっと最初に見ていたら、魔王だと思い込んでめちゃくちゃ失礼なことを言って、助けてもらえなくなっていた気がする。


「恐れるかと思ったが、少しも恐れていないな。」


「はい、今の恩人さんは別に怖くないです。」


「恩人さんと呼ぶな、と言った。忘れたか。」


「じゃあ呼び名を指定してください、できれば名前がいいんですけど…」


少しためらって、またため息をついた。

フードがないからため息をつく姿がよく見える。ものすごくいいな。これ。

ぜひもう私の前でフードをかぶるのはやめてほしい。この姿なら多少の嫌味も気にならない。


「テオと呼べ。」


「テオさん。」


めっちゃ優雅な響きだ…いいな…テオ…いいな…


名前を教えてもらえたのはすごく嬉しい。けど、朝が来たらまた道を教えてもらって町に戻ることになるのでは?

それでいいんだけど、そうするともう二度とテオさんに会えない気がする。

そもそも今回だって、普通に会う手段があればこんな目にあっていない。

テオさんに会うための手段さえあれば、私はワーズの森で迷うことはないのだ。


「テオさん、テオさん、僕またテオさんに会いたいときどうしたらいいですか?」


「会う気はない。」


「森に入ったら迷っちゃうし、僕、ここまでの道わかんないんです。目を瞑っていたので。」


「会う気はない、話を聞け。」


そうか、道を覚えさせないために目を瞑るように言ったのかな…


「目を瞑ってからの体感的にそこまで距離が離れてないと思うので、一日中歩けばたどり着ける気はするんですけど、迷ったら死ぬ可能性が高いじゃないですか。

僕、まだ指南書買えてないので、魔法まともに使えないですし。

だから、尋ねる方法を教えてもらえると助かるんですけど…」


「会う気はない、と………」


またため息をつかれてしまった。顔がいい人がつくため息は絵になるなあ。

思わず見とれてしまう。


「お前は言っても聞かない。また森へ入るだろうな。」


「がんばって記憶を地図にします。」


「無駄だ。ここへ来るときも、昨日も、お前の認識を少し「いじった」。記憶を辿っても私に会いにくることは出来ない。」


「えっ!」


どうりで川沿いを歩いたのにたどり着けないわけだ。

それ、今日迷ったの、テオさんのせいじゃないか。


ジト目で見ていると、またため息をついて、テオさんが片手を上げた。見るなとでも言うような仕草だ。

その手は黒い鋭い爪が生えていて、なんだか猛禽類を思わせる。


「もうお前に会う気はない。だから、あきらめて町へ戻れ。朝になったら送る。」


「会う気がないなんて言わないでください、僕そんなに頻繁には来ないですから!

だって、あちこちの町へ行って旅する予定なんです。」


「旅だと?その危機感のない態度で、一人旅だと?」


「鼻で笑いましたね…。あのですね、テオさん。僕は、せっかく家族と言ってくれた方に迷惑をかけたくなくて、家を出ることを最優先したんです。

行くあてがなくても、一箇所にとどまることもできないんです、黒魔力持ちなので。下手したら討伐されちゃうので。

だから、たとえ向かないとしても、一人旅するしかないんですよ。」


メールの町は窮屈だった。両親の人徳があったから、私が追い出されなかっただけ。全員私を邪魔者だと思っていた。知っている。

きっと、どんなに仲良くなっても、黒魔力持ちだとバレたらすぐ追い出される。


「一箇所にとどまれないということは、この森のそばにいられないということなので、どうせしょっちゅうは来れないわけです。

年に一度とかなら、会ってやってもいいなって思いません?」


テオさんはなにか考えている様子だ。

目がこちらに向いていないのをいいことに、じろじろと観察する。


あのエルフ耳は動くんだろうか。たまに耳を動かせる人がいるけど、テオさんはどうなんだろう。

あの角、お手入れしてるんだろうか。ひんやりしているんだろうか、それとも暖かいんだろうか。そもそもテオさん体温あるんだろうか。いろいろ気になる。あと顔がいい。推せる。


というかこの人顔可愛いな…?この世界、大人っぽい顔つきの人が多いから、こういったいわゆる童顔っぽい顔久々に見たかも。


そろそろ足が疲れてきた。借りるのは申し訳ないが、ここまで歩きとおしてきたのだ。一回座らせてもらおう。

布団に腰かけた。想像以上にふわっとしていて、よく眠れそうだ。


「ルネ、お前は本当に指南書を見れば魔法が使えるようになると思っているのか。」


「ええと、黒魔力持ちだってバレるわけにいかないので人目につかないところじゃないと魔法の練習がそもそも出来ないから、指南書を見ながら人目を忍んで練習して、それで覚えようかなって。」


