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バッタの改造人間が勇者召喚された場合  作者: 真黒三太
第四話『輝きの魔術師!』
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Bパート 8

 ――ルミナス・ヒーリング・プリズム!


 光の魔術師が発動した術は、その名の通り守りの術でも攻めの術でもない。


 ――癒しだ。


 ホッパーが構えたロッドの先端から見るも清らかな光の粒子が溢れ出し、倒すべき敵であるはずのブロゴーンを包み込むと、その身に溜まった疲労を取り除いているのである。


「――な!?」


「――主殿! 何をしておるのじゃ!?」


 これを見て驚き慌てたのは、ローダーへの変身を解除し駆けつけたレッカと騎士たちであった。

 それも当然のことであろう。

 たった今、ホッパーが癒しの光を浴びせている女魔人は、つい先日彼自身をブロンズ像へと変じさせた恐るべき魔人戦士なのである。


「貴様……ふざけているのか!?」


 癒しの術を受けて活力を取り戻したのだろう……。

 先ほどまで身動きすることもままならない有様だったブロゴーンが、溢れ出す怒気のままに立ち上がりホッパーへ怒鳴る。


「ふざけてなど……いない」


 だが、ルミナスホッパーはどこまでも澄んだ青い瞳でブロゴーンを見据えるのみであった。


「これがふざけていなくて、何がふざけているというのだ!?

 私が女だからだとでも言うつもりか!?

 貴様が勝ったことは認めよう……。

 だが、魔人戦士としての矜持(きょうじ)を踏みにじることは許さんぞ!」


「そ、そうじゃぞ主殿?

 敵は間違いなく一人前の戦士であり、ここは戦場じゃ。

 ならば、これを討ち取るのに何一つ引け目を感じる必要はないぞ?」


 敵であるブロゴーンと、相棒であるレッカ……。

 前後から責め立てられ、しかし、ホッパーはかぶりを振る。


「いや、女だからという理由で見逃そうというのではない……。

 現におれは、かつて女の改造人間とも戦いこれを打ち倒している。

 もしも、今この場で対峙しているのが貴様一人だったなら、やはりトドメを刺していたことだろう……」


 そういったホッパーの眼差しが、ブロゴーンの一点を見据えた。

 この言葉を聞いて、その場にいる全員が彼の真意へとたどり着いたのである。


「な……まさか……」


 最も驚いたのは、他でもない……ブロゴーン本人であった。

 そして女魔人は、自分の腹を……そこに宿る自身今の今まで気づいていなかった新たな命をなで、天を仰いだのである。


「ミネラゴレム様……」


 そして、それを授けた亡き想い人の名をつぶやく。

 もはや、説明するまでもあるまい……。

 青銅魔人ブロゴーンは、亡き鉱石魔人ミネラゴレムとの間に新たな命を授かっていたのだ!


「主殿……? それは(まこと)なのか?

 ――はっ!? そうか! それもルミナスの能力なのじゃな!?」


「いや、そんな力はない」


 勢い込んで尋ねたレッカへ、ホッパーはぴしゃりとそう言い放つ。


「だが、確信がある。

 まあ、おれとて無駄に年を重ねてきたわけではないということだ……」


 そう……。

 これをルミナスホッパーがこれを見抜けたのは、神通力や超能力の働きによるものではなかった。

 ただ、七十余年に渡る人生経験が彼にその事実を見抜かせたのである。


「ブロゴーン。

 貴様はともかく、その身に宿した新たな命を殺すこと……これはまかりならん。

 魔法を使えるようになった今なら分かる……貴様なら、帰還も可能なはずだ。

 魔界へ帰り、その身を休めるがいい」


「くっ……」


 何よりも新しき命のために……。

 戦意を失ったブロゴーンが、一歩、二歩と後ずさりながら恨めしい目をホッパーに向けた。


「だが、覚えておくがいい……!

 成長したこの子が、必ずや父親の仇を討つだろう!

