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ワーズの森へ4

もう、川や岩、見るもの全てに、「どうもバカですー」と言って歩きたい。


来た道を戻るより、あの廃墟を目指したほうがまだいいだろう、と思って目指したのに、いまだに着かないまま日が暮れかけてしまった。

もう夕暮れも終わり、本格的に夜の時間になる。


川沿いに下流へ向かって今からタルブへ戻っていったとしても、夜移動することは確実。

この場にじっとしていたとしても、魔物に会う可能性は高い。

つまり魔物と対峙することは確実。


また昨日みたいに…と思うと、恐怖から喉がカラカラに渇いていく。

正直おなかいたい。

数時間前の自分は何呑気にパン食ってたんだろ。あのとき引き返せば、せめて夜になる前に森を出られたのに。


とりあえず水を飲もうとして、川のそばでしゃがみこみ、水をすくい上げた。

ふと、自分の後ろになにか映っていることに気づく。


「っ?!」


とっさに水をぶちまけながら振り返ると、そこには、昨日会ったあの人影がいた。


相変わらずローブのようなものを着ていて顔が視認できない。

けど、こんな凶悪な気配を持つ人がこの森に二人も三人もいてたまるか。同一人物だろう。


それにしてもいつの間に?無音で背後を取られた…?そりゃ特殊訓練なんて受けてないから背後なんて簡単に取れると思うけど、本当にいつの間に…?


「なにをしている。」


呆然と固まっていると、怒ったような声で話しかけられた。やっぱり昨日の人と同じ声だ。


「…あ、あの、お礼をしたくて。」


わきに置いていたパンを差し出す。


「僕、昨日寝かせてもらって、毛布貸してもらって、パンももらって、道案内してもらって、そもそも命を助けてもらったので…

タルブの町には宿がなかったのと、魔法を学ぶために指南書を買おうと思っていたのに本を売っていなかったので、次の町に行かないといけなくて。

だからその前に、お礼にパンをって、思って…。

そしたら、何故か歩いても歩いてもあの廃墟に戻れなくて。入り口間違えたのかもしれなくて、それで、あの…迷子に、ですね…」


私が説明するのを、恩人は黙って聞いていた。

話し終えたのに、一言も発しない。


「…せっかく助けてもらったのに、また危ない場所に入っちゃって、呆れてる…って感じですかね…?」


「ああ。」


「ごめんなさい…」


ひええ…許してほしい、パン置いたらとっとと進もうと思っていたんだ。許してほしい…


「…助けてほしいか。」


「助けてください!」


ここで、『いえいえ、さすがに悪いし大丈夫ですー』なんて言ったら、あっという間に魔物の餌食だ。助けてくれるのであれば、是が非でもお願いしたい。


長いため息をつかれた。


「あ、あの、僕はル」


「名乗らなくていい。」


「ええ…」


名乗らなくていい、というのは、『あなたと長く付き合う気はない』という意味じゃなかったっけ?

えええ…まあそうなんだけど、そうなんだろうけど…


「で、でも、僕助けてもらったので、きちんと挨拶くらいしたいなって思って…」


「挨拶も礼も必要ない。」


差し出したパンは受け取ってもらえないままだ。

怒らせてしまったらしい。


「…ごめんなさい。」


確かに恩人にとっては迷惑でしかなかったと思う。

考えなしにまた森に入って、お礼がしたかった!なんて言って、また助けを乞う。確実に迷惑だ。


「恩人さんに迷惑かけるつもりじゃなかったんです、僕。」


「謝罪も必要ない。」


「…わかりました。恩人さん、僕森に入ってから一日歩いてしまったのですが、この場所から一番近い町はどの方角かわかりますか?」


「…タルブとやらに戻らなくていいのか。」


「戻ったところで宿がない町だったので、どこかで野宿は確定です。

とどまる理由もないので、どの町でもいいです。」


「お前の町に戻ればいい。」


「え、僕の町ですか?いやです。」


ハッキリ言うと、恩人の目が細くなるのがわかった。

怒気を感じる目だ。

なんで顔が認識できないのに目が合うのがわかるんだろう?

