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バッタの改造人間が勇者召喚された場合  作者: 真黒三太
第四話『輝きの魔術師!』
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Bパート 3

 魔人という存在の何が脅威かと言えば、人間が及ばぬ身体能力と恐るべき異能もさることながら、その神出鬼没さこそが最大の脅威と言えるだろう。


 王城大正門前に突如として現れた、鉱石魔人ミネラゴレム……。


 合同葬儀会場に、キルゴブリン共を率い出現した毒液魔人ドルドネス……。


 王都上空から天災のごとく魔風(まふう)を吹き荒らした斬風隼魔(ざんぷうじゅんま)ハマラ……。


 いずれの出没もそこに生きる人々にとっては不意打ちそのものであり、もたらす被害と恐怖の大きさもそこに由来するところが大きい。

 しかるに、再びキルゴブリンの軍勢を率い現れた青銅魔人ブロゴーンはどうであるか……。

 先日、この女怪は魔力覚醒の儀式を行っていたマナリア平原にやはり突如として現れ、王国にとって重大な意味を持つこの儀式を台無しとした。

 だが今回、ブロゴーンとキルゴブリンたちは王都から十分な距離を置いた街道にその姿を現し、悠々(ゆうゆう)と進撃を開始したのである。


 ――もはや、最大の脅威と言える勇者は居ない。


 ――ならば、人間ごとき相手に不意を打つ必要など無し。


 その堂々たる行軍ぶりは、これを率いる女魔人の言葉ならぬ言葉を伝えているかのようであった。


 これを受けて、黙って王都入りをさせるレクシア王国ではない。

 交代で空中哨戒(しょうかい)の任に就く竜騎士が最速でこれを発見し、手旗信号を用いてただちに王都を囲む城壁に設けられた見張り台へ伝達した。


 この時がため、王国騎士団は伝令の数を大幅に増してある。

 ブロゴーン率いる魔人軍はその規模も進行速度も正確に首脳部へ伝達され、ただちに騎士団の出撃が決定したのであった。


 動員可能な騎士たちが即座に王都周辺部へ展開できたのは騎士団長ヒルダによる訓練の賜物(たまもの)であったし、警戒の鐘が鳴り響くやいなやただちに所定の避難場所へ隠れた王都民の協力あってこそであっただろう。

 主要な道を迅速に開けるだけでも、騎馬を走らせる上で大いなる助けとなる。

 言ってしまえば此度(こたび)の戦いは、王都に住む全ての人々が協力しての総力戦であるのだ。


 王国騎士団と魔人軍……。

 かつてない規模で結集した両者が、王都へ至る街道で睨み合う。

 守るべき民衆を交えず、純然たる軍事力として魔人と人間が相対するのは今代においてこれが初のことであった。


 そして初と言えば……王国の象徴たる巫女姫ティーナが、最前線に立つというのもまた初のことである。

 今の彼女は鎧こそ身に着けていないものの、騎乗し手には始祖から受け継いだ石杖(せきじょう)を握りしめていた。

 その姿は、大神殿に飾られる軍勢を率いる初代巫女の生き写しそのものであり、これは騎士たちの士気を否応なく高めたのである。


「――当代の巫女か。

 臆せず前線に出てきたことは、褒めてやろう!」


 キルゴブリンたちの先頭に立った青銅魔人が、街道中に響き渡らんばかりの堂々たる声音でそう告げた。


「人々を守るのは勇者だけではない!

 我ら騎士団と姫様の力、目に物見せてくれよう!」


 巫女姫に代わって応じたのは、騎士団長ヒルダである。

 指揮を執る上での利便性から、今回彼女は竜ではなく騎馬に騎乗し、ティーナの馬へ寄り添うようにしていた。

 代わって竜騎士隊はかつて勇者を同乗させた騎士スタンレーが率いており、ドラグローダーを先頭に騎馬部隊の上空で滞空する様は勇壮の一言である。


「よくぞ大言を吐いた!

