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バッタの改造人間が勇者召喚された場合  作者: 真黒三太
第四話『輝きの魔術師!』
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Aパート 2

 初代巫女の墓標樹から数百メートルばかりの距離を置き待機していたのは、続いて儀式に挑む子供たちや保護者たちである。

 組み分けによっては待ち時間が長くなることもあり、私語をたしなめられたりといったことはない。


 そのため、集まった子供たちもその保護者たちも、めいめいに世間話へ興じていたものだった。

 彼らが私語をやめ、一斉に遠方の墓標樹へ目を向けたのは、特別枠としてこの儀式へのぞむ勇者の番がきた時である。


「異世界から来た勇者様には、魔法も使えるのかねえ……?」


「でもでも、魔法なんか使えなくたってブラックホッパーはすごいんだぜ!」


「そうだよ! オレ、こないだ港で空飛ぶ魔人を蹴ってるの見た! すっごい高さを跳んでたんだ!」


「ぼくもこないだ、真似しようとして木から落ちたのを助けてもらった!」


「!? アンタ! 絶対にやるなって言ったのに!?」


「ご、ごめんよ~」


 異形の姿に変身する勇者の噂話と言えば、今、王国で最も熱い話題だ。

 ここがもし地球であったなら手に手にスマートフォンを構えていること疑う余地もないが、そのように便利な品など持たぬ王国民たちは目と記憶に焼き付けるべく、遠方の儀式を注視していたのである。


 異変が起こったのは、その時だ。

 巫女姫自らが洗礼を授けようとする様にかぶりつきでいる人々の、さらに後背……。

 おだやかな平原にはふさわしくない、霧状の闇が突如として生み出され急激に広がり始めた!


「……ん?」


「お、おい!? 後ろを見ろ!」


 光ある世界に生きる者として、闇の魔力が持つおぞましき波動を本能的に察知した人々が一斉に背後を振り返る。

 果たして、そこに展開していたのは彼らが予想した通りの光景であった。

 何となれば、勇者の話題と同様……こやつらに関する噂話も今では聞かぬ日がないからである。


 ――キー!


 霧状の闇から次々に姿を現したのは、魔人族の尖兵――キルゴブリンたちであった。

 その数たるや、実に多い。

 これなるは、もはや集団ではなく軍団であり、勇者にその都度阻止されながらも魔人族が順調に負の力を集めていることが規模から知れた。

 キルゴブリンらが、瞳孔(どうこう)なき(まなこ)を殺意で歪める。

 だが、次なる戦いに向け準備を進めていたのはこちらとて同じ……。


「皆の者! 慌てず墓標樹の方へ避難せよ!」


「ここは我ら騎士団が引き受けた!」


 人々を先導する必要性もあり、当然ながらこの場には騎士団長ヒルダを始め多数の騎士たちが配置されている。

 しかも、彼らは神出鬼没な魔人族の襲来に対応するべく日々猛訓練を続けており、その動きは迅速のひと言なのだ。

 すぐさま最も安全と思われる場所に人々を誘導しつつ、前衛に立ち剣を抜き放つ。


 ――キー!


 己が命など存在せぬかのように捨て身で襲いかかる魔人兵と、人々の命を背負いし騎士たちがぶつかり合った!


 ――キー!


「あなどるな!」


「勇者ばかりが魔人の脅威ではないと知れ!」


 怒声と金属のぶつかり合う音が、平原内に響き渡る。


「――フッ! ハッ!」


 乱戦の中、目覚ましい活躍を見せているのは他ならぬ……騎士団長ヒルダだ。

 金色の髪をなびかせ、縫うようにしてキルゴブリンらの間を駆け抜ける。

 周囲の殺気を的確に読む女騎士に魔人の振るう凶刃は触れることあたわず、逆にすれ違いざまひらめく剣閃の前に次々と倒れ爆散していくのだ。


 ――キー!


「……甘いっ!」


 しかも、剣だけに頼るかと言えばそうではない。

 時にしゃがみながらの足払いを叩き込み……。

 時には得物を突き出すキルゴブリンの腕を掴み、見るも鮮やかな(やわら)でこれを投げ飛ばす……。

 勇者ショウとの特訓で身に着けた異界の技は、魔人相手に抜群の威力を発揮したのだ!


 ――キー!?


 ヒルダたちの実力は、予想外のものだったのだろう。

 命を捨てることをいとわないはずのキルゴブリンたちも、思わずたたらを踏んだ。

 だが、気圧(けお)されるのはまだ早い。

 レクシア王国に魔人が現れる時、必ずこの叫び声が響き渡るのだから……。


「変ンンン――――――――――身ッ!」


 異変に気付き、儀式を切り上げたのだろう……。

 素晴らしき俊速でこちらに駆け寄りながら、勇者ショウが流麗な動きと共に変身の叫びを上げた!


