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ファンタジー好きの血が騒ぐぜ!

ちょっと絶望しかけたころ、どこかに下ろされた。体感的に5分くらいしか経っていない。

そして、持っていたパンを取られた。


「あの、まだ目あけちゃダメですか、恩人さん」


「恩人さん、と呼ぶな。」


「じゃあ、黒尽くめさん?」


「…それも気に入らない。」


「んんんん?じゃあ、うーん。あ、ま…」


ぱっと頭に浮かんだ呼び名をあげそうになった。

『魔王』。

さすがに侮蔑的すぎる。これはやめておこう。


「ま、ま…、魔法使いさん…」


「…もう目をあけていい。」


完全にスルーされて、恐る恐る目をあけると、


「わあ…」


誰かの工房のような場所だった。


紙、本、机、なにかの実験道具のような器具、小さなスリガラス窓、簡素な明かり、小さなキッチン、案外よく眠れそうなもこもこ布まみれのベッド。扉が二つある。

まるで御伽噺に出てくる魔法使いや科学者の部屋のようだ。

机の上には、私から受け取ったパンが置かれている。


「恩人さん、ここは?」


「…。」


「あ、間違えた、魔法使いさん、ここは?」


長いため息をつかれた。


「魔法使いさんの、家?」


「どこでもいいだろう。」


「僕、めちゃくちゃ迷惑かけてます…?」


無言は肯定だろう。ものすごーく申し訳ない。


「ベッドを使っていい。」


そう言って、恩人は椅子に座った。そのままじっと動かなくなる。


「それだと、恩人さんはどこで眠るんですか?」


「ここで十分だ。」


「いやさすがにそれは僕申し訳なくてだめです、寝てくださいベッドで!

むしろ僕は床に転がってます、ね!」


「へたに動き回られる方が迷惑だ。」


「ちゃんとじっとしてますから!あ、お手洗いは借りたいですけど!」


「…。」


無言で扉をひとつさした。おそらくトイレはあそこってことだろう。

その後、動かなくなってしまった。話しかけても、なんの返事もない。

ただ黒い布の塊の中で、赤い目だけが光っている。


まるで魔物のようだ、と思った。

昨日見た魔物も、赤い目だった。まあ、それを言うなら私も赤いし、赤い目の人間も少ないながらいるから、一概に言えないけど。

どうしてもあの眼光は魔物っぽいな、と思ってしまう。

魔物っぽいっていうか、もう魔王っぽい。


私は前世、ファンタジー系の本やゲームが好きだった。

推しは大体、魔王や敵役。

魔王って黒髪率が高かったけど、この人はどうなんだろう。エルフ耳だったりするのかな、角生えてたのは気のせいなのかな。気になってきてしまった。


そもそもこの世界に魔王なんているんだろうか?聞いたことないしいないと思う。

魔物でも人型になれるらしいし、もしかして、本当に魔物だったりするんだろうか。

でもさすがにいきなり『あなた人ですか』はマズい。恩人に失礼すぎる。


命の危機から落ち着いた途端、私のファンタジー好きが騒いで仕方なくなってしまった。

ぐるぐると思考を巡らせてしまう。


「あの…。」


返事はない。


「あのですね、すっごく失礼かもなんですけど、っていうか失礼だと思うんですけど、どうしても気になっちゃって。

そのローブの下っていうかフードの下、どうして隠すんですか?」


聞いた瞬間、またあの怒気がぶわっと伝わってきた。

とはいえもう、ちょっと慣れた。

落ち着いてみると、この怒気、あくまで怒気であって殺気ではない。

めっちゃ怖いしドキドキするけど、それに気づけば比較的落ち着いていられる。

そう、私はとても図太いのである。


「見てどうする。」


「あ、見たいっていうか、いや見たいんですけど、単純になんで隠すのか気になったというか」


「お前は、気になったことを聞けば全て教えてもらえる環境で育ったのか。恵まれているな。家に戻してやろうか。」


「ごめんなさい許してください!!!!」


見せたくない、ということなんだろうか。

なんでだろう。醜い傷があるからとか、いや、


「昨日角が見えた気がしたから気になっただけなんです!」


そう言った瞬間、窓がガタっとゆれた。食器がカチャリと音を立てる。

先ほどまでの怒気とは違う、もっと強い敵意、殺意、そういったものが込められた気配。


私なんて一瞬で殺せるんじゃないか、そういった気配だった。

あまりのことに声ひとつ出ない、呼吸もできない。ただそこに立ち尽くして、怯えていることしかできない。


「角が生えていると思い、それでも付いてきた、と?