 勇者に続き、我が最愛の相手へ捧げる生贄となる栄誉を与えてくれよう!」


 小癪(こしゃく)にも勇者の戦闘不能を強調してみせる魔人であるが、それで揺らぐような者はこの場に居ない。

 皆が皆、覚悟を決めた上で馳せ参じているのだ。

 一軍を率いる者同士、声によるぶつかり合いはそれで終わった……。

 そしていよいよ、開戦の時が訪れたのである!


「――蹂躙(じゅうりん)せよ!」


 ――キー!


 ブロゴーンが号令の下、キルゴブリンの軍勢が粗雑な鍛冶仕事で生み出された得物を手に全速力で駆け出す。

 そこには、戦場で存在し得るいかなる駆け引きも含まれていない。

 単なるバンザイ突撃であり、特攻である。


 時に末端の兵を単なる数的単位として処理し、死ぬことをも仕事の内とするのは人間の世にも存在する(いくさ)の習いだ。

 だが、キルゴブリンに関してはそれが当てはまらない。

 彼らの場合、命を捨てることは選択肢の一つではなく前提である。


 ――代わりなど、畑で採るかのごとく都合がつく。


 それがキルゴブリン最大の強みであり、しかも、彼らは魔人王の力で今の姿に進化させられた際、自らの命に対する執着を思考から切り捨てられているのだ。


 ――キー!


 ――キー!


 未発達な発声器官で耳障りな雄叫びを上げながら、魔人の尖兵たちが迫り来る……。

 それらは王国騎士団にとって――何らの脅威ともならなかった。


 竜騎士が、彼らのみに扱いを許された混合弓を引き絞り文字通り矢の雨を降らす!

 並みの弓ではない。

 竜の遺体から形見分けした素材を用いた、特製の品である。

 それらは次々とキルゴブリンに命中し、これを爆散させていった。


 ドラグローダーの活躍ぶりなどは、その比ではない。


『狙わずとも良いのは、楽でいいのう!』


 鋼鉄竜の口から放たれた無数の火球は着弾と同時に小規模な爆発を起こし、一撃につき数体のキルゴブリンをまとめて処理してみせたのである。


「――かかれ!」


 キルゴブリンの出鼻をくじいたところでヒルダが号令し、騎馬隊が一斉突撃を開始した。


 ――突撃(チャージ)


 世界を問わず、騎馬兵にとって最大最強の威力を誇るのがこの戦法である。

 創造性を持たぬ種族の悲しさであろう……それを防ぎ得る長柄武器(ポールウェポン)を末端に支給することなど在り得ぬ魔人軍にとっては、致命の一手であった。


 しかも王国騎士団のこれは、何の工夫もない単調な一斉突撃ではない。

 上空からは竜騎士隊が引き続いて援護射撃を遂行し、ドラグローダーは横合いから超低空飛行で爪を尾を振るい魔人軍のやわらかな横腹を突いていくのである。

 いずれも本命である騎馬の突撃を邪魔せぬよう配慮した規模のものであるが、その効果は絶大だ。


 囲い込み、あるいは挟み込む……。

 これは世界も時代も問わず、名将と呼ばれる者が必ず実行してきた必勝の形であり、極論を言えば全ての戦術はこれを実現するためにこそ存在する。


 今、王国軍は飛兵(ひへい)を用いての立体的な挟撃体制を構築し、人類を蹂躙すべく現れた異形の軍勢を逆に蹂躙し返してみせているのだ!


「――フン」


 後方からこの状況を見て、しかし、ブロゴーンは不敵に笑う。

 その手にはすでに、巫女姫の防護を打ち破り勇者をブロンズ像と化したあの魔杖(まじょう)が握られていた。


「なるほど、なかなか見事なものだ。

 今回連れて来た程度の数では、まともに戦って勝つことはできぬだろう……」


 その唇を不敵に歪める。


「ならば、まともに戦わねば良いだけのことよ」


 王国騎士団の差配に、ミスはない。

 だが、道理というものを捻じ曲げるのが魔性の技なのだ……。

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