「とおっ――――――――――!」


 爆圧的な光をまといながら、勇者が跳び立つ!

 人知の及ばぬ跳躍力により、避難する人々の頭上を軽々と跳び越えながら、異形の戦士がキルゴブリン軍団の中へ降り立った。


 その全身は漆黒の甲殻に覆われており……。

 関節部からは剥き出しの筋繊維がみりみりと音を立てている……。

 人間の頭部とバッタのそれをデタラメにかけ合わせたかのような異貌(いぼう)が、真っ赤な目で魔人共を睨み据えた。

 その首にはためく真紅のマフラーは、人々との絆そのもの!


「おれは勇者――ブラックホッパー!」


 勇者が名乗ると同時、避難する人々から歓声が沸き上がった。


 ――キー!


 それに負けじと、キルゴブリン共も威嚇の声を上げる。

 が、そのようなこけおどしが通じるホッパーではない。

 だらりと両腕をぶら下げ……軽く腰を落としたその姿は、すでに技の始動体勢なのだ!


「跳弾ンンン――――――――――ホッパーキック!」


 ブラックホッパーが、必殺の跳び蹴りを放つ!

 常のそれと異なるのは、華麗な空中前転を交えず矢弾のように直線軌道を描いていることだろう。


 ――キー!?


 その直撃を受け、一体のキルゴブリンがただちに爆散した。

 しかし、今回見せた技は敵一体を仕留めて終わりという生やさしい代物ではない。

 何と! たった今蹴り倒したキルゴブリンを踏み台とし、ただちに別のキルゴブリンへと跳び蹴りを放ったのだ!


 ――キー!?


 そのキルゴブリンも爆散し、それをまた踏み台としたホッパーの跳び蹴りが別のキルゴブリンへ襲いかかる!


 技の名が示す通り、これは跳弾だ。

 ホッパーはその身を、死を招く跳弾へと変じたのだ!


 ――キー!?


 ――キー!?


 ――キー!?


 避けることも耐えることもあたわず……キルゴブリンたちが次々と爆散し、その数を減らしていく。


「あるひふぉふぉ! ふぇふはうぞ!」


 おそらく、「主殿! 手伝うぞ!」と言いたいのだろう……。

 新たに購入した串焼きを大急ぎで頬張りながら、レッカが戦場へと馳せ参じる。


「よし! 来い! レッカ!」


「おうよ!」


 少女の全身が光に包まれ、その姿が変じていく……。

 光が消え去った中に現れたのは、この世界の外から持ち込まれた(ことわり)によって駆動する二輪車――ドラグローダー・バイクモードである。


「とおっ!」


 また一体のキルゴブリンを蹴り倒し、これを踏み台としたホッパーが見事な跳躍と共にローダーへ飛び乗った!

 人機一体と化したドラグローダーが、機械竜そのもののフロントアーマーに備わる(まなこ)を輝かせる。

 その車輪は瞬く間に高速回転を開始し、キルゴブリンたちの中へと恐るべき瞬発力で車体を滑り込ませた!


「ローダー――」


『――ホイルスピンキック!』


 ホッパーの巧みな重心移動により、ローダーが前輪を用いたウィリー走行を開始する。

 そのまま自らの車体をコマと化し、後輪を用いた回転攻撃を加えた!


 ――キー!?


 これを浴びたキルゴブリンが、たまらず吹き飛ばされ爆散していく。

 そして、此度(こたび)の技もまた一撃で終わる代物ではない……。


 前輪から後輪へ……。

 後輪から前輪へ……。


 ウィリーに用いる車輪を次々と入れ替えながら回転し、残る車輪でキルゴブリン共をなぎ払っていくのだ!

 先に見せた連続跳び蹴りが死の跳弾だとするなら、これは破壊のコマだ!

 ホッパーは巧みな重心移動と熟達した操縦手腕でドラグローダーを破壊のコマと化し、暴威(ぼうい)の旋風を巻き起こしたのである!


 ――キー!?


 ――キー!?


 ――キー!?


 またしても、多数のキルゴブリンたちが倒され爆散していく……。


 ――キー!


 これには、残るキルゴブリンたちも攻め手を見い出せずたじろぐばかりだ。

 だが……、


「……現れたな、ブラックホッパー」


 人垣と化したキルゴブリンらの奥から、戦場には似つかわしくない涼やかな声が響いた。

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