魔物だと思ったか?」


ガタガタ、体が勝手に震え始める。


「正直に言え、嘘を言ったら殺す。私が、魔物だと思ったか?」


なんとか息を吸った。


「ごめん、なさい」


「謝罪は必要ない。答えろ。」


頭が真っ白で、ただ嘘をついてはいけないことはわかった。


「もしかしたら、魔物かもしれないって思い、ました…

でも、魔物でも、恩人だから、悪い魔物じゃないって思って、お礼したくて」


どうして付いてきたか。さっきも、なんで怖がらないのかと、この恩人はそんなことを聞いていた。


「僕は、恩人さんが魔物でも人でも、どっちでもいいって、思って」


だいたい、人に迫害されて生きてきた日陰者だ。

あげく前の記憶ではヒールキャラ推し、ファンタジーものが好きだったので魔王キャラ推しだった。

つまり、この恩人みたいな生き物は、私にとっては忌み嫌う要素がない。

極論どっちでもいい。人だって魔物だって、まあ、私にとって悪い人、悪い魔物じゃないならいい。重要なのはそこじゃなくて、


「とにかく僕、黒魔力持ちって知った上であんな優しくされたのが嬉しかったんです。」


めちゃくちゃ失礼なことを聞いてしまったから怒るのは当然だけど…

魔物だと思われたから怒っているなら人間だよね。でも、気軽に殺そうとするところは魔物。

この恩人、なんなんだろう?


ふと、殺意が薄く、いや、なくなっていることに気づいた。

慣れたのではなく、消えたのだ。

無言のままだった恩人を見ると、目があった。驚いたような、へんなものを見るような、不思議な目をしている。


「えーと。だから、あの。嫌なこと聞いてごめんなさい、僕別に恩人さんがどっちでもいいので、他言もしないので、あんまり怒らないでください!」

「お前は、馬鹿なのか。」


ド直球でバカにされた。びっくりした。普通ここまでド直球にバカにする…?


「…あんまり勉強させてもらえる環境になかったから、確かにバカかもしれないですけど!」


長いため息をつかれた。もう何回目だろう。


「私は魔物ではない。」


はっきりそう言って、私を見つめた。


「すみません、僕、めっちゃ失礼なこと言いましたね…。

角は見間違いだったんですね、ごめんなさい…」


「見間違いではない。」


「え?」


いま、なんつった?????


「名前を聞こう。」


「え?」


さっきは名乗らなくていいって言ったのに????


「え、えっと、僕はルネです。」


名乗ったのに、返事がない。


「あの、恩人さん、角は見間違いじゃないって言いました…?」


「ああそうだ。見間違いではない。」


「あれ、僕が無知なだけなのかもしれないんですけど、人って角生えましたっけ??」


「普通の人間に角が生えることはまずないだろう。」


あ、ですよね。よかった。

頭に大量のハテナを浮かべていると、恩人はまたため息をついた。


「魔物ではないと言ったが、人間だとも言っていない。」


「ああ、なるほど!」


魔物ではなく、人間でもない、と。確かにそれなら納得―――――

ってならないよ!!!!!

つまり何?!なんなの?!人間と魔物以外だとなに、動物?あと神様とか?!

あ、妖精さんみたいに悪い魔物じゃない魔力持ちの人外ってことかな?!


「…私は」


「あ、待って!恩人さん待って、僕考えるから!」


「…。」


神様なら有り得そう。神様って大抵理不尽だし、強いし。

神様説あるな、これ。

でも魔力持ちの魔物以外の動物って可能性もあるか、でもこんな人型のって妖精さん?

なんだろう。神様が一番ありえそう。

あ、まさか幽霊とか?!ホラーはちょっとキツい。

いや、ホムンクルス的な人造人間説もあるな?!あとはキメラとか?!


「おい、なにを考え込んでいる。」


「えっと、僕的に神様が最有力で、次点で妖精、次にありえそうなのは人造人間、キメラ、一番怖いのが幽霊だなって思ってるんですけど、当たりはあります?」

「…」


心底呆れた目で見られた。

当たり前か。よく考えたらいきなりデリケートな問題をクイズ扱いするって最低だ。

私、また失礼なことをしてしまったのでは…?


「あの、ごめんなさい、よく考えたら恩人さんにめちゃくちゃ失礼なこと言ってますね…」


「お前は、心底、馬鹿なのだな。」


「ごめんなさい。返す言葉もないです。」


ファンタジー好きの血が騒いだ、というのも言い訳にしかならない。

本当に申し訳ない、無神経すぎる。なんでいつも後先考えないんだろう。いい加減反省しろ。


旅に出て次の町に着く前に死にかける系主人公ですが、今後もいうほどグロはないです。

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