 もっとも、それまでに貴様が生きていればの話だがな!」


「そうだな……。

 成長したその子が望むのならば、おれは受けて立たねばならないだろう。

 だが、まずはその子自身の幸せを第一に考え育ててほしい。

 おれの言えたことではないが、な……」


「…………………………」


 それきり、もう言葉を交わすことはなく。

 ブロゴーンは魔杖(まじょう)を天にかざし、魔界への経路(パス)をつないだ。

 だが、その経路(パス)を通じて行使されたのは彼女を帰還させる術ではなかったのである。


『へ……っ! ミネラゴレムのやつ、まさか子供を残していたとはなあ!』


「――っ!? ラトラ様!?」


『そのまま楽にしていてよい……。

 お主の経路(パス)を通じ、ワシの術で声と姿を送らせてもらっている』


「――ルスカ様!?」


『私が頼んだのだ。

 勇者と、話がしたかったのでな』


「――ザギ様!?」


 ブロゴーンの経路(パス)を通じて行使された術……それは幻影であった。

 魔杖(まじょう)から幻影が生み出され、三人の魔人を映し出しているのである。


『幻とはいえ、姿を見せるのは初めてだなあ。

 オレ様は、獣烈将ラトラ!』


『……同じく、幽鬼将ルスカ』


『私は大将軍ザギ。

 こやつらを……ひいては魔人軍全てを陛下に代わり率いている』


 刃金(はがね)(たてがみ)を持つ獅子獣人とでも称すべき魔人が……。

 ローブをまとった人骨そのものと呼ぶべき魔人が……。

 そして一見すれば、人間の戦士にしか見えぬ漆黒の甲冑に身を包んだ男が……。

 それぞれに名乗りを上げる。


 魔界の頂点に立つ三将軍と今代の勇者……。

 それが今、幻影の術越しとはいえ初めて顔を合わせたのだ。


「主殿……祖母からの申し送りで聞いておる。

 こやつらは、魔人王の側近じゃ!」


「ああ、その名は今まで戦った魔人も口にしていた」


 何が起こってもいいよう身構えながら、ホッパーがレッカにうなずく。

 そんな主従に対し、三将軍を代表するザギが鷹揚(おうよう)に手を振ってみせる。


『そう、警戒する必要もあるまい。

 所詮(しょせん)、これはルスカの術で送り出した幻影に過ぎぬ。

 貴様らを害することはできぬよ』


「…………………………」


 そう言われても、敵の首魁(しゅかい)が放つ言葉を信用するはずあるまい……。

 勇者の背後に控える騎士たち全員が同じ思いを抱いていたが、沈黙を経てホッパーが下した結論は全くの逆であった。


「そうだな」


 何と、同意を示すと共にその証としてロッドの構えを解いてしまったのである。


『ふ……ふふ。

 はーっはっはっは!』


 それを受けて、ザギが天を仰ぎながら呵呵(かか)大笑する。

 心底からおかしかったのだろう……ようやく笑い終えてなお、その肩は若干ひくついていた。


『……いや、失礼した。

 私から言ったこととはいえ、我ら魔人族が誇る権能の多様さと奥深さはいい加減に思い知っているはず。

 その上でなお、本当に警戒を解くとは……我が予想の上を行く豪胆さよ!』


「そう、大したことでもない……。

 貴様が敵として信用のおける人物であることは、幻越しにでも判断がついたというだけのことだ」


『嬉しいことを言ってくれる……。

 できれば、私自らが討ち取ってやりたいところであるが、それは叶うまいな。

 何故ならば、その前に貴様は我らが率いる魔人戦士に倒されるからだ』


「その願いは叶うさ。

 ……もっとも、その時倒れているのは貴様の方だがな」


『はっはっは……!』


 まるで、商売人が得意客と歓談するかのように……。

 勇者と魔人の頭目が、なごやかな声で殺伐としたやり取りを続ける。

 その小気味良さに再び笑っていたザギであったが、ふとその表情から笑みを消し去った。


『……さておき、此度(こたび)の件は詫びておこう。

 思えば、異常なまでの疲労からこれを推し量るべきであった。

 ブロゴーンの懐妊(かいにん)に気づかなんだは、我が不徳の成すところよ……。

 そして、よくぞこれを見逃す決断を下した!

 ホッパーよ! 貴様こそ真の勇者! 尊敬すべき我らが宿敵よ!』


「その言葉……素直に受け取っておこう」


 律儀にも己が非を詫びる大将軍と勇者が、しばし互いを見つめ合う。

 千年前の戦役でも実現しなかったであろう光景を、騎士たちも聖竜も固唾を飲んで見守っていた。

 しばらくそうした後……これを打ち切ったのは、ザギである。


『……いや、こうして貴様と話せて良かった。

 では、さらばだ!

 先にも言った通り、もう二度と会うことはあるまいがな!』


 幻影の大将軍は、腰の鞘から伝説に(うた)われる魔剣を抜きながらそう言い放った。

 すると、三将軍の虚像は消え失せ……。

 代わりに、霧状の闇がブロゴーンを包み込んだのである。

 そしてそれも、ごくわずかな時間でこの世から完全に消え去り……。

 ブロンズ像と化したキルゴブリンらを除いて、この戦場から魔人はいなくなった。


「大将軍ザギか……すごい奴だ」


 これから先、ますます苛烈になるだろう戦いを予感し……。

 ルミナスホッパーがそう、ぽつりと独り言を漏らした。

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― 新着の感想 ―
[一言] あえて見逃した魔人が子供を育てるとか、この展開はどういうかたちにしろ魔人サイドにも救済がないとアカンやつやね 既に完結してるみたいだけど、特撮の王道を煮詰めたであろうこの作品に相応しいハッピ…
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