やっぱり認識阻害の魔法がかかってるんだろうか?


「自分ひとりで生きられないのに、庇護されたくもない、と。なら死ぬしかないだろう、なのに死にたくもない、助けてほしい、と。」


「僕、家に戻ってあの優しい夫婦にまた迷惑かけるくらいなら、この森で死んだほうがいいです。」


そう言いきった瞬間、ぞわ、と鳥肌が立つほどの怒気が恩人からあふれた。


「お、怒ったって、僕は気が変わったりしないです!

両親に子供ができたんです、可愛い弟なんです、弟まで僕がいるせいで、ぶたれたり蹴られたりするの、嫌です!」


怖い。まるで昨日の魔物の前に立っているような恐怖。

怒らせてもいいことはない、わかってる。適当に家に帰るって嘘をついてしまえばいいだけって思わなくもない。

でも嘘なんて見抜かれそうだし、そもそもこの人に嘘はつきたくない。

この人は恩人なんだ。


しばらくにらみ合っていると(といっても私が睨めていたかはあやしい)、恩人は長いため息をひとつ、吐いた。川のせせらぎが耳に痛い。


「死にたくないから、助けてと言ったんだろう。」


「死にたくないけど、あの一家に迷惑をかけたくもないんです。僕の家族、だから。」


「家族なら、…まあいい。押し問答になるだけか。」


「恩人さんには僕が変なこと言ってるように聞こえると思うんですけど、もし可能であれば、どこかの町までの道を教えてほしいです。それと、パンを受け取ってほしいです。」


懲りずにもう一度差し出した。


「恩人さん、という呼び方はやめろ。」


「でも、名前知らないので…」


また長いため息をひとつ、吐いた。


「お前は黒の魔力持ちだ。魔力量も多い。力量くらいわかるはずだ、私が恐ろしくないのか。」


「え、いや、めちゃくちゃ強いのは僕にもわかります。さっき怒っていたときは、わりと怖かったです。」


「そのわりには、反論ばかりする。逆らっているということは、恐怖を感じていないということではないのか。」


「いやそれは暴論です、僕は怖くても逆らわないといけないことには逆らいます。」


もうひとつ、ため息を吐いた。


「恩人さん、ため息ばかりついてますけど、ため息をつくと幸せが逃げるそうですよ?」


「聞いたことがないな。」


「ああ、ええと、異国の言い伝え?みたいなやつです。」


「…。そうか。」


そういって、もう一度、これみよがしにため息をついた。

くっ、恩人め、なかなか嫌味な性格をしておる…!


「目をつむれ。」


「え?」


「目をつむれ、と言った。」


突然なにを言い出すんだろう。目を瞑れ?なんで?

わけがわからないまま、言われたとおりに目を瞑った。普通なら従わないだろうけど、反射的に。

そう、私は後先考えないタイプの人間なのだ。


「いいと言うまで目をあけるな。」


「え?」


「約束できるなら、助けよう。約束できないなら、助けない。」


「します、約束します!」


目をさらにぎゅっと瞑った。このまま放置されたら魔物に食われるだけだ。

すると、腕を引かれ、足が地面から離れた。

どうやら持ち上げられたようだ。俵担ぎされているのが腹への圧迫感でわかる。


「わ、わ、」


「もし目をあけたら、約束を破ったら、そのときはお前を殺す。いいな。」


「ええええわかりました、絶対開けませんから気軽に殺す宣言しないでくださいー!」


ところで、私は男装をしている。少年になっている。

でも触れたらバレるのではないか。

不安で身じろぎしたが、恩人はかけらも動じていない様子だ。

…まさか胸がなさすぎて、気づいていない…?とか?


ルネ・シフマンは、発育が悪かった。見た目少年のようになだらかで凹凸のない体をしている。15歳だ、今から育つ可能性はそんなに高くない気がする。


これも魔法でどうにかならんものかね。


ちなみに設定としてこの世界はパン食が多そうだと思ってます。

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