魔法使いたい!
この世界は日本と違って…っていうか地球と違って?かな?
まあとにかく前の世界と違って、魔法というものがある。
正直、瑠音だったころからずっとファンタジーものが大好きだった身としては、そこだけは最高に心躍る世界だ。
異世界転生してもろくなことはないけれど、この魔法が使える点と、自分の名前が前世と一緒の発音だったことに関して言えば、とっても嬉しいところだ。
私がルネとして育ったこのオルレーヌという国では、魔力持ちと魔力なしの人間が生まれる。
これは血筋によってある程度決まるけど、たまに突然魔力持ちが生まれることもある。
そして、きちんとした決まりはないが、魔力持ちのほうが優遇されやすい国だ。
その魔力というものは、魔法を使うときに色が出る。いわゆるオーラみたいなものだ。
この魔力、いわゆるオーラの色は、魔力持ちにしか見えない。
そしてこの色が、ちょっとしたランクみたいなものになっている。
この色によるランクの基準は、希少性。
白が一番少なく、縁起のいい色とされている。白の魔力持ちは、とても大切にされる。
オルレーヌでは10年に一人生まれるかどうかーくらいの計算らしいけど。現在も10人くらいはいるんじゃないかな?
つまり白はランクが一番高いのだ。
次に赤。赤は白よりは多く、一般的に生まれる。けど数は少ない。
その次からはあいまいで、赤に近い色の者がランクが高い。オレンジや赤紫、黄色や紫、など。青、緑あたりはとても多いので、希少性はそんなに高くない。
ちなみにこのランクはあくまで希少性によってつけられていて、ランクが高い=レア度が高いから大事にされる、ってだけ。魔力の強さとは関係ないらしい。
でも赤魔力は強い人が多いから、無関係ではないみたいだけど。
そして黒は…、縁起の悪いものとして扱われる。
希少性という意味では白と同等くらい、もしかしたらもっと少ないかもしれない。
でも、不吉な色なのだ。だって、魔物と同じ魔力の色だから。
ようは人間じゃないという見方をされてしまう。
黒の魔力持ちは非常に強い魔力を持っている者が多いらしいが、それはそれ、これはこれ。
迫害対象になる、ものすごく厄介な色だ。
別に衣服や髪色などでの黒が厭われているわけではない。ただ、魔力の色が黒っていうのがオルレーヌではめちゃくちゃ縁起が悪い。
魔法を使わなければ黒魔力持ちだということは早々バレないから、極力魔法を使わないようにすればいいだけなんだけど。
まあそういうわけで、この国の悪いほうのレア、黒魔力持ちの私は、この世界での弟や両親に迷惑をかけるだけの存在ってわけだ。
魔物は、魔力を持つ動物の中でも有害な種を指す。
害悪で、人を襲ったり食べたりする。人語を理解する魔物もいるらしいし、稀に人型になれる魔物もいるらしい。多種多様な魔物がいるわけだが、とにかくこいつらが厄介だ。
おかげで人の国同士の戦争なんかは少ないみたいだけど。だって人と争ってる場合じゃないもんね。
魔力のない動物、猫や牛や豚、鳥なんかも存在している。それらは前の世界と同じように、動物、と呼ばれている。
魔力のある生き物の中で有害なものは魔物と呼ばれていて、無害、もしくは人にいい影響を与えるものは魔物と呼ばれていない。
人に幸運を運んでくれるような妖精は、白い魔力を持っている。これらは魔物と呼ばれない。
人をさらったり騙したり食べたりする悪い妖精は、黒い魔力を持っている。これらは、妖精ではなく、魔物と呼ばれる。
線引きはわりと曖昧で、もう魔力の色が黒い=邪悪、という大雑把な感じ。
そんなのと一緒の色の魔力を持つ人間なんて、そりゃ普通の人からしたら魔物だわ。
わからんでもない。
とはいえ私は魔物じゃない。…たぶん。出自がわからないから自信ないけど。
だから迫害されても困るし、そんな自分ではどうしようもないことで責められても正直なにもできない。
魔力とかめっちゃあこがれる!という気持ちがあったからあまり落ち込まないですんではいるけど、両親とミシェルに対する罪悪感があまりに強くて息苦しかった。
でも!これで!私は自由だ!