「さすがに読めば使えるとは思っていないようだな。」


「テオさん、さっきから僕のことめちゃくちゃ馬鹿だと思ってます?」


「ああ。」


即答である。


「魔法が使えないのに、魔法に頼って一人旅をしようとしている、と。」


「はい!」


胡乱気な目で見られた。幻聴で『正気か?』とでも聞こえてきそうだ。


「旅がしたいのか。」


「厳密に言うと旅がどうしてもしたいっていうわけじゃないんですけど、ただ安全な拠点が得られる気がしないので、旅するしかないんです。

町に閉じこもって人から逃げるのもいい加減嫌なので、そういった意味では旅がしたいのかもしれないですけど。

いろんなところを、不思議なものを見てみたい、とは思っています。わくわくしたいなって。」


せっかくの魔法の世界だし。オルレーヌの観光地には一通り行ってみたいのが本音だ。

黒魔力持ちかつ金欠、更に身元を言えない私には難しいかもしれないけど。


「今のお前に旅は無理だ。」


「ですよね。僕も現実的ではないなって思ってます。テオさんに助けてもらわなかったら、死んでますし。」


「わかっていて、家に戻らないのか。」


「はい。弟がいるので。僕がいたら、弟、絶対酷い目にあうので。

せめて魔法を覚えられたら、旅もなんとかなると思うんです。だから、それまで生き残れれば、きっと一人旅だって出来るんじゃないかな、と…

魔法道具を色々買うのも考えたんですけど、お金があんまりなくて。」


ミシェルは、これから学校へ行ったり、色々な経験をするだろう。

そのつど、お前の姉は黒魔力持ちだ、という理由で苛められたら…なんて考えたら反吐が出る。

私だって弟は可愛いのだ。それこそ目に入れても痛くないくらい。


「テオさんは魔法使えるんですよね。いいなあ…魔法ってまともに使えるようになるまで時間かかります?

なんかこう、影が薄くなる魔法とかありませんか?あと、浄化魔法とかでお風呂入れなくても綺麗にできたりしないですか?簡単に体が温まる魔法とか、色々と魔法に頼ってやっていきたくて。


って、そうじゃなかった!テオさん、僕とまた会ってくださいっていうお願いをしているところでした。」


危ない、うっかり流されてしまうところだった。

これ作戦だったんだろうか。


「ルネ。」


「はい。」


私の名前を呼んで、また大きなため息をひとつ。


「お前から見て、私はどう見える。」


「見た目の話ですか?中身の話ですか?」


それに対する返事はない。いいから考えて言えってことかな。


「ええと、見た目は、顔がいいなーと思います。あと、耳が尖がっているのがめちゃくちゃ推せるな、と。角もかっこいいです、ちょっと羨ましいです。

金髪綺麗だなって思います、僕は黒髪に変な色混じってるので綺麗じゃないんですよね。羨ましい。


中身はそんな知らないので説明難しいですけど、見ず知らずの黒魔力持ちの命を助けて、寝床用意してくれて朝食までくれて、道案内の手紙もくれて、のこのこ戻ってきた僕を家に招いてくれて、ベッド貸してくれたので、どう考えてもいい人だなと。

めちゃくちゃ面倒見いいんじゃないかな、と思います。」


もう少し色々あるけど、テオさんは恩人。失礼にあたる発言はしてはいけない。


「…お前は、なんというか」


「はい?」


「能天気だな。」


「ええ…」


褒めたのにバカにされた気がする。そもそもテオさん、呆れるかため息つくか怒るかしかしてなくないか…?

とはいえ、わざわざ私からの心象を聞くということは、また会うことも検討してくれている、と思っていいのでは?

期待を込めた眼差しを向けていると、


「もういい、寝ろ。」


と言って、指を立てて天井を指した。

するとたちまち照明が落ちて、暗闇の中で二つの赤い目が鈍く光っているのが見える。


「ええ、待ってくださいテオさん、朝になったらお別れなんですよね?

もう少しお話しましょうよ!っていうかまだ回答聞けてないじゃないですか!」


「…」


「テーオーさーーーーん!!!ええええ…」


もう話すことはないという意思表示だろう、テオさんは椅子に座りなおして微動だにしなくなった。


…期待しちゃったけど、これ、朝目覚めたら違う場所で、もう二度と会えないコースな気がする。

迷惑しかかけてないから当たり前だけど、せめてもう少しだけお話したかったな。

目を閉じたら急に眠気が来て、少しでも起きていようと思ったのに抗えない。

たくさん歩いたし、昨日は床で寝た。宿を取れなかった身に、このベッドは快適すぎる。

体が沈むように、意識が途切れた。


ようやく名前が出揃うところまで来たので、ここで一度まとめて投稿は終わりです。

次回はちょっと反応見てからにしたいと思います!

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