罪悪感に押しつぶされることもない!(かわりに家はなくなったけど)
申し訳なくて俯く必要もない!(生計の目処は立ってないけど)
黒魔力持ちだと知られていない土地に行けば、こそこそする必要もない!(見切り発車もいいとこだけど)
あの優しい両親は、これからは平和に生きてほしい。
私は私で、なんとか平和にこの世界を楽しんでいけたら、と思っている。
ふと自分の格好を見た。
長かった髪を短く切って、少年の格好をしている。
女である私が男装をしているのは、母さんの言いつけだからだ。女性の一人旅は狙われやすいから。
高かったけど変声ネックレスを買って、高かったけど軽い幻術がかかる変装用帽子を買うことが、今回の一人旅の条件だった。
両方ともオルレーヌで流通している魔法道具で、もちろん見破る魔法や魔法道具もあるけど、少なくとも普通の庶民にはそうそう普及していないから安全に騙せるだろう。
変声ネックレスは、声を少し低くしてくれるものを買った。
これをつけている間は、少年の声に聞こえるはずだ。
変装帽子は、少年に見えるように軽い幻術をかけてくれるものを買った。
本来は小柄な女にしか見えなくとも、『少年だ』と認識してくれる。
もちろん、髪を短くしたり少年らしい格好をしたりすることが前提だけど。
つまり今の私は、顎くらいまで切った黒髪に帽子をかぶって、ネックレスを服の下に隠し、少年のような格好をしているわけだ。
オルレーヌの女性はロングスカートが多い。ワンピースとドレスの間みたいなデザインの服をよく見かける。その上にエプロンをつけていることも多い。髪も長い女性が多い。
だから、少し少年っぽい格好をするだけで、おそらく11,12歳くらいの男の子に見せてくれるだろう。魔法道具さまさまである。
父さんと母さんに、一人旅の条件として出されたのは、父には一年分の旅費を貯めること、母には男装することと生計手段が一年以内に立てられなければ即帰宅すること、だった。
この世界にも異世界ならではの『冒険者ギルド』的なものはある。が、あれは他国にも気軽に行けるパスポートのようなものを取得する意味もあるため、この世界では結構加入審査が厳しい。まず専門の学校を出ているか、ギルド所属者からの推薦を持っているかでないと、申請すらできない。
まあ、他国に行き来するんだから、当たり前だけども。
私や家族にギルド関係者の知り合いはいないし、そもそも黒魔力持ちには無理だ。不可能だ。むしろ討伐されてしまう可能性すらある。人に化けた魔物だ!なんて言われたらもうどうしようもない。
魔物の討伐は冒険者か討伐部隊が行っているので、魔物の討伐部隊…日本で言う公務員、まあ自衛隊みたいなものかな、その部署の人には気をつけないといけない。
黒魔力ってだけで下手したら討伐対象だ。
なんで魔物って人に化けたりするの、人の姿で人を襲ったりするの…
黒魔力もちの人間なのか、魔物が人に化けているのか、パッと見わからないから私が迫害されるんじゃん…。迷惑すぎる…。
なんの資格もなくなんの手立てもない、ただひたすら自由な一人旅が始まったわけだけど…さすがに見切り発車が過ぎたかもしれない。
お金はとにかく貴重だ。無駄遣いはできない。だから移動手段はもっぱら徒歩。
首都を目指すことも考えたけど、人が多いということは討伐部隊や冒険者も集まるということ。魔法を使うつもりはまったくないけど、万が一がある。見破れる魔法持ちが見たら女だとバレてしまうし、なんで男装しているのかとか興味もたれて調べられたら即アウトだ。
家に住んでいる黒魔力持ちならまだしも、ふらふら一人旅してわざわざ幻術使ってまで男装している黒魔力持ち、しかも首都入り。絶対なにかしらトラブルになる。というか討伐される。死ぬ。
となると行く当てもなくふらふらと首都以外をさ迷うしかないのだけど…
そもそも私はまともに学校へ行けてない。字の読み書きはかろうじて、最低限覚えたけど、どうしても日本語のほうが出てしまうし。
魔法の授業もあったけど、それにまともに出席させてもらえていない。
だって魔力関係の話になるとものすごく苛められるんだもん。どうしろっていうんだ。私悪くないのに。
つまり、魔力はあるからドデカく出力してぶっ飛ばすことはできるけど、細かい魔法はぜんぜん使えないということだ。
でもやってみたい、せっかくの魔法の国なのに。なんかこう、花火とか作ってみたい。
空飛んでみたい。なんでもいいから光をキラキラまとってみたい。
まあ魔力黒いから、キラキラは難しいのかな…どっちかっていうと禍々しいもんね…
黒い魔力持ちということと、血の繋がらない両親を巻き込んでしまったという罪悪感で、いままでは魔法を使ってみたいなんて口が裂けても言えなかった。そもそも両親魔力なしだったし。
でも今は一人だ。今一番やりたいことは魔法の勉強かもしれない。
…いや、でも、勉強するにしても人目についたら黒魔力持ちって即バレ、危険が危ない。頭痛が痛い。
独学で、人に見つからないところで練習していくしかないのでは?
荷運びとか出店とかで雇い先を探すにしても、頭金は必要だ。お金は大事に使いたい。
今日はしょうがないとしても、ギリギリまで宿とか借りたくないし、風呂も水浴び&浄化魔法でなんとかしたい。
怪我や病気も魔法でなんとかして節約したい。
まず魔法を覚えたい、そうすれば多少節約手段も思いつきそう。
そうと決まれば、指南書ゲットして、人目のつかない場所に引きこもるところからはじめようじゃないか!
最初の方はまとめて投稿します!